…或る寝苦しい真夏の夜の物語。
真夜中にA氏が目を覚ますと枕もとに
真っ赤な服を着た男が立っていた。
男はおそるそる訊いてみた。
「季節外れのサンタクロースのつもりか?」
「いいえ、しかし貴方のお望みのを何なりと
ひとつだけ叶えて差し上げましょう。」
「金だ!金をくれ!一生困らない金を!!」
…そしてA氏は世界有数のお金持ちになった。
しかし数日後には、強盗に襲われ
命を奪われてしまった。
B氏のもとにも真っ赤な服の男は現れた。
「女だ!女をくれ!世界一の美女たちを!!」
…B氏の女に不自由のない生活が始まった。
しかし数日後には、嫉妬に狂った男にB氏は
刺されて死亡した。
世界を手に入れようとしたC氏は暗殺され、
世界一強い男になりたかったD氏は、
慢心のため試合中の事故で死亡した。
…そして遂に赤い服の男がボクの前に現れた。
「あなたの望みは?」
「そうだな、素敵な彼女はいるし、
僅かだけど困らないぐらいの蓄えならある。
今の生活に不自由はないし幸せだと思うし
そうだ、こういうのでもいいですか?
ボクに関わった全ての人達も幸せにして
あげてください。
…なんてね。
ところで君の服はどうして真っ赤なの?」
「…私のこの服をあなたの血の色で染められ
なかったのは残念です…。」
そう不機嫌そうに言い残して
真夏のサンタクロースは姿を消した。