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She Stoops to Conquarと、夜のSouthbank

2012-07-06 | 2012年、英国の旅 ~春編
(体調すぐれず、更新遅くなってしまった…)

さて、いよいよナショナル・シアターの中で一番大きな劇場、
オリビエ・シアターで"She Stoops To Conquer"を観劇します。

ロビーには、ナショナル・シアターの歴史を振り返る写真が展示してありました。



↑ジェレミー・ブレット発見。1967年上演の「お気に召すまま」オーランド役。



ローレンス・オリビエを囲んだ写真(左)。
そのオリビエが、"The Recruiting Officer"(1963年)で、Capt. Brazenを演じた時の写真。

この日は字幕付き上演だったので、
舞台の下手側にLEDの掲示板が付いていました。
英語が分からない私にとってはとっても助かる…と思いきや、
意外と英語字幕を追いながら舞台を見るのは忙しかった…。

舞台は回り舞台になっていて、転換の際には使用人やパブの客たちが歌いだす、
楽しげな演出になっていました。

"She Stoops To Conquer"は、訳すると「征服のために屈する」
日本では「負けるが勝ち」というタイトルで紹介されていたようです。
作者はアイルランド出身のオリバー・ゴールドスミスで、ロンドンでの初演は1773年。
英国では非常にポピュラーな作品で、繰り返し上演されているようなのですが、
日本では全く知られていないですね…。
先述の"The Recruiting Officer"は十七世紀の王政復古喜劇でしたが、
これはもう少し後。

ゴールドスミスは、当時流行っていた"センチメンタル・コメディ"と呼ばれる、
上流階級の主人公が出てくる、上品で道徳的で説教じみた"お涙ちょうだい喜劇"に反旗を翻そうと、
"笑える喜劇"としてこの芝居を作ったそうです。



都会の青年マーロウと、友人のヘイスティングスは、
見合い相手であるハードキャッスル家の娘ケイトと会うために、とある田舎町にやってきた。

2人は、パブでケイトの義兄トニーと出会い、
「ハードキャッスル家はここから遠い。近くで一泊するべきだ」と、立派な宿屋を紹介される。
…実はこの宿屋、本当はハードキャッスル家の屋敷であり、
ジョーク好きのトニーが2人をからかうために宿屋と偽って連れてきたのだ。

そうとは知らず、見合い相手の父親であるハードキャッスル氏を宿屋の主人と勘違いし、
横柄な態度を取るマーロウたち。
この"宿屋"で、マーロウはついにケイトと対面することになるが、
上流階級の娘の前で極度の緊張に襲われてしまう彼は、彼女とまともに喋ることが出来ない。

ケイトは、屋敷に同居するいとこのコンスタンスや使用人から、
客人2人が屋敷を宿屋と勘違いしていること、
また、マーロウがシャイなのは上品な女性に緊張してしまうからであると知り、
マーロウの緊張を解く為に"宿屋の女中"に変装し、
本当の彼の姿を引き出そうと決心する。



She Stoops to Conquer trailer



帰国してから友達にあらすじを説明すると、
「なんだか三谷(幸喜)さんなんかが書くコメディに通じるものがあるね!」と話していたのですが、
まさに、嘘をつかれた人間が右往左往するという状況は、コメディの王道とも言えますね。

トニーに騙されて見合い相手の家を宿屋と勘違いしているマーロウは、
さらに、変装したケイトを身分の低い宿屋の女中だと勘違いし、簡単に惚れてしまいますw
この、女の階級によって態度がコロコロ変わるマーロウの様子が観客の笑いを誘います。

そして、彼らが勘違いしていることを知らない家主のハードキャッスル氏も、
客人の図々しい態度に困惑し、最後にはブチギレw
その後、マーロウはやっとそこが宿屋ではなくハードキャッスル家であることを知り、
ビックリ仰天、そんでもって自分のしでかした無礼を思い返し、穴があったら入りたくなるのでした。

このハードキャッスル氏に扮していたのが、
私の好きな"The League of Gentlemen"のメンバーであるSteve Pemberton。
上流社会を毛嫌いし、田舎の生活を愛する古風な家主が、
生意気な客人に困惑させられている様子をチャーミングに演じていて好感がもてました。
彼にぴったりな役だったのではないかと思います。


ケイトとマーロウの恋模様がある一方、
いとこのコンスタンスは、ケイトの義母ハードキャッスル夫人から
望んでもいないトニーとの結婚を急かされています。
(コンスタンスは夫人の管理する宝石を相続する予定なので、
 彼女がトニーと結婚すれば、夫人がそのまま宝石を維持出来るのです。)

嫌気が差したコンスタンスは、ヘイスティングスとの駆け落ちを計画。
トニーもまた、コンスタンスとの結婚を強制されることにうんざりしていたので、
彼らに協力し、宝石を隠して屋敷が大騒動になっている間に2人を逃がそうとします。

トニーに騙されて屋敷の周りを馬車で走らされるハードキャッスル夫人。
やがて自宅から遠くは慣れた霧の深い森の中に迷い込んでしまったと思い込み、
自分の夫を強盗と勘違いして、夫人は恐怖に泣き崩れますが、
実はそこは屋敷から目と鼻の先であることに気付くと、今度は腰を抜かしてしまいますw
ここが一番の笑いどころ。
「エマ」や「フォー・ウェディング」のSophie Thompsonが、
この強欲な夫人をコミカルに演じていて、特に印象に残りました。


こんなふうに、あちこちで勘違いの騒動が起こるわけですが、
結局、ケイトが女中ではなく、ハードキャッスル家のあの令嬢であると分かったマーロウは、
自分の恋心に素直にしたがって、彼女との結婚を決意します。
この芝居のタイトルである「負けるが勝ち」というのは、
つまり、階級を偽ってマーロウの心を開かせたケイトの勝ち、というわけです。



ロンドンでは3本の喜劇を見ましたが、これが一番楽しかったです。
登場人物のかかわり合いが分かりやすいというのもありますが、
マーロウや夫人たちが、勘違いの結果、普段とは違う振る舞いをしてしまう、
その滑稽さが観客を笑わせていました。
階級や立場の違いで態度を変える人間へのアイロニーも、
描かれた時代が違うのにも関わらず、現代の感覚のまま消化出来た気がします。



外に出ると、手足が震える程寒い…。
出待ちしたいところでしたが、あまりの寒さに断念。
Westminster駅までテムズ川沿いを歩いて帰りました。



ライトアップされたロンドン・アイ。ファンタスティック!
DOCTOR WHOの第1シーズンに出てきたアングルで撮ったつもりなのですが。



水族館やフィルムミュージアムのあるカウンティ・ホールも青い照明で照らされています。



ウェストミンスター橋から見た、ロンドン・アイ。



そして、ビッグ・ベン。



夜景を撮るのって、本当に難しい。
こんな伝統的な英国の街の風景から打って変わって、
Westminster駅は妙に近代的。



意外にも、近未来が舞台のSF映画のようなメタリックな構内です。


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