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Kとの幸せな時間の中で、私はきっと赤ちゃんが再び私の元へやって来てくれたと、どこかでそう思っていました。
だから、体温が高温期を示した時、私は前月以上に期待をして、毎日 体温が下がらないようにと願っていました。
桜が咲き始め、満開になる頃に2人でお花見に出かけ、その直後から急に忙しくなり始めたKの仕事。
それと同時に夢のような日々はあっさり解消され、またKのイライラと戦う日々がやってきました。
それでも、私はこの時にかけていました。
体温は順調に高温をキープし続けていました。
妊娠していないのであればそろそろ体温が下がっても良いのではないかという時期にさしかかり、私は毎日ハラハラしながら過ごしていました。
しかしそんな私の願いが通じたのか、一向に下がる気配がありません。
体温を計る度にホッとし、ドキドキし、そして冷静になろうと自分を戒めたりしながら、静かに時が経つのを待っていました。
その間もKの機嫌は日々、徐々に悪くなって行き、とにかく気を遣いながら過ごさなければならず、そんな私の気持ちをKに伝えることも、共有することも出来ず、それも辛いことでした。
下がらない体温・・・次第に妊娠の期待が本物となって来ると同時に、前回のように初期の流産にならないだろうかと不安になってしまった私。
やはり早めに確かめたいという気持ちになってきました。
焦った私はその日も機嫌の悪い顔をしながら仕事から帰ったKに、
「そろそろ、調べてみようかと思うんだけど。」
と言ってみました。
もうKの機嫌など考えている余裕などなかったのです。
体温が下がらないということはKにも何となく話していたので、それがどういう意味かというのはKにも分かるはずでした。
そのせいか意外にもKはあっさりと、
「いいんじゃない?」
と言ってくれたのです。
私はそんなKの言葉に嬉しくなり、前回妊娠した時に使った妊娠検査薬の残りがあったので、それを使ってすぐに調べることにしたのです。
まだ妊娠していたとしても、反応が出るかでないかのギリギリの時期。
それでも期待せずにはいられませんでした。
しばらく時間を置かなければならない検査薬を前に、私は緊張しながらじっとその時間を待っていました。
Kもやはり気になっているようで、私と一緒にじっとその検査薬を見つめていました。
やがて時間が来て、うっすらと反応らしきものが出てきたのです。
それを目にした時の私は、あまりの嬉しさに じ~んとしつつも踊りだしそうな衝動に駆られました。
Kも首をかしげながら、
「これって、そうってことか?」
とちょっぴり嬉しそうな様子で尋ねてきました。
私は思いっきり首を縦に振って、
「これ、きっとそうだよ!!前もだいぶ早めに検査したけどこんなにはっきり出なかったじゃない?絶対(妊娠)してるよっ!!」
と言いました。
Kは私の言葉ににっこりすると、
「よかったなぁ~~~♪」
と言って一緒に喜んでくれました。
しばらく2人で興奮しながら話した後、私は
「早速近い内に病院に行って来るね。」
と言うと、突然Kの顔が曇り始めました。
(え???)
そんな表情になるなどと思ってもみなかったので、私は一瞬で戸惑ってしまいました。
「・・・いいよね?」
念を押すようにそう確かめると、Kはそれまでのテンションとは全く違った暗い顔をしたのです。
そして、ゆっくりと口を開き、
「いや、もう少し待ったら?」
と言ったのです。
私は何を言われているのか一瞬分からず、呆然としてしまいました。
Kはそう言ったまま、私から顔を反らし、点いていたテレビの方に顔を向けてしまいました。
まるで今まで一緒に興奮していたのが嘘のように、あっさりした態度でした。
(・・・何で?何でダメなの???)
Kが言った意味が全く分からず、必死に頭の中で繰り返し考えてしまう私。
しかし気を取り直して、
「・・・何で病院に行ったらダメなの?」
とKに聞いたのです。
するとKは、
「だって、まだはっきりしない時期なんだろ?」
と言いました。
確かに妊娠反応はうっすら出ている状態で、はっきり分からないのかもしれません。
しかし、検査薬を使ってもOKな時期にはしっかり入っている頃でした。
まさかそんなことをKに言われると思ってもみなかった私は、凄い衝撃を受けていました。
前回の妊娠で、初期流産をしている私。
だからこそ早い段階で妊娠を確認し、もし妊娠しているのなら大事にしたいと思っていました。
そしてKもそのことは理解してくれていると思っていました。
(しかし・・・Kはそうじゃないってこと???)
そう思いつつも、もしかしたら何かKに考えがあるのかもしれないと、はっきり聞かずにはいられない気持ちでした。
そして、まさに言葉を発しようとしたその時、Kが静かに、
「何かさ、あんまり早く病院行くとさ~、前ん時みたいになったら困るだろ~、ほら、お袋にも色々言われただろ、お前達は騒ぎすぎだってさ。」
と言ったのです。
(騒ぎすぎ?)
私はそう思いながら、頭にカ~っと血が上ってしまいました。
確かに流産しかかっている時、義母がKに言ったという言葉。
その時のこと(流産との戦い⑧)がよみがえって来たのです。
・・・あの時、義母の言葉に傷ついた私を必死に励ましてくれていたK。
そのKの口からそんな言葉が飛び出すなんて・・・。
信じられない気持ちでした。
きっともの凄い形相をしてしまっていたのだろうと思います。
Kはそんな私の様子を見てマズイと思ったのか、
「あ、でもお前が知りたいって言うなら行って来ればいいじゃないか。」
と慌てて言ったのです。
私はそんなKの言葉にますますショックと怒りを感じ、わなわなと震えてしまいました。
「騒ぎすぎ・・・。」
そうつぶやくとKは慌てて
「いや、ほら・・・さ。」
と何かを言おうとしていましたが、私はその言葉をさえぎるように、
「騒ぎすぎだったんだね、やっぱり。Kもそう思ったんだね。」
と言い、Kを睨みつけました。
するとKは私のそんな態度にムッとしたのか、
「何だよ、そんなこと言ってね~だろ?」
とふてくされたように言いました。
「ただ、お袋の言うとおり、あんまり早く行き過ぎてもダメなのかなと思ったんだよ。
それにまだはっきりと分からない時期なら、病院でも分からないかもしれないだろ?だったらもう少し時間を置いてもいいだろ?」
と、言うと、その場から逃げ出すようにキッチンに向かい、換気扇の下でタバコを吸い始めました。
確かにそんな微妙な時期に行っても、もしかしたら無駄なのかもしれない・・・でも、私はとても納得が行きませんでした。
義母の言った騒ぎすぎという言葉。
そして前みたいになったら、という流産を予想させる言葉。
妊娠したかもしれないと分かった そんな喜ばしい日に、そんなことを言われるなんて思いもせず、ショックと怒りで涙も出ないくらいでした。
しかし、私は冷静になろうと思いました。
(悔しい!
騒ぎすぎだなんて、二度と言われたくない!
要は、病院に行って確実に妊娠していると言われればいいわけでしょ?)
そう思った私は、タバコを吸い終わって居間に戻ってきたKに向かって、静かに
「・・・分かりました。じゃあ、病院に行くのは様子を見ることにします。」
と言い、Kと入れ替わりに立ち上がってキッチンに向かったのでした。
この時の事はあまりにもショックで、今まで記憶の彼方に追いやっていました。
今回こうして書いてみて、あの時の気持ちがよみがえり、凄く嫌な気持ちになりました。
何だか惨めだなぁ・・・あの頃の私。
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