観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

マレーシアで出会ったイーピンさん

2012-11-02 13:54:49 | 12.10
修士1年 山田佳美

 10月9日昼過ぎに日本を出国し、ソウルを経由して10時間以上かけてマレーシアに到着したときには夜10時を回っていました。
 「マレーシアで研究をするから手伝いとして一緒に行かない?」同期の山本詩織さんにそう訊かれたのは8月初めでした。それまでにも山本さんの研究がマレーシアのゾウをテーマにしたものであるとは聞いていたのですが、まさか自分もついていけるとは思っていませんでした。うれしくて、もちろんふたつ返事で了解しました。
 長い機内の時間がすぎてクアラルンプールの国際空港に降り立ちました。入国審査を済ませ、ゲートを出るとそこはまさに「異国」でした。マレーシアは、日本のようなほぼ同じ民族が圧倒的に多いというのではなく、様々な人種、民族が暮らす多民族国家の名にふさわしい雰囲気でした。
 マレーシアはタイ、シンガポール、ブルネイ、インドネシア、フィリピンと隣り合っていて、そのため人口の6割はマレー系ですが、残りの3割は華人系、1割がインド系だそうです。東南アジア諸国ではシンガポールについで在外中国人の割合が高く、中国はもちろん、タイ文化の影響を強く受けているそうです。スパイシーな食文化や、赤色が多い派手なお寺などにあらわれる異質感は街中や大学でも感じられました。
 到着翌日には、ノッティンガム大学でアイムサさんの学生3人を紹介してもらいました。スポーティなイーピン、イスラム系のヌル、中国系のニン。3人ともとてもフレンドリーで、構内を案内してくれました。とても広い構内は、中央の大きな噴水を囲むようにしてそれぞれ目的別の違う色の棟が放射状に並んでいました。構内にはカフェテリアなどの共有スペースがあり、緑が溢れていました。学生たちは活気があり、明るく、構内のいたるところで立ち話やお茶を楽しんでいました。


ノッティンガ大学のキャンパス(撮影、高槻)

 ノッティンガム大学で一番印象に残っているのは、学生たちによるセミナーの様子でした。セミナーには私たちも参加させてもらい、はじめの題目はイーピン(Ee Phin)の研究「Non-invasive monitoring of stress in Asian elephant(アジアゾウへの非侵襲的モニタリングの仕方について)」でした。ストレスを測る指標としてホルモン内のグルココルチコイドを使用し、ゾウのストレスについて研究しているとのことでした。私の語学力では大まかな内容を聞き取るのが精一杯で、それもだんだん熱の入って早口になっていくイーピンの英語にはついていけなくなることもしばしばありました。


セミナーで発表するイーピン(撮影、高槻)

 発表後の質問が先生から多いのは日本と同じだなと思いましたが、答える学生側のレベルと熱意に大きな差を感じました。身振り手振りを使い、笑顔は絶やさずに1の質問に10の言葉で返す。これは質問に対する答えが長く、要領を得ないということではなく、伝えたいことをより多く詳しく答えているためです。残念ながらその全部を理解することは出来ませんでしたが。
 プレゼンテーションも原稿を読むというのは一切なく、話す、伝えるといった感じでした。私が最初にイーピンに抱いた印象は、「スポーティで明るい美人」といった上辺だけのものでしたが、彼女の発表を聞いて、またその後の高槻先生によるセミナーでの彼女の質問から伝わる、知らないことへの探究心や好奇心に驚かされました。私の世界はまだまだ狭いですが、日本で彼女のような学生には出会ったことがありません。私は、自分の語学力の自身のなさから一歩引いてしまい、彼女と彼女の考えについて深く話をすることが出来ず、大変惜しいことをしたと感じました。
 次に高槻先生の発表があり、金華山島のシカの妊娠率や食性、植生の変化などの長期継続調査の内容が紹介されました。もちろん英語でしたが、私は本などで読んだこともある内容だったので理解することができました。イーピンはここでも積極的に質問していました。
 マレーシアでイーピンのような熱意のある学生に会えて、研究の話を聞けて、自分も頑張らねばという決意も新たに日本に帰国することが出来ました。
 最後にひとつ付け加えると、成田に帰って税関でパスポートを提出した日本人職員の方がかけた言葉は「Thank you」でした。パスポートには本名が書いてあるにもかかわらず…。どうやら私を「帰国者」とみていないようでした。インターナショナルな女性にみられたのはうれしいような気持ちですが、それにはまだ遠いな...と感じる10月14日でした。

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