「こういう美は力です」

2009年08月08日 13時25分00秒 | B地点 おかか

 

 

オムイ外伝シリーズ 第五部(人情濃厚篇) 第20話



オムイ追討に執念を燃やす、追忍である。
彼には、忘れられない思い出があった……。
―― 或る暑い夏の日のことである。

彼は、オムイに関する重要な情報を得た。

「何ッ? オムイは蝶に化けているだと?」

「蝶って、あの、ひらひら飛ぶ、チョウチョのことか?」
「はッは~!」

彼は笑った。オムイの浅慮を笑ったのである。
見付け出しさえすれば、蝶など、たちどころにひねりつぶすことができる ―― そう考えたからである。

「馬鹿め! わ~ッはッはッは~~ッ」
彼は、蝶を ―― 蝶に化けたオムイを、探しに出かけた。
発見までは色々と苦労をしたが、
遂に、見付けたのである。

「い、居たッ!」
蝶に化けている、オムイである。
その姿は、美しく、愛らしかった。
追忍は、思わず、動きを止めた。
オムイは、次々と姿を変える。
その度に、目にもあやな光景が展開される。
こんな小さな虫ケラなど、すぐに殺せる ―― そう自分に言い訳をして、彼はしばし見とれていた。
実際、小さな虫に過ぎない。
風が一吹きすれば、飛ばされてしまいそうだ。
この足で蹴りを入れるだけで、俺が勝つ ――
この爪で引き裂くだけで、すべてが終わる ――
追忍はそう考えるのだけれども、しかし、どうしても動くことができなかった。
そして、その日は結局、オムイを「逃がしてしまった」のだ……。
何故だろう? 何故、奴を殺せなかったのだろう? ―― と彼は自問した。
「美は力である」という言葉の意味が、判ったような気がした。
オムイが創り出した美の力に、今日、俺は負けたのだ。 いや、負けはしなかったにしても ―― 勝てなかった!
だが、勝てなかったことが、なんだか嬉しいような気もしたのだ……。
―― これが、彼が心に秘めている、夏の日の思い出である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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1 コメント

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Unknown (ムイシュキン公爵)
2009-11-12 00:50:11
おいおい(笑)。
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