
◆女子サッカー・ロンドン五輪アジア最終予選 第4節(2011年9月8日 @中国・済南)
日本 1(0-0)1 北朝鮮 (@山東省スポーツセンター)
得点者:日本)82分 オウンゴール
北朝鮮)90分+2 キム・チョラン
韓国 3(1-0)0 タイ (@済南オリンピックスポーツセンター)
豪州 1(0-0)0 中国 (@済南オリンピックスポーツセンター)
※日本は2004年アテネ五輪以来3大会連続4度目の五輪出場が決定。
全ての団体球技を通じて初となるロンドン五輪出場権を獲得。
アジアサッカー連盟の今大会の関連ページ
日本サッカー協会の今大会の関連ページ
NHKの今大会の関連ページ
〔写真はロイターより〕
* * * * *
なでしこジャパンにとって鬼門の4戦目
「なでしこジャパン」こと日本女子代表はロンドン五輪アジア最終予選の第4戦を北朝鮮と山東省スポーツセンターでデーゲームで戦いました。直近のFIFAランキングでは、世界女王の日本は五輪最終予選参加国の中で最上位となる4位に対し、W杯では1次リーグで敗退したかつてのアジアの覇者の北朝鮮は3番目の12位。通算対戦成績では17戦5勝9敗3分と日本が負け越してます(なお、PK戦は引き分け扱い)。日本女子にとって宿敵北朝鮮との過去の対戦は、男子の韓国と同じく、その時点での日本の実力や状況を映し出す鏡のような存在だとも言えます。
日本が勝てば、1試合を残して予選首位通過が確定して、ロンドン五輪出場権を獲得。一方、北朝鮮が勝てば勝ち点10となって日本を逆転して首位に立ち、五輪出場権をほぼ手中に。引き分けだと、夜の中国vs豪州戦で、豪州が勝つか引き分けると日本の2位以内が確定して、ロンドンへの切符転がり込んで来ます。北朝鮮は勝ち点8になりますが、最終戦が最下位のタイ戦なので圧倒的に有利な状況でした。日本は試合の立ち上がりこそ、テンポの早いパス回しで北朝鮮陣内に攻め込み、前半5分にはFW永里優季のポストプレーからフリーだったMF大野忍がシュートを放つも枠を捉えることが出来ず、貴重な先制機を逃します。
しかし、以降は、持ち前の豊富な運動量と球際の強さを活かした北朝鮮が主導権を完全に掌握。連戦による疲労からなのか、運動量の少ない日本は北朝鮮の鋭い出足に後手を踏み、ボールを持った選手だけでなく、パスコースも消されて前方に配給する事すらままならず、後ろや横へボールを回す始末。ボールを奪った北朝鮮はスピードのあるサイドアタックを仕掛けて前線にハイクロスを送り、チャンスを何度も作り出します。日本の守備陣は跳ね返すも、北朝鮮はまるで網を張り巡らせるようにこぼれ球を悉く拾い、その都度波状攻撃を繰り返します。ただ、得点するには至らず、前半はスコアレスで折り返します。
後半も同様な展開が続き、北朝鮮の激しい攻勢に日本は防戦一方の展開に。日本は後半8分、大野から安藤梢に交代。さすがの北朝鮮も時間の経過とともに疲れが見えたのか、少しずつプレッシャーが緩くなって日本のパスが回り始めます。そして、後半37分、岩清水梓の前方への鋭いクロスに、ゴール前でフリーだった永里がダイレクトで右足でシュート。一旦、相手GKの右足に弾かれるも、それが北朝鮮DFに当たってゴールマウスに吸い込まれ、日本は相手のオウンゴールでまさかの先制点が転がり込みます。絶好の時間帯に先制点を取った日本はボールをキープして時間稼ぎをするも、守りに入る時間が少し早過ぎたのか、逆に北朝鮮の反撃を喰らいます。
そして、運命の後半ロスタイム。北朝鮮の波状攻撃を受けた日本は、DF近賀ゆかりが相手クロスをクリアミスしてしまい、途中出場のキム・チョランに豪快なミドルシュートを決められ、まさかの同点に追いつかれます。結局、試合は1-1のままタイムアップ。意外にも、シュート数がお互いに6本ずつで、ボール支配率が51%対49%と互角ですが、もしサッカーに判定があれば、間違いなく日本は大差での判定負けを喰らうほど、課題残る内容でした。一方、北朝鮮は大会前に5人が薬物事件で出場禁止を受けているとは思えないほどの高い実力でした。勝ち点10に留まった日本は自力で五輪出場権獲得には至らず、夜の中国vs豪州戦に委ねられる事になりました。
