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NHK受信料について(2) ~公共放送は民営化組織ではできないのか?~

2005年08月22日 | 政治・社会

前回のブログでは、NHKに払う受信料の法的根拠があるかどうか議論しました。現在の法律の政府解釈によれば、NHKを受信しうる受信装置を設置したら NHK と契約しなければならない、ということでありそれは50年来一環している事がわかりました。

今回は、「NHKは公共放送なのだからテレビを持っているすべての世帯から受信料を徴収するのだ」という政府見解の問題点とこれからの時代のあるべき姿を以下の順で考察しました。

(1)NHKの契約方法の妥当性の検証
「NHKは公共放送なのだからテレビを持っているすべての世帯から受信料を徴収するのだ」とあるが、なぜそうせざるを得ないのか?NHKを見たい人だけが払ってはいけないのか?という点を検証してみます。

(2)そもそも「公共放送」とは何か?それは民営化組織ではできないのか?
「NHKは公共放送なのだからテレビを持っているすべての世帯から受信料を徴収するのだ」とあるが、そもそも「公共放送」と何か?その放送を民営化組織でできないのか、という点を検証しました。もし民営化組織でもできるならば、「公共放送」であっても「公共料金」的な受信料の徴収方法ではなく、NHK放送にスクランブルをかけ、見たい人だけが見るようにすることだってできるはずです。


(1)NHKの契約方法の妥当性の検証

まず、NHKとの契約について考えてみましょう。前回のブログでも紹介したサイトでは、「契約自由の原則」というのがあるはずで、契約するしないは支払う側の意思も尊重されてしかるべきだ、と主張されています。

http://friendly.blog5.fc2.com/blog-entry-1.html

そもそも契約するしないは義務ではなく、自由意思に基づくべきである、という意見であり、国会答弁でもそうなっていることが読み取れます。なるほど。行政もこれは「契約である」と認めていますね。契約なら合意が必要なので、納得いかないなら契約をしなければ良いということになる。

ところが、そのサイトで引用されている国会答弁の前後を見てみたところ、結構強引な理屈が展開されている事がわかりました。

91 - 参 - 決算委員会 - 6号
昭和55年03月28日

○円山雅也君 それが法律的にと私はお断りしたんですけれども。じゃ現状を申し上げましょう。現状はNHKと受信者が受信契約をされるんでしょう。そうして成立した受信契約に基づいて受信料を払うんでございましょう、現実は。としましたら、いま払っている受信料というのはNHKとの契約上の債務じゃないですか。そう解してよろしいですか、法律的には。

○国務大臣(大西正男君) お言葉のとおり、契約ということになっております、三十二条によります、現行法。しかし、本来契約というものは自由であるべきでございます。そこで最近ではいろいの契約がございまして、たとえば契約条件についてはそれを提供する方がもう一般的には決めておって、それに応ずるか応じないかの自由しかないという契約もございます。ところが、三十二条の契約は契約自体が義務づけられております。つまりそこには締結の自由もないわけでございます。そういうふうなあらわし方になっておるわけでございまして、御承知のとおり昭和三十七年でございましたか、臨時調査会における調査の中におきましてもそのことは明確にされておりまして、契約という言葉は使っているけれども、それはフィクションである、こういうことが言われておるわけでございまして、法律上、放送法によって創設をされた負担金である、こういうことが当時から言われておるわけでございます。

○円山雅也君 そうすると、郵政省のお考えはあれですか、本来そんな契約をしなくたって、負担金なんだから法律上当然に発生する義務なんだと、支払い義務自体が。つまり契約がなくとも一足飛びにいまの現行法でも支払い義務が発生するんだという御解釈ですか、負担金という意味は。

○国務大臣(大西正男君) 現行法におきましては契約を義務づけておりますから、ですから本来契約という性質のものではないけれども、法的な形の上ではそういう形をとっておる、したがって契約ということでやっておるわけだと思います。

○円山雅也君 そうしますと、いまの現状、あくまで現状ですけれども、現状を前提とすると、NHKと受信者が契約をしない限りは法的には支払い義務は発生しませんか、契約をしない限りは。その点ちょっと。

○国務大臣(大西正男君) 法的な形式的にはそういうことになろうかと思います。ただ、義務づけられておりますから、契約をすべきであるというそういう請求をすることもできると思います。

契約とあるがこれは「フィクションである」!?本当は「負担金」だから法律上当然に発生する「義務」である!?

