私は35年も昔、とある町でホテルのバーに入った。びしっと決めた服装のバーテンダーが「何、飲むあるね?」と私に尋ねる。
ウイスキー。
Please.Sir.
私は、とりあえずひとすすりする。Shit! Zuru.
うーん。なんやえらい水っぽいどお。ウイスキーの色はしとるけど。
さらにもうひとすすり。
ちゃう。これ、ウイスキーとちゃう。
ヘイ! ミスター バーテンダー!アイ オーダード ウイスキー のっと ティー!
Oh Boy! はあ? お出ししたのはウイスキーですが・・・
なにゆうてんねん!
なんやったら、ちょっと飲んでみい。
彼はいぶかりながらひとすすりして、渋面を作った。
Just I bought it in suku-market this morning !
と言い捨て、新しいウイスキーグラスを前に置いた。
今度は本当のウイスキーだった。
ちゃんと、あるやん。そして思った。
あい ぼーてぃ いさーく まるけっと じす もーにん・・・うん?
このあたりではバーテンダーがウイスキーを市場まで買いに行くん?
なんで市場で偽物ウイスキーが堂々と売られているんや。こうたのは酒屋ではないな。
なんでよりによって、おれに紅茶ウイスキーを出したんや。ウイスキーはちゃんとあったやんし?
やがて私はホテルの部屋に戻り窓の外を眺めた。時折、山のふもとから赤い光が山頂へ飛んでいった。
曳光弾でもウットンのかいな?
そこには音もなく花火のような銃跡が流れている。
1980年。イラク・スレイマニアホテルでの嘘みたいなお話。
途方もない恐怖があの紅茶の不味さとともに私の頭の中ではじけた。