勝ち点5の中国は残り2戦を連勝すれば五輪切符を獲得できました。一方、豪州は連勝しても勝ち点が9にまでしか伸びず、2位争いはかなり苦しい立場でした。ちなみに、中国と豪州は昨年5月のアジア杯の1次リーグでも対戦し、中国が1-0で勝利してます(→詳細はこちら)。ただ、この試合は、既に準決勝進出を決めていた豪州がターンオーバー制を用いて主力を落として臨みました。対照的に、この試合に勝つ必要があった中国は主力を投入せざるをえなかったので疲労を残し、準決勝以降の2試合を全て敗れて4位に終わり、史上初めてW杯出場を逃した経緯があります。豪州は今回の試合もターンオーバー制を用いて前戦から6人を入れ替えるも、守備面での連係がかなり酷く、開始序盤から地元の大声援を受けた中国の猛攻に晒されて、2度の決定的なピンチを与えます。
しかし、中国は全てこれを外してしまい、重く圧し掛かります。次第に、地力に勝る豪州が試合を支配。そして後半17分、豪州はCKから波状攻撃を仕掛け、最後は混戦からバン・エグモンドが右足でダイレクトでボレーシュートを決めて、ついに均衡が破れます。中国の反撃は実らず、試合を優勢に進めた豪州が1-0で勝利。第4戦終了時点で中国が勝ち点で日本を上回らないことが確定。同時に、日本は1試合残して2位以内が確定し、他力本願ながらも3大会連続4度目の五輪出場権獲得を決めました。それにしても、第3国同士の試合に自国の運命を委ねるのは、本当に心臓に悪いです。まるで、14年前に行われた男子のフランスW杯アジア最終予選で、日本がソウルで韓国に2-0で勝利した翌日にアブダビ行われたUAEvsウズベキスタンの試合を思い出しました。
ちなみに、2006~2010年に行われた過去3大会のアジア杯の日本のスケジュールは、11~12日間で5試合を戦い、最初の3試合(1次リーグ)は全て中1日の日程でした。日本は現役の世界女王ですが、実はアジア杯では未だ優勝が皆無で、過去3大会とも4戦目で行われた準決勝で敗れてます(2006年大会が4位、2008年&2010年大会が3位)。アジア杯と今回の五輪予選は大会方式が全く異なるが、奇しくも大苦戦だった今回の北朝鮮戦も4戦目でした。やはり、大会8~9日目に行われる4戦目は疲労のピークを迎え、更には試合会場の芝もかなり荒れてくるので、パスサッカーを嗜好する日本は体力勝負に引きずり込まれて、持ち味の技術が減殺されることもあり、肝心な勝負所で苦戦を強いられる傾向があります。要するに、日本は5試合制の大会では、4戦目を鬼門にしているのです。
それを考えると、今回は内容が非常に悪いがらも、鬼門の4戦目で引き分けで勝ち点1を拾ったのは大きな意味がありました。言うまでもなく、この勝ち点1のおかげで4戦目での五輪出場権獲得に繋がったからです。もし負けたら、中国とのアウェー戦で決めなくてならなかったので、さすがにリスクが高かったです。更には、日本が北朝鮮と中国に連敗して豪州が残り2試合を連勝した場合、日豪両国は勝ち点9で並ぶも、得失点差で上回る豪州が五輪出場権を獲得して、逆に日本が予選敗退となりました。アジアの女子の国際大会は収支面や代表選手の拘束日数を考慮するので、どうしても開催期間が短く、更には少ない試合会場で開催されるケースが殆どです。なので、大会全体を通した戦略を描いて、ターンオーバー制で選手を上手にやりくりしないと、終盤の勝負所で必ず失敗します。秋に行われるU-16とU-19のアジア予選の出場枠は3ですが、大まかなレギュレーションは今回の五輪予選とほぼ同じなので、世界大会の切符を確実に勝ち抜く為にもよい教訓とすべきです。
