知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

上限の特定を欠く請求項の記載事項

2008-08-10 11:34:38 | 特許法36条6項
事件番号 平成19(行ケ)10362
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年08月04日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


3 取消事由2(特許法旧36条4項2号違反性)について
 原告は,訂正発明1及び3の「投入コインカウンタの計数値が25枚以上の所定枚数増加するごとに」に関して,発明の範囲が不明確であり特許法旧36条4項2号に違反すると主張するので,以下,この点について検討する

(1) 訂正後の請求項1及び3においては,「コインの投入後にゲームが開始され,入賞が得られたときには配当コインを払い出すスロットマシンにおいて,投入されたコインの枚数を積算する投入コインカウンタと,…前記投入コインカウンタの計数値が25枚以上の所定枚数増加するごとに,…配当データXを求める手段と,…を備えたことを特徴とするスロットマシン。」と記載されており,「所定枚数」の上限については記載されていない

 もっとも,上記「所定枚数」は,配当データXの算出をいかなる頻度で行うかにつき,投入コインカウンタの計数値を基準として,25枚以上の所定枚数増加するごとに配当データXを求めることとしたものであるから,上記「所定枚数」には自ずから上限が存在すると解することも可能であり,この点については請求項の記載から一義的に明確ではない

(2) そこで,発明の詳細な説明を参酌して,更に検討する。
・・・
ウ 以上の記載によれば,訂正発明1及び3は,当該スロットマシンにおいて既に行われたゲームの結果を配当データXという値によって表し,これをグラフ等によって遊技者が知ることができるようにして,遊技者が当該スロットマシンを選択するかどうかの参考に供するというものである。

 そして,配当データXを求める頻度の基準となる投入コインカウンタの計数値については,その所定枚数を100枚,50枚あるいは25枚とすることが示されているが,これらの枚数に限定されることなく適宜の所定枚数を設定することができ,また補間法を用いて配当データXの変化を曲線により表示することもできることが記載されている。

エしたがって,訂正発明1及び3における所定枚数の設定は,遊技者が配当データXの変化を把握することができる程度,すなわちグラフ等によって配当データXの変化を表示することができる程度の頻度をもって配当データXが算出されるように適宜設定されることが上記記載から理解されるものである。
 そして,どの程度の頻度で配当データXが算出されればその変化をグラフ等に表示することが可能であるかは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に把握することができる事項である

オ そうすると,訂正後の請求項1及び3に所定枚数の上限が明示されていないとしても,発明の詳細な説明の記載を参酌すれば,訂正発明1及び3の範囲が不明確であるということはできず,訂正後の請求項1及び3は特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものということができる。

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