雨が降る とても強い台風が 近付いている |
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雨脚は 弱くなったり 強くなったり | |
そんな淋しい 雨の日に ―― ヒガンバナが ひっそりと 誰にも知られず 花を咲かせた |
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やっと咲いたのに ―― こんな日だから 誰も花を見に来ない |
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雨滴に濡れて 美しいのに ―― 台風で すぐに散ってしまうかもしれないのに ―― 花を見る者は 誰もいない |
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「で、でもさ。ヒガンバナどころじゃないよ!」 | |
「台風だもの! 早く避難しなくちゃ!」 | |
「うむ。私もここで、雨を避けるぞ」 | |
「僕は……僕は、ここにします」 | |
「そんな所じゃだめだ! 濡れてしまうぞ!」 | |
「もう少し! もう少しだけ、ここにいます」 | |
「ヒガンバナを、見ていたいから」 | |
「ここなら、ヒガンバナが、よく見えるから……」 | |
ダイヤよりも尊く
雨の中の涙
誰も気付かない
それは、切なくも尊き輝き。