大前研一のニュースのポイント

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反省した東京電力。真実を語らせない周囲とのしがらみに問題/活断層=危険=原子炉停止は短絡的に過ぎる

2012年12月25日 | ニュースの視点

 東京電力は14日、原子力部門の改革案を発表した。

 原子力部門から独立して安全対策を指導、徹底する社内組織の設置など
 を柱に据え、過酷事故につながりかねない「負の連鎖」を断つ
 組織づくりを急ぎ、早期の信頼回復を目指す考えとのことである。

 私自身原子力改革監視委員会の一員として、改革案をまとめる作業を
 指示した。

 このプロジェクトの最終報告は来年の2月ということになっていだが、
 私が担当する範囲はすでに全て終了している。

 では、具体的に何をまとめたのか?

 まず、私が東京電力に求めたことは、「全ての記者会見」の内容を
 書き出して、今振り返ってみて正しかったのか否か総括することである。

 その上で正しくないものについては、
 1.能力不足のため 
 2.知っていたが言えなかった 
 3.外部からの圧力のため 
 のいずれかに分類させた。

 そして、それぞれの場合どのように対応するべきかを指示した。

 同様に45年前に福島第一原発の安全性を地元住民に説明した資料を
 持ち寄らせ、それはどこまで正しかったのかを検証させた。

 原因と今後の対策については、昨年10月私が発表した
 「福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか」というレポートと全てを
 比べてもらい、合意できない部分だけを個別に議論するという
 形を取った。

 議論の対象となったのは5つくらいのテーマだけだった。
 私はかなり明確に指示・依頼をするので、プロジェクトとして
 取りまとめるのは相当早く終了したと自負している。

 改めて調べあげて分かったことは、当時は誰もが「嘘をついていた」
 ということである。

 東電、保安院、官房長官はもちろん、真実を伝える役割を担うはずの
 大手マスコミも同様である。

 3月11日の大地震の後、2日後には炉心溶融していたのに、
 3ヶ月経過しても燃料ピンの損傷などと報道していた。

 結局、昨年の11月まで事実を認めることはなかった。

 「当時は(自分たちも)嘘をついていた」とは言えないだろうから、
 今回の東京電力の改革案について、大手マスコミで取り上げられることは
 ないと思う。

 ある大手新聞社は「恐ろしくて“メルトダウン”という言葉は使えなかった」
 という類のことを言っていたそうだが、私に言わせれば冗談ではない。
 国が大変なときに何を言っているのかと思う。

 ただ今回の改革案をまとめるにあたり、東京電力が自身の過ちを認め、
 しっかり反省したのは良かったことだと思う。

 その意味で「改革監視」委員会としての役目も果たせたと感じる。
 また、参画した東電のチーム員の働きも素晴らしいものだった。
 事実を浮かび上がらせ、分析する能力は非常に高かったと思う。

 結局、彼らに真実を語らせない外部のしがらみが大きな問題だったのである。

 日本原子力発電敦賀原子力発電所の断層問題について協議した
 原子力規制委員会の評価会合は10日、なって問題となっている断層について、
 活断層の可能性が高いとの見解をまとめた。

 また13日には東北電力・東通原発で断層の調査を開始したとのことである。

 「活断層=危険=原子炉は止める」というのはあまりにも短絡的な議論
 ですが、何とかして原子炉を停止させたいと考えている原子力規制委員会
 にとって、絶好の材料となっている。

 他の理由で原子炉を停止させるとなると、いろいろと面倒な議論が
 出てきだが、「活断層がある」と言えば話はすぐに済んでいる。
 
 原子炉が動いていると何か問題が起こった時の責任を問われるから、
 その責任を逃れたいというのが原子力規制委員会の狙いだと思う。

 実際には、活断層の近くに原子炉があったときどうなるのか?
 と言うと、柏崎刈羽原発の例を見るとよく分かる。

 柏崎刈羽原発沖には活断層が確認されていて、新潟県中越沖地震が
 発生した。原子炉の耐震設計は600ガル、制御棒は300ガルに対し、
 圧力容器に1200ガル、その上のクレーンには3000ガルの加速度が観測された
 巨大地震だった。

 しかし、無事制御棒が挿入され原発は安全停止した。
 後は私が提案している冷源と電源が確保されていれば、
 冷温停止に持ち込むことが可能である。つまり、活断層がどんなものであっても
 原子炉を停止させることが出来るのである。