こんな感じだとじっくり法律論を検証したら、今の放送法の法的な妥当性そのものが怪しくなってくるかもしれません。このあたりは司法の場で判断するより他ないと思うので、ここではこれ以上議論しません。

ではなんでこんな風に法律的にメチャクチャな解釈をせざるを得ないのか。以下に考察してみようと思います。

NHKや総務省(旧郵政省)の見解を私なりにまとめると以下のとおりになります。

  • NHKの存在目的は「政治・政党からの独立性を担保する」「商業主義を排除して良質な番組を作る」である。その為には国の財源を使ったり、スポンサーから資金をもらったりしてはだめで、受信者から直接受信料をいただく必要がある。こういう性格を持つ放送を「公共放送」と呼ぶことが多い。
  • しかし、NHKの放送を視聴したかしないかで課金してしまっては結局は大衆に迎合した番組をつくることになり「商業主義の排除」が困難である。かといって住民税などのように全ての世帯から押しなべて徴収するというのは、テレビを持っていない世帯の理解は得られないだろう。従って、全世帯(テレビを持たない世帯の理解は得られない)>(中間解)>NHKを視聴する世帯(商業主義の排除は困難)という関係があるなかの中間解として、「テレビを持つ世帯」と契約して受信料を得るのが良いだろうし、大多数の国民にも受け入れられている考え方と思われる。

上記で述べたようにNHKは公共放送なのだから、NHKを見なくてもテレビを持っているならば受信料を支払え、と言う考え方は一見正しいように見えます。ちょうど他の公共料金も使う・使わないに関わらず基本料みたいなものがあるのと同じ様な感覚です。

しかしここでいう「公共放送」を「公共料金」的に徴収した資金を使って「公共的な組織」で実施しなければならないものか?実は「公共放送」と同等の放送を「民営化組織」で実現することができるのではないかという点について次に議論したいと思います。


(2)そもそも「公共放送」とは何か?それは民営化組織ではできないのか?

上記の議論では、「公共放送」の要件として

  • 政治・政党からの独立性を担保する
  • 商業主義を排除して良質な番組を作る

があるとしましたが、NHKホームページなどでは、公共放送には以下の使命があると言っています。

  1. 災害報道
  2. 上質な番組の提供
  3. 障害者や高齢者向けの番組放送
  4. 政府や企業など特定のスポンサーに頼らない公平・公正な放送
  5. 放送技術・文化研究
  6. 国際放送

この6つの使命それぞれについて、本当に「公共的な組織」で実施しなければならないのか、「民営化組織」で実施できないのか考察してみます。

1. 災害報道

実はこれは、放送法第6条の2において全ての放送事業者に課せられた義務なので、公共、民営関係ない議論です。

放送法第1章の2 放送番組の編集等に関する通則
第6条の2 放送事業者は、国内放送を行うに当たり、暴風、豪雨、洪水、地震、大規模な火事その他による災害が発生し、又は発生するおそれがある場合には、その発生を予防し、又はその被害を軽減するために役立つ放送をするようにしなければならない。


2.上質な番組の提供

商業主義に基づかないから上質な番組の提供ができる、というのはちょっとおかしな議論で、商業主義に基づくかどうかということと上質な番組をつくるかどうかとは別な議論だと思います。まずNHKが流す番組が上質かどうかは議論が分かれるところでしょう。それはともかく、上質な番組を求める層も存在するはずで、その番組を見る人向けに上質な番組を提供し、対価を得るいうのは十分商業主義に基づいた行為だろうと思います。逆に商業主義に基づけば、今のNHKが作るよりもより上質の番組を作ることも可能となるでしょう。今のNHKの番組は上質という面もあると思いますが、マンネリである、工夫が足りないという面だってあると思います。むしろ商業主義ベースの方が、マンネリに陥らず、常に上質な放送表現を追い求めるようになるのではないかと考えます。


3.障害者や高齢者向けの番組放送

これについては放送法第3条の2の4において全ての放送事業者に課せられた努力義務なので公共、民営関係ない議論です。

放送法第1章の2 放送番組の編集等に関する通則
第3条の2第4項  放送事業者は、テレビジョン放送による国内放送の放送番組の編集に当たつては、静止し、又は移動する事物の瞬間的影像を視覚障害者に対して説明するための音声その他の音響を聴くことができる放送番組及び音声その他の音響を聴覚障害者に対して説明するための文字又は図形を見ることができる放送番組をできる限り多く設けるようにしなければならない。