ロンドン五輪で悲願のメダル獲得を目指して
W杯は己の実力に見合った目標を立てればよいが、五輪予選は結果が全てです。つまり「中間」というものが無く、天国か地獄だけしか存在しない過酷で非情な世界です。それだけに、今回の五輪予選は本当に恐怖と不安を覚えました。過去に最もそれらを感じたのは、7年前のアテネ五輪の予選でした。あの当時の国内女子サッカー界はどん底だったので、まさに己の存亡を賭けた戦いだったからです。しかし、世界女王として臨む今回のロンドンの予選は、負けたら自らの実力で勝ち得た地位と名声と信頼を一瞬にして失うだけでなく、世間やメディアから徹底的に糾弾されて、今後は存在そのものが完全に無視されたでしょう。ただでさえ、日本は代表チームへの依存度が高くて基盤が脆弱なだけに、数年前まで味わっていたあの真冬の暗黒時代の再来は必至でした。今回の五輪予選をボクシングで例えれば、戴冠して僅か1ヶ月半ばかりの世界王者が、指名挑戦者を相手に敵地で初防衛戦を戦うようなものです。要するに、メリットはあるが、それ以上に負けた時に失うものがあまりにも大き過ぎるので、かなりリスキーな戦いでした。
アテネの予選は、五輪出場権が直接懸かった準決勝で当時アジア最強だった北朝鮮を倒すことのみに専念さえすればよかったです。しかし、今回の予選は参加6ヶ国の総当り戦なので、全ての結果が順位に反映され、最弱のタイ戦ですら難しい戦いを余儀なくされました。しかも、五輪の出場枠は、W杯よりも1つ少ない僅か2枠だけ。世界最終予選も無ければ、大陸間プレーオフも無い。反日国家での完全アウェーの状況下、殺人的な過密日程。更には、W杯優勝後は選手達の取り巻く環境が激変。有名税をたっぷりと支払っただけでなく、連日の表彰式や様々な行事に駆り出されて、心身ともに疲弊。本来の調子から程遠いにも拘わらず、周囲から勝って当然だと見なされました。対照的に、ライバル国は徹底的に日本の弱点を粗探しをして、牙を研ぎ澄ませてました。マイナス材料がこれだけ多く揃っていた中、よく結果を出せたと思いますね。やはり、一度地獄を味わって長年もがき苦しんでから世界の頂点にまで登りつめただけに、代表選手たちは精神面で強靭に武装されてました。
もちろん、今回のロンドン五輪出場権獲得はリスクだけでなく、多くのメリットがあります。中でも、女子サッカーが、文部科学省が五輪でメダル獲得の有望な競技種目を指定して重点支援する「マルチサポート事業」のターゲット競技に格上げされることが最も大きいです(→詳細はこちら)。なお、現在の女子サッカーは、バドミントンとともに試行的な支援を受ける位置付けに留まっており、指定を受ければ団体球技では唯一となります。ちなみに、W杯で優勝したことにより、今回の五輪予選には文科省から国費でゲーム分析スタッフとトレーナーと栄養スタッフが派遣されました(→詳細はこちら)。ロンドン五輪はソフトボールと野球が除外されるので、団体球技の全12種目の中でメダル獲得の可能性があるのは、おそらく女子サッカーだけです。他の競技は、黄金時代がとっくの昔に過ぎ去ったバレーを含めて、メダルはおろか、本大会に出場するのがやっとなのが殆どです。前回北京五輪の開催国だった中国が予選に参戦するので、前回出場した7種目(ソフト&野球も含む)よりも減るのは確実です。
つまり、国から本格的な支援を受けられる女子サッカーは、ロンドン五輪ではメダル最有力候補の扱いを受けます。同時に、陸上の室伏広治、体操の内村航平、女子レスリングの吉田沙保里ら他の競技の世界王者とともに、なでしこジャパンは「日本選手団の顔」の役割を担うことになります。しかも、女子サッカーは開会式の2日前に他の競技に先駆けて実施されるので、俄然注目を集めます。決勝戦もしくは3位決定戦に進んだ場合、16日間で6試合も戦えるので、メディアへの露出量は半端ではなく、国内女子サッカー界を国民に幅広くアピール出来、好影響をもたらします。