黒猫次元物語 一

親父です。
もう隠しておけないので知らせます。
次元が外に出て行ったきり、
4週間以上も帰ってこない。

アメリカでこのメールを読んだ瞬間、
『ウォォー』アタシは声をあげて泣いた。
泣きながらこんな声がでるなんて、
号泣という言葉の意味をこの時知った。

生後一ヶ月で生みの親と離され、
次元は無理矢理アタシの息子にされた。
アタシの家までの車中、泣き続ける次元。
（ごめんね、無理矢理ママから引き剥がして）
家へ着くといちばんに、
用意していたトイレの中に次元を置く。
（きっと、おしっこしたい筈…）
次元は緊張のせいか、オスワリのまま動かない。
次元の体を引っくり返し、
コチョコチョコチョ…
人指し指で膀胱のあたりをくすぐって
もう一度、次元をトイレに座らせる。
ジョォォォォォ～～～～ッッッッ
堰を切ったように流れ出るおしっこ。

この時アタシと次元は本当の親子になった。

『ママはしばらく旅にでるけど
次元くんの為だけに帰ってくるからね』

何度も何度もそう言って聞かせた。
自分で決めて出た旅なのに、
隣に次元がいないのは苦しい。
寂しさに耐えかねて国際電話をかける。
別の時に電話をかけたら留守番電話。
次元にメッセージを残すアタシ。
じぃっと電話機を凝視めて
メッセージを聞く次元。
次元にも限界がきたのね、
彼はアタシを探す旅に出た。

それから5回目の夏が来る。
次元はまだ帰ってはこない。

『野生味の欠落した猫』『マザコン猫』
様々な称号を父から贈られた次元。
次元との日々を少しずつ残していこうと思う。

photo; 次元の代わりに旅行に連れて行ったぬいぐるみ
次元がアタシの所へ来た時と大きさも顔も全く同じです
（ジジのぬいぐるみ：高さ17cm）