大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

日本の雇用を守るつもりが、雇用を失わせているという事実

2008年12月23日 | ニュースの視点
経営の悪化を理由に、大学生53人の採用内定を取り消した日本綜合地所が説明会を開いた。

西丸社長らは学生に対し1人あたり100万円の補償金を支払うことを伝え、あらためて謝罪した。

一方、麻生総理は新卒者に対する悪質な内定取り消しが相次いでいる問題について「最高裁の判例からも、かなり問題がある。あってはならない」と述べ、職業安定法の施行規則の改正により、内定取り消し企業名の公表を徹底していく考えを示しているとのこと。

麻生総理だけでなく、この内定取り消し問題については世間からの注目度も高いようだが、私は少し大袈裟過ぎると感じる。

今回の内定取り消しの対象となっているのは数百人。何万人もの人が内定を取り消されたという規模であれば話は別だが、今回の規模を考えるとここまで世間で大騒ぎするほどではないと思う。

もし私が今回の内定取り消しを受けた学生の立場だったら、「早めに対処してくれて良かった」と感じるだろう。

今の段階で取り消しを言ってもらえれば、まだこれから再チャレンジできる。内定取り消しをせずに窮状を隠されたまま、いざ会社に勤めてみて初めてひどい状況に気づく方がよほど悲劇だ。

良くも悪くも日本では「就職=永久就職」という考え方が根強く息づいている。だからこそ、内定取り消しを含め、ある程度の自由が必要だと思う。

その上で、学生は慎重に自分が就職する企業を選ぶべきだし、企業側も必要以上に採用人数を確保するようなことは辞めるべきだ。

確かに建前として「内定取り消しはあってはならないこと」かも知れないが、今回の日本綜合地所の対応は、企業・学生の双方にとって良いことだと私は思っている。

また、麻生総理の意向は極めて「表面的な対応」に過ぎないと言わざるを得ない。というのは、パートタイム労働法の改正なども同様だが、こうした対応は日本の「雇用を失わせる」結果を招くことになるからだ。

私は中国・大連で日本企業向けに日本語のデータ入力代行などの業務を行う会社を経営している。

今、この会社に次から次へと仕事の依頼が来ていて、まさに目が回るほど忙しくなっている。

なぜ急にこのような事態になったのか不思議に思い、仕事を発注してくれる会社に事情を聞いて見ると、日本での雇用をやめて日本で行なっている業務を海外で処理するために、その分の仕事を当社にアウトソースしたいとのことだ。

これまで派遣社員やパート社員を中心にした雇用形態で経営していた多くの会社が、相次ぐ法律改正の影響を受け、日本での雇用をあきらめて海外の拠点に業務を移している。これは致し方ないことだと思う。

プリンター生産のグローバル拠点をベトナムに移したキヤノンも日本の厳しい雇用規制を踏まえたうえでの移転だとも考えられる。

日本からの優秀な人材を現地に駐在させ現地採用の従業員を指揮することで、サービスのクオリティを保てる。それならば、機動的に人員の調整をするだけで批判の矢面に立たされるような日本の雇用から撤退しようと考えるのは、不思議なことではないだろう。

多くの官僚や政治家、マスコミはこうした本質を理解しておらず、表面的なことしか見ていない。

特に最近のマスコミ報道を見ていると、マスコミ報道が企業の日本からの流出に拍車をかける結果になっているとさえ感じるほどだ。

日本的な経営が成り立つためには、雇用に柔軟性が必要だ。

選挙対策のために見かけだけの優しさを振り撒いても、結局、雇用全体が失われてしまうだけだ。

日本の官僚・政治家・マスコミの人には、まずは自分たちがいかに表面上のことしか理解していないのかという事実を正しく認識してもらいたい。

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (デンジャラス)
2008-12-24 20:37:20
ほんとだ

しかし
これからどうなんだ…
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ロングテール秘書 (curonikeru)
2008-12-25 12:25:04
SEE
http://blogs.yahoo.co.jp/curonikeru

ロングテール秘書

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機動的? (STN)
2008-12-27 15:52:07
では、機動的にクビになり、路上で派遣労働者が死んでも、別にいいってこと?

アジアに拠点移すって、つまりは、雇用規制の緩い国に進出して、気楽にリストラしたいってことでしょう?

そんな、雇用規制を緩める各国の競争を前提とする、大前氏の考えは本当に正しいのですか?

それよりも、国際間で、雇用規制の統一を図るべきでは?
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