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リース・シェアスミス出演舞台"The Dresser (ドレッサー)"を観る

2016-11-24 | 2016年、英国の旅

◼︎10月25日(火)・28日(金)観劇◼︎

※ストーリーの結末は触れていません。

マーク・ゲイティスが出演する"The Boys in the Band"の上演が4月に発表され、
観劇に合わせた旅行計画を練っていた私。
そんな時、翌月にリース・シアスミスが"The Dresser"(ドレッサー)で、タイトルロールとも言えるノーマン役を演じると発表されました。


「ドレッサー」はシェイクスピア劇団の座長と付き人の、とある1日を描いたもので、映画化もされています。
私はこの映画を学生時代に一度、テレビで見た記憶があり、面白かった!ということだけ記憶に残っていました。
そして偶然にも!久しぶりに見直そうと、WOWOWで放送されていた「ドレッサー」をその発表直前に録画していたのです。

改めて見直してみて、学生時代の私はなかなかいい趣味をしていたなと安心しました(笑)。
この作品は("The Boys in the Band"と同様に)喜劇のようでいて悲劇であり、
それはまさに人生そのもののように思えるのでした。

ちなみに「ドレッサー」はちょうど1年前の2015年に
BBC TWOでイアン・マッケランとアンソニー・ホプキンスという2大名優を迎えてドラマ化もされていました。


↑2人のノーマン。サー・イアンはすぐそばのWyndham's Theatreで上演中の"No Man's Land"に12月まで出演しています。

そのドラマの良い評判の記憶も新しいため、「何故このタイミングでまた『ドレッサー』を?」と
上演に値するものなのか疑問に思う劇評も見受けられましたが、
読み合わせに立ち会った作者のロナルド・ハーウッドはノーマンを演じるリースについて
“God, he’s good.”とコメントしています。
(ロナルド・ハーウッドは自身の付き人時代を元にこの芝居を書いています。)
私も「リースが演じるノーマンなら素晴らしいにちがいない!」という予感がしていたのです。

そう、リースは最高の演技を見せてくれました。
私はあまりに感動して、1回だけ見るつもりが急遽プラス1回観劇してしまったほどです。
頭に残った記憶が上書きされないように、もう映画もドラマも出来れば見たくない(笑)


↑「ハイ・ライズ」でリースを起用しているベン・ウィートリー監督も観劇したようです。

装置は回り舞台になっていて、楽屋のセットが回転すると、裏が舞台のセットになっています。
時代設定は1942年、空襲が英国の街を脅かす戦時中。
舞台のすのこに上演前から裏方が出てきて、煙草をふかしているのですが、
次第に飛行機の音が大きく鳴り響き、爆弾の炸裂する音で暗転し、芝居が始まります。



座長="サー"役はケン・スコット。
「ホビット」シリーズのバーリン等でおなじみの名優です。
アルバート・フィニーやアンソニー・ホプキンスと比べると、
威圧的というよりちょっとチャーミングな座長さんです。

映画では冒頭、この座長率いる劇団の劇場までの行脚が描かれていたりするのですが、
元々の舞台は、付き人のノーマンが楽屋で一人考え込んでいる姿が浮かび上がるところから始まります。

この日に上演する演目は「リア王」。ですが、肝心の座長は不在。
愛着のあった劇場が空襲で破壊されたショックからか、
座長は心身ともに支障をきたしていました。
街中で服を脱ぎ捨てながら走り出したり、自分の帽子の上で飛び跳ねたり…
一部始終を目撃していたノーマンは座長を病院に見届け、
その日の公演について妻で劇団員でもある"奥様"(ハリエット・ソープ)や舞台監督のマッジと相談します。




休演を望む"奥様"やマッジに対して、絶対上演すると言い張るノーマン。
そこに、病院で休んでいるはずの座長が現れます。
(入口に手をかけて、何事もなかったように無造作に服を着た座長が、
 笑顔で「おはようノーマン」と現れる姿が笑いを誘います。)



ノーマンは"奥様"やマッジを追い払い、座長にやる気を出してもらうべく奮闘。
背を向けてグイと瓶入りの酒を飲み込むと、不安げな座長に、まず明るく話しかけます。

「さあ!始めからやり直しましょう!
 こんばんは、サー!
 …『こんばんは、ノーマン』
 ご機嫌いかがですか?『悲しいんだノーマン。お前はどうだい?』
 とってもいいですよ。静かだったしね、カツラやヒゲを洗ったり、衣装にアイロンかけたり、あなたの下着を洗ったり。
 あなたはどうしてましたか?『私は帽子の上で飛び跳ねてたよ』
 あら、それはおかしなこと!」

などと、返事のない座長の代わりに自分で会話をやってみせます。
リースはこの落語みたいな一人芝居が本当に上手い!
喋っている間にも、紅茶を入れるお湯を沸かすために手を動かし続け、
その間に、座長の様子を伺う心配そうな表情を時折覗かせたりします。
手の動きも多彩なので、ぶらぶらするような無駄な動きが一切ありません。


↑「ビスケットはいかが?」と言って差し出した缶の中に、お菓子が一個しか入ってなくて「カコーン!」といい音がなるw
 ちゃんと手前に引き寄せてからいい音がなるように観客側に見せてた。この辺も上手い。

不安げに押し黙る座長にお茶を飲ませて落ち着かせると、
ノーマンは少しずつ舞台に出るための支度を促していきます。
「今日は満員ですよ」と声をかけると、初めて座長が「本当か?満員なのか?」と嬉しそうに聞き返します。
ところが、今日の演目がリア王だと聞くと、
「無理だ…」自信を失うの繰り返し。

さらにやっと化粧を始めたと思うと、「オセロー」と間違えて、顔を黒く塗り始める座長。
「サー! それは違う舞台です!」
それでも、ノーマンは様子を伺いに来るマッジたちを追い返しながら、
(この扉を開けて追い返す立ち振る舞いも鮮やかで完璧!)
化粧の順番から冒頭のセリフまで、手取り足とり準備の指示を出します。
衣装も、着やすいように床に輪っかの状態にして、中に入って着られるようにしてるんですよね。


↑「あたしがやります、そのためにいるんですから!」とネクタイを解いてあげるノーマン。

座長だけではなく、劇団の中でも問題は発生していました。
道化を演じていたダヴェンポート・スコットと云う役者が警察に捕まって出演できなくなってしまったのです。
人出不足のため、裏方の人数も足りません。
(ダヴェンポート・スコットの話は何度も出てきますが、本人は登場しません!)

