goo blog サービス終了のお知らせ 

わしには,センス・オブ・ワンダーがないのか?

翻訳もののSF短編を主に,あらすじや感想など、気ままにぼちぼちと書き連ねています。

夕べと朝と夜と~オクテイヴィア・E・バトラー②

2007-10-15 00:53:07 | 海外SF短編
 デュアリェイ=ゴード病(LDG)―世の中の癌の大部分と深刻なウイルス性疾患のいくつかを治す薬剤「ヘデオンコ」により引き起こされたもの―に罹患した者は,多少なりとも自分の身体を切り取り,そしてみな遊離する。

 主人公リンの両親もこのLDGの患者であり,酸鼻を極める最期を遂げました。

 父は母の肋骨を何本かへし折り,心臓をいためつけた。ほじくり出して。それから,父は自分をかきむしりはじめた。皮膚も骨も破って。ほじくり出した。そして息絶えるまでになんとか自分の心臓にたどりついた。

 リンは,食餌療法により今は発病を抑えているものの,早晩発現することはまちがいありません。

 ある日,リンは,同じ境遇のアランとともに,アランの母親が暮らす,LDG患者専門の施設を訪ねることとなります。

 驚くべきことに,そこでは,LDG患者が,自傷行為を行わず,芸術活動にいそしむ姿さえ見られたのであります。

 施設長のビアトリスは,LDG患者をなだめ,和ませることのできる不思議な能力を有していました。

 リンは,ビアトリスに説明のつかない反発心を持つのですが…。


 ネタばらしをしてしまいますと,ともにLDG患者である両親から生まれた娘には,LDG患者を引き寄せる強力なフェロモンを発散させる形質が遺伝するということなんですな。

 特殊なコミュニティの中で,まるで「女王蜂」のような存在になることに対して,リンは苛立ち,嫌悪を覚えますが,一方で,自らの存在価値がこれほど明らかな役割がほかにありましょうや。

 「高度」な人の心の動きも,一皮むけば,生物(ここでは,昆虫かな)の本能に過ぎないという事実が,読者の目の前に厳然と示されているような感じがしますなあ。もちろん,恋愛というものにもね。

 結構過激なテーマを,静かなる筆致で,沈鬱さをたたえつつ,じっくりと語る,静かなる迫力をにじませる名品であると思います。

 作者は,早世してしまいましたのが残念です。

 それにしても,タイトルはどういう意図でしょう。

 これからリンが辿る道は,暗くて長い道のりなんだろうか。

 リンがビアトリスに自らの将来を見るラストは,実に印象的です。

 ○ 「血を分けた子供」



 

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。