大前研一のニュースのポイント

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バケツの底が抜けた米銀行。安易な国有化は避けるべき

2009年02月10日 | ニュースの視点
米金融機関の融資残高の減少が続いている。

FRBによると全米の約7000行の融資・リース残高は、1月14日時点で7兆800億ドルと直近のピークだった昨年10月の7兆2600億ドルから1800億ドル(2.5%)減少したとのこと。

米政府は公的資金で資本増強したが、貸し渋り是正に結びついていない状況だ。

この状況は、私がこれまでにも何度も言ってきた「米国は日本の轍は踏まないと言いつつ、全く同じ轍を踏んでいる」という状況そのものだ。

今、米国の銀行は大きく2つの恐怖を感じていると思う。

1つは、融資をしようと思っても融資先の企業が倒産するのではないかという貸し倒れに対する恐怖。

そしてもう1つは、自らの業績も悪くなったら国有化されてしまうのではないかという米政府に対する恐怖だ。

このような心理状況が米銀行の貸し渋りを助長している。そして、これはまさにバブル崩壊後に日本の銀行が経験した心理状況と同じだ。

さらに米国の銀行の場合には、そもそも融資資金すらないというのが現在の状況だ。

2009年2月9日号のTIME誌によると、米政府がシティグループ、バンク・オブ・アメリカ等4行の最大手クラスの金融機関救済に注入した公的資金は約1400億ドルに対し、リーマン・ブラザーズ破綻以降発生した4行の損失合計は3350億ドルに上るという試算だという。

このような事態を招いた原因は、米政府が流動性維持を無視して、まともな資産査定もせずに金融機関の救済を行ったからだ。

私は幾度となく述べているが、金融危機は大きく3つの段階を経て推移する。

第1フェーズは流動性危機、第2フェーズは不良資産の償却による資本の毀損、第3フェーズは銀行の貸し渋りによる事業会社の倒産だ。

結局、第1フェーズの「流動性危機」に対処しなかったことが、これだけ大きな打撃を与える結果を招いてしまったのだと改めて思う。

またTIME誌には、シティバンクの救済についても特集記事があった。

この記事によると、1812年に誕生したシティバンクは米国最古の銀行ではあるが、歴史的に振り返れば、繁栄したときもあれば何度も経営危機を経験している。

今さら世界最大の銀行を破綻させるわけにはいかないという理由であれ、あるいは米金融界の大物ロバート・ルービン氏への気遣いであれ、シティバンクを無理に救済する理由はないことを歴史が証明しているという記事だ。

実際、シティバンクはすでに政府が数ヶ月前に注入した公的資金が全く残っていないという始末だ。

このような状況を受けて、米国議員の中には今後、公的資金を注入するなら優先株ではなく普通株として注入するべきだと主張する人も出てきた。そうすれば、将来ターンアラウンドした際には国民にもメリットがあるというのだ。

確かに実行するならこの方法しかないと私も思う。

しかし、これを実行すると「銀行の国有化」につながるという点に注意すべきだろう。

この100年間の欧米の歴史、日本の歴史を振り返っても、政府が企業経営に関与してその事業をビジネスとして成功させることは難しいと言わざるを得ない。

日本長期信用銀行が代表例だ。巨額の公的資金を投じておきながら、そのほとんどが戻ってきていない。

銀行の国有化という道は、魅力的な解決策に見えるだろう。今米国のオバマ大統領もその誘惑に駆られていると思う。

しかし、国にマネージメント能力がない限り、結局は国民の税金を道連れにするだけで何も残らなかったという事態になる可能性が高いと私は思う。

この点について、オバマ大統領には慎重に検討してもらいたい。

1 コメント

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Unknown (邊仲習作)
2009-02-10 16:02:10
戦争は、いつ頃起きると予測しますか?
私は、8月の初旬にまず小島で始まると見ますが。

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