空襲警報が鳴る中、ノーマンはやっと支度を整えた座長の指示で、
いやいやながら、役者の代わりに観客の前に出て口上を述べます。
(ここは幕が下りて、実際に私たちが「リア王」を見に来た当時の観客のように見ることが出来ます。)

「…紳士淑女の皆さま。
 警報が鳴りました。空襲が続いています。
 我々は芝居を始めます。
 "生きたい"方は… "行きたい"方は劇場を出てください」



第二幕でも、ノーマンの奮闘は続きます。
ダベンポート・スコットの不在のために、効果音を担当する人出が足りず、
雷雨の音を出すためにティンパニや鉄の板、布を使った装置を使って、
行ったり来たりしながら1人何役もこなすノーマン。
一緒に効果音役を頼まれていた、座長と折り合いの悪い役者のオクセンビーも、
始めは頑なに断っていましたが、途中からノーマンを手伝います。

ノーマンや役者たちの働きで、芝居は無事に終わり、
舞台の幕にしがみつきながら、終演の口上を述べる座長。
その後ろに、もちろんノーマンが控えて明日からの上演予定の演目を口伝えしてあげるのでした。
そして、汗だくのノーマンは、立つこともままならない座長を抱きかかえながら楽屋へと連れて行き、
長椅子で休息を取らせるのですが…


↑"The Dresser"は地方公演を回ってから、ロンドンの公演が始まりました。

座長の機嫌を取りながら劇場を飛び回り、公演自体の裏方としての役割もこなすノーマン。
滅私奉公を続けた彼の、この舞台の結末はあまりに切ないものですが、
まさしくこれが人生なのだと思わされます。
人生は「こんなはずじゃなかったのに…」に溢れていますから。

最後のノーマンの狼狽ぶりは、見ていて辛くなりますが、
リースが真に迫る演技をしているからこそ、心から彼に同情することが出来るのです。
(結末が気になる方は是非映像作品をチェックしてみてください。)



日本でも、コメディアンが舞台に出ると「芸人に演技が出来るのか」と思われがちですが、
英国でも同じような厳しい視点があるようで、
かつては「リーグ・オブ・ジェントルマン」の他のメンバーも演技が出来るのかと疑問に思われていたようですが、
リースの演技は始めからコメディの枠を超えていたように思います。

面白おかしく演技しようとする下心が見えると、喜劇は薄っぺらいものになりますが、
彼の場合は、怒りや妬みのような、およそ笑いとは反対の感情を表現するのに長けていて、
それでいてとても可笑しいという芸当をやってのける役者なのです。
そんな彼に、ノーマンのような、忠実さと怒りがないまぜになったキャラクターはぴったりハマるのです。


↑プレスナイト後のリース。

映画版を見た時には気づかなかったのですが、頻繁に酒を飲むノーマンは、
アルコール中毒の気があるかもしれませんね。
終盤は顔色が真っ白で髪も汗でぺったりとなっていますが、
それはあくまで演技と演出で、リース自身の汗や顔色ではないと思うんですよね。
彼の精魂込めた演技を見ていると、毎公演の疲労が計り知れません。

上演後、興奮して楽屋口へ向かい、彼に感謝の言葉を伝えに行ったのですが、
(その時のことはまた後で書きたいと思っています)
やっぱり緊張して心からの感想が伝えきれなかったこともあり…
ノーマンは同僚を"Ducky"と呼ぶので("love"とか"dear"のような、女性が使う呼びかけの言葉らしい)、
「素晴らしい舞台をありがとう、Ducky!」と改めて呼びかけたい気持ちです。

The Dresser Vox Pops - Duke of York's Theatre - ATG Tickets


来年1月までにロンドンに行く機会がある方は、是非見に行って欲しいです。
直前でもチケットは購入出来ると思いますし、
映画やドラマがあるので予習もしやすいですよ。
こちらからどうぞ。




(2017年2月追記)

ちなみに、上演後リースに会ってきました。
4年前も出待ちしようとしましたが、勇気が足りなかったんですよね。
リースはちょっと近寄りがたいイメージが勝手にあったのですが、
今回もとても優しく接してくれました。
今回リーグ・オブ・ジェントルマンの3人と一緒に撮ってもらった写真にサインをもらうというミッションを自分に課していたのですが、
リースに見せたら「ああ、この時のこと覚えてるよ!」と言ってもらえて嬉しかったですね。
そしてサインもいただきました。



一緒に撮ってもらったセルフィーは、28日に2回目を見に行った後のもの。
熱演の後に申し訳ないと思いつつ…
あまりに良かったのでもう一度素晴らしかったといいに行きたくて。
そこで同じく出待ちをしていたイタリア人?の親娘がいて、
お母さんが興奮気味に「あなたすばらしかったわ!」「ハグさせて!」と
リースを抱きしめてたのがちょっと面白かったし、
やっぱりそれほど良かったよね!と共感しました。


↓2月4日にすべての公演の最終日を迎えたリースのツイート。



 


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