スウェーデン音楽留学サバイバル日記 ~ニッケルハルパ(nyckelharpa)を学ぶ

スウェーデンの民族楽器ニッケルハルパを学ぶため留学。日々の生活を様々な視点からレポートします。

ペグの一本も。

2007-03-03 23:18:06 | 楽器製作
土曜の朝、二度寝をしていると突然電話が。
寝ていたと思われないように頭を思いっきり振って、目を覚ましてから電話を取った。
するとエスビョン「今から楽器作りに来る?ひょっとして寝てた?」
なぜか、寝ていたとは言えなかった。
けど、なんとなくバレたのか1時間後に迎えに来ようか?と言ってくれた。

今日はネック部分の作業。
写真1:ネック部分に穴を開けるためのテンプレート作りから。(以前のテンプレートを失くしたとのことでもう一度作ることに)。デジタル計測器で慎重に測り印をつけます。

写真2:「共鳴弦用のメカニックは、白と黒どちらがいい?」と。もちろん白がいい!半透明でキラキラしてパールみたい。とってもきれい。エスビョン特注でドイツの職人さんに作ってもらっているもの。

写真3:作ったテンプレートを元に、本体にドリルで穴を開けます。試しに木に穴を開けサイズを確認してから実際の作業。ドリルは場所により数種類を使い分け。残りは糸鋸で落とします。

写真4:上記の作業は説明を聞きながら見るだけ。今日の私の作業はこれ。ペグ作り。左が「こんな風に」とものの5分ほどでエスビョンが削ったもの。お父さんがウッド・カービングの先生だったそうで、物心ついたころからナイフを使うのに慣れていたのだそう。
そういえば、エスビョンの2歳の子ども、自分のハンマー(本物)を持っていて釘(本物)を木に打っていた。恐るべし親子。
(エスビョンに天才の気があるように、この子にもそれが感じられる。言葉の覚えも早いし、バイオリンやニッケルハルパも正しく持って弾いている。ちなみに英才教育ではなく、教えていないのに見て、勝手に覚えてしまうそう)
右は糸鋸で切り出しただけで、これから取り掛かるもの。スウェーデン・メープル。ものすごく硬い。他の国のメープルとは比べ物にならないほど硬いそう。

写真5:左はエリック・サルストレム(Eric Sahlström)作のネック。右はハッセ・イレ(Hasse Gille)作のネックで、新作だけど18世紀コントラバスハルパの復元モデル。この新旧を比べながらエスビョン・デザインのネックに至るまでの講義をしばし聞く。ボディデザインに加え、ネック部分も古いほうのデザインを少しずつ取り入れいていて、ただマネをするのではなく独自の方法で再現している。

写真6:スウェーデンで土産物屋や空港で必ず売っている有名なもの(Dalahäst)。
スウェーデンはウッド・カービングの手工芸が有名。ちなみに白い馬の模様はレトビック(Rättvik)、グレーの馬の模様はレクサンド(Leksand、いずれも地名)を表す。赤は聞いたことがない地名だったので覚えてません。


自慢じゃないけど、私はナイフも包丁も苦手。りんごの皮すら向けません。
と、エスビョンに言うと、柔らかいスプルース(表板でつかう素材)で練習させられた。柔らかいのでナイフをどう使うかなんとなく分かった。そして、スウェディッシュ・メープルに取り掛かると…。か、かたい!全然、削れない。

苦戦しているうちに、お客さんがやってきた。
ウッレ・プラン(私のニッケルハルパの製作者)と、私が今いる学校のフランス人の卒業生。
来るって知らなかったから、突然の再会にびっくり。
スウェーデン語とフランス語と英語がとびかう中、一緒にランチ。
トマト、パルメザンチーズ、たまねぎ、ハーブをじっくり煮込んだとても美味なスープ。

午後からまた作業開始。
削っても削っても薄くなりません…。気が遠くなる。

共鳴弦の位置
古いタイプのニッケルハルパは、一部、共鳴弦がブリッジの下や横を通っている。新モデルでもブリッジを小さくするために(つまりは全体が細く軽くなる)ブリッジの下に通しているのを時々みかける。このことについて聞いてみると、エスビョンいわく「それはダメ」とのこと。理由は、紙に図を書いて説明してくれた。
魂柱の位置、ギターにもある縦の木(ある程度の太さは強度のためではなく縦方向の振動のため)、魂柱に伝わるまでの表板の振動方向、弦から魂柱までの角度と長さ、全てが関係して響く作りになっている。これを違う位置に持ってくると機能しないというのだ。

この話に始まり、良い楽器とはという話になった。
エスビョンによると、楽器全体がアクティブに振動すること。良くない楽器では、振動は、ある部分でして、ある部分ではしないらしい。そして、エスビョンはエンジニアだけあって10年以上も前に特殊な機械を使って楽器に一定の音を加えた際に生じる振動を測定し理論的に研究したこともあるそう。

それと、そろそろネック部分のデザイン(自由な部分)を考えるように言われた。
エスビョンのは、美しい流線を描きながら中央部分がくりぬいてある。
プリンセスに献上した時以来、スウェーデン王国を象徴するクラウン(王冠)のデザインも先端、ペグ、など随所に見られる。ボディ周りはエリック・サルストレム風の模様。
えー…、同じのが欲しいなぁ…。
でも…。ほとんどの作業をエスビョンがしてくれているとは言え、一応「製作を学んでいる」からねぇ…。どんなのがいいかなぁ。

結局、ペグの一本も完成できなかった…。明日、続きをやります。


フランス製のニッケルハルパについて
今日は、卒業生のフランス人とフランスのニッケルハルパ事情について話を色々とした。
それで、ジャンクロードコンディ(フランス人)作のニッケルハルパの評判について色々と言われる理由がわかった。
楽器の良し悪しについてじゃなく、なぜそう言われるのかが分かったのだ。
フランスでは、ニッケルハルパ・アソシエーションのような集まりがあるそう。
でも、彼らは、バロックやearly music(と言っていた)を弾くのだそう。そして、共鳴弦などの繊細な音色を楽しんでいると。スウェーデン音楽やエネルギッシュな奏法など弾かないのだとか。なぜバロック音楽をバロック楽器や古楽器で弾かないかというと、単にニッケルハルパがエキゾチックなものだかららしい。

なので、楽器に求める音色はフランスでは(「その集まりで弾いている人達」と言ったほうが的確)違う、そしてジャンクロードの楽器はそういう系(バロック系)の音色なのだ、と彼女は言っていた。音色についての印象は色んなことに左右されるので何とも言えない。ただ、フランスで好まれる音というのは確かにスウェーデンとは異なるのかもしれない。

ちなみに、ジャンクロードのニッケルハルパは装飾が美しいと以前、ブログに書いたけど、彼はコンピューターブログラミングで機械が自在に削るそう。だから、あんな複雑なデザインが出来るのかと改めて納得。
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