残映

2010年01月30日 16時59分00秒 | B地点 おかか

 

 

寒い日々が続く

いや、続き過ぎる
冬は果てしなく、春は永久に巡ってこない ――

そんな錯覚にふと囚われる時もある

うち続く冬に、次第に心も凍てつき、

春を待つ希望すらも、かじかんでしまうのだ

おむの奴も、そんな気分らしい

もう冬の寒さにはうんざりだ ―― そんな表情だ
私たちは本来、季節の変化に敏感だけれど

春の気配を捉える感性も、今は萎えている

だから、意識して、希望を見いださねばならぬ

真剣に耳を澄ませば、春の足音が聞こえる筈なのだ

と、気持だけは先走るけれど、

冷気は否応なく、私たちの心身を責め苛む
―― そんなことを感じたり考えたりしながら、

私は今日も、水を飲みに行く
舌を刺すような冷たさは、いつものことで、

この水辺でも当分、春は感じられそうにない
だが、この時、水面の明るさが、妙に気になった

(なお今の場合、「水面」は「みなも」と読んで欲しい)
夕映えの空が水と重なって、

何とも言えない不思議な色を呈している
暮色が迫るこの風景には、或る種の暖かみがあり、

私はこれが春の気配だと直感した
直感だから、理屈ではない

そう感じたかったから ―― 私は自分を騙したのかも
おむの奴に話してやろうと、上に戻ると、

奴は、丸くなって、寝ていた
終わりのない冬に疲弊してしまったかのような姿で、

奴は、小さな寝息を立て始めた
奴が起きる頃には、残照は消えているだろう

その時、奴は何を見、何を感じるのだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


肚に一物あるらしい

2010年01月29日 16時08分00秒 | B地点 おかか

 

 

オムイ外伝シリーズ 第三部(武芸帳篇) 第51話



どうしてもオムイに勝てない追忍である。

彼は遂に、文字通り捨て身の戦法を考えたのだった。

爆弾を、飲み込んでしまったのだ!

ごっくん
腹の中に収めた爆弾で、我が身もろともオムイを爆殺しようというのである!
「ふッふッふ……。かかってこい、オムイ!」
「どうしたオムイ! 臆したかッ?」

「む? 追忍か!」
「よかろう、相手になってやる!」

襲いかかるオムイ。

ダダダダダッ
「おッと! そこまでだ、オムイ!」

「何ッ!?」
「俺の腹の中には、爆弾があるのだ!」

「ば、爆弾だと!?」
「くッくッく……。爆弾を飲み込んだのよ……」
「ううッ……抱き込み心中か……?」
「その通り! これが爆発すれば、相打ちだ!」

「き、貴様……命が惜しくないのか!?」
「ふん。……さあ、どうするオムイ?」
「き、貴様ぁ……」
「待てよ……爆弾は貴様の腹の中だな?」

「ん? そうだとも」
オムイは、すみやかにその場を立ち去ったのだった。

すたすたすたすた
「し、しまった! 奴がそばに居なけりゃ意味がない!」
「……あ、あれ? 腹が痛くなってきた」
「あいたたた! 爆弾を飲み込んだせいか!」
「うぐ~ッ! 痛い! 苦しい~ッ!」
「ぐはああああーーーーッ!」
ガクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あなたは信じますか

2010年01月28日 16時06分00秒 | B地点 おむ

 

 

ここにある、この木の枝。
この木の枝は、奇蹟を呼ぶといわれている。
この木の枝にキスをすると、いいことがあるという。
「へっ! 奇蹟の枝だと?」 
「あ、おかか先生……」
「いいことがあるだと? そんなのは迷信だよ」
「まさか本気で信じてるわけじゃあるまい?」
「……う~ん? でも、ロマンチックじゃありませんか?」
ちゅっ
「ふあ~あ! 馬鹿らしい!」
「あ~? どうだ? 奇蹟は起こったか?」
「……さっそく、いいことがありましたよ」
「何だと?」
「おかか先生のアクビを見ることができました」
「……」
「は、ははは! それがいいことだって?」
「ふん。お笑いだよ……」
おかか先生は、照れてしまった。

でも、まんざらじゃなかったみたいだ。
奇蹟はいつも起こってる。それが日常なんだ、きっと。

おかか先生も、ほんとはそのことを知っているんだ。