過去に出場した大会では、女子は男子の刺身のツマのような地味な扱いでしたが、間違いなく今度のロンドン五輪では立場が逆になるはずです。それこそは、かつて「東洋の魔女」と称された東京五輪の女子バレーのように、全国民から強い期待と重圧を受けて五輪本番に臨まなくてはなりません。とても大変な立場ですが、日本は前回北京五輪は4位に終わっただけに、選手達はメダル獲得の有無の違いを嫌というほど痛感してます。同時に、彼女達は世界一の重みも知ってます。来年のロンドン五輪は日本女子サッカー界の未来と存亡を賭けた分水嶺となるだけに、悔いの残らない素晴らしい成果を挙げることを心から期待したいです。
▼ロンドン五輪女子サッカーの出場国
(本大会は12チームが参加。女子の開催期間は2012年7月25日~8月9日)
開催国:英国 (実質的なイングランド代表の単独チームです)
欧州(2):スウェーデン、フランス
南米(2):ブラジル、コロンビア
北中米・カリブ海(2):2012年にカナダで開催される大陸予選の上位2ヶ国が五輪出場権獲得
アフリカ(2):大陸予選の上位2ヶ国が五輪出場権獲得
アジア(2):日本 (もう1ヶ国は9月11日に決定)
オセアニア(1):大陸予選首位の国が五輪出場権獲得
▼ロンドン五輪サッカーの試合会場
ウェンブリー・スタジアム(ロンドン) ※決勝戦の会場
オールド・トラッフォード(マンチェスター)
セント・ジェームズ・パーク(ニューカッスル)
シティ・オブ・コヴェントリー・スタジアム(コヴェントリー)
ハムデン・パーク(グラスゴー/スコットランド)
ミレニアム・スタジアム(カーディフ/ウェールズ)
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広州アジア大会回顧(中) 激戦必至となる団体球技の五輪切符争い
広州アジア大会回顧(下) 選手強化も「選択と集中」の時代へ
☆日本vs北朝鮮のダイジェスト
☆豪州vs中国のダイジェスト
日本 1(0-0)1 北朝鮮 (@山東省スポーツセンター)
得点者:日本)82分 オウンゴール
北朝鮮)90分+2 キム・チョラン
韓国 3(1-0)0 タイ (@済南オリンピックスポーツセンター)
豪州 1(0-0)0 中国 (@済南オリンピックスポーツセンター)
※日本は2004年アテネ五輪以来3大会連続4度目の五輪出場が決定。
全ての団体球技を通じて初となるロンドン五輪出場権を獲得。
アジアサッカー連盟の今大会の関連ページ
日本サッカー協会の今大会の関連ページ
NHKの今大会の関連ページ
〔写真はロイターより〕
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なでしこジャパンにとって鬼門の4戦目
「なでしこジャパン」こと日本女子代表はロンドン五輪アジア最終予選の第4戦を北朝鮮と山東省スポーツセンターでデーゲームで戦いました。直近のFIFAランキングでは、世界女王の日本は五輪最終予選参加国の中で最上位となる4位に対し、W杯では1次リーグで敗退したかつてのアジアの覇者の北朝鮮は3番目の12位。通算対戦成績では17戦5勝9敗3分と日本が負け越してます(なお、PK戦は引き分け扱い)。日本女子にとって宿敵北朝鮮との過去の対戦は、男子の韓国と同じく、その時点での日本の実力や状況を映し出す鏡のような存在だとも言えます。
日本が勝てば、1試合を残して予選首位通過が確定して、ロンドン五輪出場権を獲得。一方、北朝鮮が勝てば勝ち点10となって日本を逆転して首位に立ち、五輪出場権をほぼ手中に。引き分けだと、夜の中国vs豪州戦で、豪州が勝つか引き分けると日本の2位以内が確定して、ロンドンへの切符転がり込んで来ます。北朝鮮は勝ち点8になりますが、最終戦が最下位のタイ戦なので圧倒的に有利な状況でした。日本は試合の立ち上がりこそ、テンポの早いパス回しで北朝鮮陣内に攻め込み、前半5分にはFW永里優季のポストプレーからフリーだったMF大野忍がシュートを放つも枠を捉えることが出来ず、貴重な先制機を逃します。
