マッチを擦って
堅めに絞った新聞に火をつける
松や杉の葉を集めた上に薪を延べ
それをそっと差し込む
頃合いを見計らって
優しく団扇で火をあおる
焰は赤や朱に姿を変え
時々青く、緑に輝いた
そうして湯が沸けば
熱いのゆるいのと
五右衛門風呂を跨いだ
湯はご馳走だったころの
とおい昔の
まだ心に残る
その榾火の
温とさ
よ
雪待ちの空は
魚の腹の色で
粒状の何かしらが
鱗になって
ザワザワと
蠢いている
あんなに雲の底は
暗いのに
サンゴの授精のような
白く灰色のかがやきを
30㎞先の
山頂に見ることができる
ああ
それは気配というものだよ
ゴムがちびた杖を大地に刺しながら
カタカタ老婆が笑う
今朝方うすら雪が積もったがね
あんた寝てたでしょ
その後は雨だった
図星だね
雪待ち顔の気配が
漂っている
そういうシーズンが来たと
コンビニのレジ横の
賀状の種種様々
赤いバイクの郵便局員が
「今日の分売れた?」
と言い合って
釣瓶落しの町を
すれ違っていく
来年の干支が
ふいにわからなくなった
自分に驚きながら
正月が来ることを
まだ
漠とであるが
感じてみる
山際すれすれの光が
影を際立たせ
ため息のような吐息にも
影を作る
私の背丈には
もう届かなくなった冬の西日の
まだ空とビルの窓を染め
嗚呼
どうしようもなく
その消息が
知りたくて
この黄昏れた町を
走り出す
行き先も
見えなくなった
残照の
この空の下を