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【ゲームクエスト】ル コンチェルト pp

2011-01-21 20:00:49 | ゲームクエスト
ル コンチェルト pp(ピアニシモ)(プレイステーション)

2008年12月16日掲載

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 「のだめ」のヒットやフィギュアスケートの盛り上がりで、テレビからクラシック音楽が流れることが多くなったように感じる。クラシックと言ってもピアノ曲とか弦楽四重奏曲とか色々あるが、中でもオーケストラ(管弦楽)曲は最も迫力がある。

 「オーケストラやっている奴らはみんな我武者羅に練習し、生活の多くをオケに捧げる。なぜなら、オーケストラは遊び半分ではできないからなんだ」とは、友人の親父さんがテレビで聞いた言葉である。そんな受け売りの又聞きではあるが、学生オケをやっていた私にとっては実感がある。もちろんクラシックに限らずどんなジャンルの音楽でも多くの練習が必要だ。ただオーケストラの場合はとにかく人数が多い。音楽を作り上げるには楽器がうまいのは当然で、さらに数十人が指揮者の下に一つのイメージを確立しなければならないのである。そこがオーケストラ特有の厳しいところであり、最も楽しいところだろう。

 私のいたオケのメンバーはお互いやたらと仲が良かった。一日中集まっていたし、休日もみんなで遊んでいた。学業を完全放棄していたのは私を含めて何人もいた。傍から見ると異様な集団だったろう。でもそれは全員が意識を一つにするのに必要だった。生活全てがオケだった。あるアニメで言えば、シンジとアスカの共同生活のようなものだ。一人が場違いな演奏をして他の数十人の努力をブチ壊すわけにはいかなかった。数十人いるからといって一人の責任は数十分の一ではなく、逆に数十倍になるのだ。必死になるしかない。

 プロオケや民間のアマオケでは団員が一日中一緒にいるなんてことはないだろうが、学生オケはどこも大体こんな様子だろう。「のだめ」では(よりプロに近い音大の話ではあるが)そんな雰囲気が再現されていて懐かしかったし、全員が本気で取り組むその雰囲気こそが共感を得た理由だろう。

 さて、「のだめ」をデコイにして廃人だった当時の私を正当化したところで、今回は「ル コンチェルト」シリーズから「pp(ピアニシモ)」を語ってみよう。このシリーズは私の知る限り世界初の指揮者ゲームだ。同時発売の「ff(フォルティシモ)」とは主人公と収録曲が異なる。「pp」は女性指揮者の武者修行編で、「ff」の男性指揮者もちょっと出てくる。

 指揮者の(表面的な)仕事にはいくつかあるが、本シリーズでは「全体の音量の指定」と「強調する楽器セクションの指定」をする。はっきり言って、これだけでは普通の音ゲーと変わらない。では何が特徴なのか? 本シリーズではプレイヤー(指揮者)が指示を間違えると、演奏している曲の音程がグニャグニャになるのだ。それにしても、音程がおかしくなるのは指揮者のせいではない気もする。このことは「ff」の感想でも指摘している方がいる。

 一度音程がおかしくなると、笑ってしまって指示どころではなくなり、ゲームオーバーになってしまうことも多い。本シリーズの売りとは、この変な演奏なのではないか? その証拠に隠しコマンドで変な演奏を鑑賞することができるのだ。その際に、例えばモーツァルトの「フィガロの結婚」が「フィガロの血痕」と表示されてさらに笑ってしまう。だがこういう演奏を面白がっているだけでなく、それが持つ意味をもう少し考えてみよう。

 音程も取れないようなひどい演奏をされると、千秋真一でなくとも「お前達、本当に練習してきたのか?」と強く言いたくなる。「お前達の練習不足を指揮者のせいにするな!」とも言いたくなる。だが考えを一巡りさせると、演奏の不安定さはやはり指揮者の不安定さから来るのだと結論付けざるを得ない。指揮者がどっしりと構えずに目先小手先にとらわれていては、人々に感銘を与える演奏などできるはずがない。千秋真一だってそれに気づいたではないか。

 指揮者の仕事において、演奏中に指示を出すことなど本当に表面的なことに過ぎない。大事なのは全員の意識を統一することだ。しかも自分のやりたいように統一するのではない。指揮者は本番の演奏で練習中とは異なる指揮をする時がある。指揮者は本番中の団員の意識を読み、その盛り上がりを汲み取っているのだ。生活をともにした団員同士の熱伝導率はきわめて高く、一人の熱演は周囲を感化する。そういうライブ感を団員に伝えるバトン技術をもって、団員のやりたい演奏を引き出して統一するのが指揮者の最大の仕事なのだ。

 そう考えると、本シリーズにおいて指揮のせいで音程が変になるのも納得ができる。団員のやりたい音楽ができなければ、意欲を失ってぞんざいな演奏をするのも当然だ。逆に団員が盛り上がってきた場合には、厳密な指示を出さずとも音楽が自発的に進行する「ボーナスゾーン」というシステムまであるのだ! 意識のシンクロによって「言わずともわかる」境地だ! 全ての人類はニュータイプになれるんだ! 演奏者の心を指揮するゲームなのである!

 このようにメンタル面のマネージメントにまで踏み込んだゲームデザインは音ゲーとしては類の無いものである、とは私の考え過ぎであろうが、何か凄いアイデアの元になりそうなゲームであることは間違いない。


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2 コメント

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こんばんは (どらお)
2011-01-21 21:23:01
当時フォルテッシモ・ピアニッシモ二本パックというのを
喜び勇んで(向こう見ずに)新品で買ったはいいものの、
へなへな演奏からリカバリーできず断念したのを思い出しました。
オケ経験者のおかもろさんの感想が
全然否定的じゃないということで、
またチャレンジしたくなってきましたよ。
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タイトルもへなへなになります (おかもろ(再))
2011-01-22 00:56:46
 どらおさま、コメントありがとうございます。このシリーズの最大の敵は己のへなへな演奏なんですよね。隠しコマンドを入れて、ぜひ脱力タイトルも見てみてください。

 このシリーズ、もうちょっと曲数が多かったら良かったのですけどね。二本パックでちょうどいいくらいです。結構荒削りなゲームですが、上に書いたボーナスゾーンシステムはなかなか爽快で楽しいです。
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