しかし、以降は、持ち前の豊富な運動量と球際の強さを活かした北朝鮮が主導権を完全に掌握。連戦による疲労からなのか、運動量の少ない日本は北朝鮮の鋭い出足に後手を踏み、ボールを持った選手だけでなく、パスコースも消されて前方に配給する事すらままならず、後ろや横へボールを回す始末。ボールを奪った北朝鮮はスピードのあるサイドアタックを仕掛けて前線にハイクロスを送り、チャンスを何度も作り出します。日本の守備陣は跳ね返すも、北朝鮮はまるで網を張り巡らせるようにこぼれ球を悉く拾い、その都度波状攻撃を繰り返します。ただ、得点するには至らず、前半はスコアレスで折り返します。
後半も同様な展開が続き、北朝鮮の激しい攻勢に日本は防戦一方の展開に。日本は後半8分、大野から安藤梢に交代。さすがの北朝鮮も時間の経過とともに疲れが見えたのか、少しずつプレッシャーが緩くなって日本のパスが回り始めます。そして、後半37分、岩清水梓の前方への鋭いクロスに、ゴール前でフリーだった永里がダイレクトで右足でシュート。一旦、相手GKの右足に弾かれるも、それが北朝鮮DFに当たってゴールマウスに吸い込まれ、日本は相手のオウンゴールでまさかの先制点が転がり込みます。絶好の時間帯に先制点を取った日本はボールをキープして時間稼ぎをするも、守りに入る時間が少し早過ぎたのか、逆に北朝鮮の反撃を喰らいます。
そして、運命の後半ロスタイム。北朝鮮の波状攻撃を受けた日本は、DF近賀ゆかりが相手クロスをクリアミスしてしまい、途中出場のキム・チョランに豪快なミドルシュートを決められ、まさかの同点に追いつかれます。結局、試合は1-1のままタイムアップ。意外にも、シュート数がお互いに6本ずつで、ボール支配率が51%対49%と互角ですが、もしサッカーに判定があれば、間違いなく日本は大差での判定負けを喰らうほど、課題残る内容でした。一方、北朝鮮は大会前に5人が薬物事件で出場禁止を受けているとは思えないほどの高い実力でした。勝ち点10に留まった日本は自力で五輪出場権獲得には至らず、夜の中国vs豪州戦に委ねられる事になりました。
勝ち点5の中国は残り2戦を連勝すれば五輪切符を獲得できました。一方、豪州は連勝しても勝ち点が9にまでしか伸びず、2位争いはかなり苦しい立場でした。ちなみに、中国と豪州は昨年5月のアジア杯の1次リーグでも対戦し、中国が1-0で勝利してます(→詳細はこちら)。ただ、この試合は、既に準決勝進出を決めていた豪州がターンオーバー制を用いて主力を落として臨みました。対照的に、この試合に勝つ必要があった中国は主力を投入せざるをえなかったので疲労を残し、準決勝以降の2試合を全て敗れて4位に終わり、史上初めてW杯出場を逃した経緯があります。豪州は今回の試合もターンオーバー制を用いて前戦から6人を入れ替えるも、守備面での連係がかなり酷く、開始序盤から地元の大声援を受けた中国の猛攻に晒されて、2度の決定的なピンチを与えます。
しかし、中国は全てこれを外してしまい、重く圧し掛かります。次第に、地力に勝る豪州が試合を支配。そして後半17分、豪州はCKから波状攻撃を仕掛け、最後は混戦からバン・エグモンドが右足でダイレクトでボレーシュートを決めて、ついに均衡が破れます。中国の反撃は実らず、試合を優勢に進めた豪州が1-0で勝利。第4戦終了時点で中国が勝ち点で日本を上回らないことが確定。同時に、日本は1試合残して2位以内が確定し、他力本願ながらも3大会連続4度目の五輪出場権獲得を決めました。それにしても、第3国同士の試合に自国の運命を委ねるのは、本当に心臓に悪いです。まるで、14年前に行われた男子のフランスW杯アジア最終予選で、日本がソウルで韓国に2-0で勝利した翌日にアブダビ行われたUAEvsウズベキスタンの試合を思い出しました。