 こうした事実を無視して、「活断層=危険=原子炉は止める」
 というのはお粗末に過ぎると思う。原子炉に関する理解不足である。

 マスコミも一緒になって話題として取り上げているのだから、
 目も当てられない。

 原子力改革監視委員会で一緒に働いているデール・クライン委員長も、
 米国にも活断層はあるがそんな議論は聞いたことがない、と驚いていた。


16 コメント

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核廃棄物 (heibay)
2012-12-26 01:25:45
米国のような広い領土もない日本で、
核廃棄物をどうするのか、
識者の意見をお教えください。
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拓海 (佐藤)
2012-12-26 04:07:27
福島の原発が冷温停止できなかたのは外部電源遮断とバックアップ電源の容量不足だったのだから、各地の原発にこの電源対策や津波対策をほどこして再起動すればひとまず終わりだと思います。何年たっても再起動すらできず、燃料購入で国富を毎年2兆円ずつ失いCO2を垂れ流しながら一部左翼の脱原発のキチガイに付き合うのはおかしいです。太陽光は水素の核融合反応、地熱は地球内部のウラン・トリウムの崩壊熱でどれも核反応に起因しています。自然界はすべて核反応を一次エネルギー源にしています。原発が自然じゃないというのは科学的な思考と論理に反します。
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原発の発電コストは火力より高い (チャンモー)
2012-12-26 21:23:05
原発による発電コストは火力よりも高いことを裏付ける事実があります。福島の事故コストを無視する訳にはいきません。コストが高くても核抑止力を信じる人達は原発を必要と考えるのなら、まずコストが高いことを認めるべきではないでしょうか?コストが高いことを認めずに原発の安全性を論じても説得力を持ち得ません。
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Unknown (Unknown)
2012-12-28 07:18:31
大前さんの意見に今回は賛成。

活断層・・・だからなんなのだ。10万年単位で見るとそんなの関係ない。


ドイツの電力コストは高くなっている。火力が安いとは言い切れない。
代替エネルギーがないと、資源をいい値で仕入るしかなくなる。貿易収支をみると分かる。
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Unknown (Unknown)
2012-12-30 18:52:32
「活断層=危険=原子炉は止める」というのはあまりにも短絡的な議論


というが...
地層学者が「危険」と判断しているのに?

「活断層=危険」が短絡的なのか?
「危険=原子炉は止める」が短絡的なのか?

元原子力工学科博士であり、原子力改革監視委員会の一員である大前さんが発言している以上、より詳しく説明してほしい。

「柏崎刈羽原発の例をとり、活断層がどんなものであっても原子炉を停止させることが出来る」
という判断は短絡的ではなのか?


「米国にも活断層はあるがそんな議論は聞いたことがない」
地震の頻度のまったく違う日本とアメリカの活断層を同列に扱うことは短絡的ではなのか?


著書『平成維新』の頃から尊敬していた大前さんの主張のなかでもっともがっかりさせられました。


次に事故があったときに、電力会社が正直に「メルトダウンです」っていってもらってもなんの解決ににもなりません
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Unknown (Unknown)
2013-01-02 18:53:12
>しかし、無事制御棒が挿入され原発は安全停止した。
後は私が提案している冷源と電源が確保されていれば、冷温停止に持ち込むことが可能である。つまり、活断層がどんなものであっても原子炉を停止させることが出来るのである。

( ゜,_ゝ゜)バカ?
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チャンモーさんへ (naoki)
2013-01-03 17:15:34
>コストが高いことを認めずに原発の安全性を論じても説得力を持ち得ません。

太陽光・風力発電などは安定した電力供給が難しいため、スマートグリッドや高電圧配電、蓄電設備が欠かせませんが、これらのコストはマスコミ等では論じられていません。チャンモーさんの論理は、コストが分からないと説得力がないということですか?
論点は原発が安全ということではなく、活断層が原発施設敷地内にあったら危険で再稼動は認められないという理屈はおかしいということではないでしょうか。
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Unknown(12-30 18:52:32投稿)さんへ (naoki)
2013-01-03 17:24:42
地層学者が「危険」と判断したら「危険」なのですか?
御用学者や御用マスコミが「メルトダウンしていない」と言ったらメルトダウンしていませんでしたか?

地層学者が何を基準に「危険」と言っているのか分かりませんが、地層学者の判断はどの程度の揺れ(加速度)が想定されるということまでに留めるべきではないでしょうか?
活断層の上に建築物があって、建築物にとって「危険」か判断するのは地層学者ではなく建築の専門家(耐震強度から判断)、原発施設があるなら原発の専門家が判断すべきでしょう。
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什の掟 (宮尾)
2013-01-04 18:27:52
> こうした事実を無視して、「活断層=危険=原子炉は止める」
> というのはお粗末に過ぎると思う。原子炉に関する理解不足である。

どれだけ対策をとっても、不測の事態はあり得ます。非常用電源が万全であっても、緊急冷却系のパイプが破断すればアウトです。

30年、40年という期間は設備にとっては長い期間です。1970年製のテレビが今動くかどうか想像すればわかります。末端制御機器は更新されているでしょうが、炉自体は交換できる代物ではありません。しかも炉の内部は強力な放射線に曝され劣化が進んでいるのです。配管系も同様でしょう。

私は、原発の問題は現代の科学技術で克服するのは不可能だと思います。

ダメなものはダメなのです。

会津の名言にありますが、「成らぬものは成らぬ」ということです。
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宮尾さんへ (naoki)
2013-01-05 12:40:22
宮尾さんの考え方では、原発に関わらず何事も前進・進化しないように思います。
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