4.政府や企業など特定のスポンサーに頼らない公平・公正な放送
4.1 政府に頼らない公平・公正な放送

政治的な公平性については第3条の2第1項に記載のとおりすべての放送事業者に課せられた義務となっているので、公共、民営関係ない議論です。

第3条の2第1項 放送事業者は、国内放送の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
1.公安及び善良な風俗を害しないこと。
2.政治的に公平であること。
3.報道は事実をまげないですること。
4.意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

また政見放送については、NHKだけでなはく民放もある候補者の政見放送を実施したらすべての候補者に同条件で放送させることを放送法では規定しています。

第2章 日本放送協会
第45条 協会がその設備又は受託放送事業者の設備により、公選による公職の候補者に政見放送その他選挙運動に関する放送をさせた場合において、その選挙における他の候補者の請求があつたときは、同等の条件で放送をさせなければならない。

第3章 一般放送事業者
第52条 一般放送事業者がその設備により又は他の放送事業者の設備を通じ、公選による公職の候補者に政見放送その他選挙運動に関する放送をさせた場合において、その選挙における他の候補者の請求があつたときは、料金を徴収するとしないとにかかわらず、同等の条件で放送をさせなければならない。

4.2 企業など特定のスポンサーに頼らない公平・公正な放送
特定のスポンサーに頼らないことを担保するためには受信料は必要でしょう。が、言い換えれば受信者から受信料をもらうのであれば特定のスポンサーに頼らないで放送事業を運営することができるでしょう。これも公共・民営関係ない議論です。


5.放送技術・文化研究
6.国際放送

国際放送とか放送技術・文化研究についてはテレビを持っている世帯だけが負担すれば良い、と言う問題ではなく、国策として進めるべき課題だろうと思うので、それこそ国家予算を使って実施するのが適当だと思います。

(2)のまとめ

これまで公共的に運営するから1~6までが実施できる、という主張がまかり通ってきましたが、以上検証してきたとおり実はそこには議論のすり替えがあり、本当は下記のように分類されると考えます。

A.公共の電波を使う放送事業者であれば、公共・民営によらずどの事業者でも守らなければいけない義務
  1. 災害報道
  3. 障害者や高齢者向けの番組放送
  4.1 政府・特定の政党に偏らない公平・公正な放送

B.公共か民営かというのは直接関係なく、受信者(本当に見ている人の意)から課金をすることで達成できること
  2. 上質な番組の提供
  4.2 企業など特定のスポンサーに頼らない公平・公正な放送

C.費用対効果の面で民間で実施することが難しく、国家予算などで実施する方がベターなもの
  5. 放送技術・文化研究
  6. 国際放送

これらA,B,Cを今のNHKというあいまいな組織で実施するのではなく、A,Bは民営化組織で実施し、Cについては国家予算などで実施するほうが、より透明感のある組織運営が可能になると考えます。以上より放送技術・文化研究、国際放送を除いた「公共放送」については「民営化組織」で実施することが可能であることがわかります。


x x x

まとめ:
(1)NHKの契約方法の妥当性の検証
・法律論的にはかなり怪しい。(契約とあるがそれは建前(フィクション)であり、基本的な考え方は義務となっている。)
・「公共放送」を実施するに当たっては、法律的に怪しくてもこの方法がまあ妥当であろう、と信じられてきた。

(2)公共放送とは何か?それは民営化組織ではできないのか?
・公共放送の使命は下記のとおり。
 1.災害報道
 2.上質な番組の提供
 3.障害者や高齢者向けの番組放送
 4.政府や企業など特定のスポンサーに頼らない公平・公正な放送
 5.放送技術・文化研究
 6.国際放送
・1~4までは、民営化組織でまったく同じことが実施できる。5,6 は国家予算を使って実施するほうが望ましい。

最後に私の提案を述べさせていただきます。基本的にはこれまで議論をしてきたことを発展させたものになっています。

私の提案: 
(1)NHKを国内放送部門と研究部門、国際放送部門とに分割し、国内放送部門を民営化、研究部門、国際放送部門は国家予算で運営するものにする。(持株会社化なども考え方としてはありうる)

(2)国内放送部門については、放送波にスクランブルをかけ、契約者のみが閲覧可能にする。

 

皆様の忌憚の無いご意見をよろしくお願いします。また、当ブログ執筆に当たっては friendly さんのサイトが大変参考になりました。この場を借りてお礼いたします。


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