ちなみに、2006~2010年に行われた過去3大会のアジア杯の日本のスケジュールは、11~12日間で5試合を戦い、最初の3試合(1次リーグ)は全て中1日の日程でした。日本は現役の世界女王ですが、実はアジア杯では未だ優勝が皆無で、過去3大会とも4戦目で行われた準決勝で敗れてます(2006年大会が4位、2008年&2010年大会が3位)。アジア杯と今回の五輪予選は大会方式が全く異なるが、奇しくも大苦戦だった今回の北朝鮮戦も4戦目でした。やはり、大会8~9日目に行われる4戦目は疲労のピークを迎え、更には試合会場の芝もかなり荒れてくるので、パスサッカーを嗜好する日本は体力勝負に引きずり込まれて、持ち味の技術が減殺されることもあり、肝心な勝負所で苦戦を強いられる傾向があります。要するに、日本は5試合制の大会では、4戦目を鬼門にしているのです。
それを考えると、今回は内容が非常に悪いがらも、鬼門の4戦目で引き分けで勝ち点1を拾ったのは大きな意味がありました。言うまでもなく、この勝ち点1のおかげで4戦目での五輪出場権獲得に繋がったからです。もし負けたら、中国とのアウェー戦で決めなくてならなかったので、さすがにリスクが高かったです。更には、日本が北朝鮮と中国に連敗して豪州が残り2試合を連勝した場合、日豪両国は勝ち点9で並ぶも、得失点差で上回る豪州が五輪出場権を獲得して、逆に日本が予選敗退となりました。アジアの女子の国際大会は収支面や代表選手の拘束日数を考慮するので、どうしても開催期間が短く、更には少ない試合会場で開催されるケースが殆どです。なので、大会全体を通した戦略を描いて、ターンオーバー制で選手を上手にやりくりしないと、終盤の勝負所で必ず失敗します。秋に行われるU-16とU-19のアジア予選の出場枠は3ですが、大まかなレギュレーションは今回の五輪予選とほぼ同じなので、世界大会の切符を確実に勝ち抜く為にもよい教訓とすべきです。
ロンドン五輪で悲願のメダル獲得を目指して
W杯は己の実力に見合った目標を立てればよいが、五輪予選は結果が全てです。つまり「中間」というものが無く、天国か地獄だけしか存在しない過酷で非情な世界です。それだけに、今回の五輪予選は本当に恐怖と不安を覚えました。過去に最もそれらを感じたのは、7年前のアテネ五輪の予選でした。あの当時の国内女子サッカー界はどん底だったので、まさに己の存亡を賭けた戦いだったからです。しかし、世界女王として臨む今回のロンドンの予選は、負けたら自らの実力で勝ち得た地位と名声と信頼を一瞬にして失うだけでなく、世間やメディアから徹底的に糾弾されて、今後は存在そのものが完全に無視されたでしょう。ただでさえ、日本は代表チームへの依存度が高くて基盤が脆弱なだけに、数年前まで味わっていたあの真冬の暗黒時代の再来は必至でした。今回の五輪予選をボクシングで例えれば、戴冠して僅か1ヶ月半ばかりの世界王者が、指名挑戦者を相手に敵地で初防衛戦を戦うようなものです。要するに、メリットはあるが、それ以上に負けた時に失うものがあまりにも大き過ぎるので、かなりリスキーな戦いでした。
アテネの予選は、五輪出場権が直接懸かった準決勝で当時アジア最強だった北朝鮮を倒すことのみに専念さえすればよかったです。しかし、今回の予選は参加6ヶ国の総当り戦なので、全ての結果が順位に反映され、最弱のタイ戦ですら難しい戦いを余儀なくされました。しかも、五輪の出場枠は、W杯よりも1つ少ない僅か2枠だけ。世界最終予選も無ければ、大陸間プレーオフも無い。反日国家での完全アウェーの状況下、殺人的な過密日程。更には、W杯優勝後は選手達の取り巻く環境が激変。有名税をたっぷりと支払っただけでなく、連日の表彰式や様々な行事に駆り出されて、心身ともに疲弊。本来の調子から程遠いにも拘わらず、周囲から勝って当然だと見なされました。対照的に、ライバル国は徹底的に日本の弱点を粗探しをして、牙を研ぎ澄ませてました。マイナス材料がこれだけ多く揃っていた中、よく結果を出せたと思いますね。やはり、一度地獄を味わって長年もがき苦しんでから世界の頂点にまで登りつめただけに、代表選手たちは精神面で強靭に武装されてました。
もちろん、今回のロンドン五輪出場権獲得はリスクだけでなく、多くのメリットがあります。中でも、女子サッカーが、文部科学省が五輪でメダル獲得の有望な競技種目を指定して重点支援する「マルチサポート事業」のターゲット競技に格上げされることが最も大きいです(→詳細はこちら)。なお、現在の女子サッカーは、バドミントンとともに試行的な支援を受ける位置付けに留まっており、指定を受ければ団体球技では唯一となります。ちなみに、W杯で優勝したことにより、今回の五輪予選には文科省から国費でゲーム分析スタッフとトレーナーと栄養スタッフが派遣されました(→詳細はこちら)。ロンドン五輪はソフトボールと野球が除外されるので、団体球技の全12種目の中でメダル獲得の可能性があるのは、おそらく女子サッカーだけです。他の競技は、黄金時代がとっくの昔に過ぎ去ったバレーを含めて、メダルはおろか、本大会に出場するのがやっとなのが殆どです。前回北京五輪の開催国だった中国が予選に参戦するので、前回出場した7種目(ソフト&野球も含む)よりも減るのは確実です。
つまり、国から本格的な支援を受けられる女子サッカーは、ロンドン五輪ではメダル最有力候補の扱いを受けます。同時に、陸上の室伏広治、体操の内村航平、女子レスリングの吉田沙保里ら他の競技の世界王者とともに、なでしこジャパンは「日本選手団の顔」の役割を担うことになります。しかも、女子サッカーは開会式の2日前に他の競技に先駆けて実施されるので、俄然注目を集めます。決勝戦もしくは3位決定戦に進んだ場合、16日間で6試合も戦えるので、メディアへの露出量は半端ではなく、国内女子サッカー界を国民に幅広くアピール出来、好影響をもたらします。過去に出場した大会では、女子は男子の刺身のツマのような地味な扱いでしたが、間違いなく今度のロンドン五輪では立場が逆になるはずです。それこそは、かつて「東洋の魔女」と称された東京五輪の女子バレーのように、全国民から強い期待と重圧を受けて五輪本番に臨まなくてはなりません。とても大変な立場ですが、日本は前回北京五輪は4位に終わっただけに、選手達はメダル獲得の有無の違いを嫌というほど痛感してます。同時に、彼女達は世界一の重みも知ってます。来年のロンドン五輪は日本女子サッカー界の未来と存亡を賭けた分水嶺となるだけに、悔いの残らない素晴らしい成果を挙げることを心から期待したいです。
▼ロンドン五輪女子サッカーの出場国
(本大会は12チームが参加。女子の開催期間は2012年7月25日~8月9日)
開催国:英国 (実質的なイングランド代表の単独チームです)
欧州(2):スウェーデン、フランス
南米(2):ブラジル、コロンビア
北中米・カリブ海(2):2012年にカナダで開催される大陸予選の上位2ヶ国が五輪出場権獲得
アフリカ(2):大陸予選の上位2ヶ国が五輪出場権獲得
アジア(2):日本 (もう1ヶ国は9月11日に決定)
オセアニア(1):大陸予選首位の国が五輪出場権獲得
▼ロンドン五輪サッカーの試合会場
ウェンブリー・スタジアム(ロンドン) ※決勝戦の会場
オールド・トラッフォード(マンチェスター)
セント・ジェームズ・パーク(ニューカッスル)
シティ・オブ・コヴェントリー・スタジアム(コヴェントリー)
ハムデン・パーク(グラスゴー/スコットランド)
ミレニアム・スタジアム(カーディフ/ウェールズ)
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広州アジア大会回顧(下) 選手強化も「選択と集中」の時代へ
☆日本vs北朝鮮のダイジェスト
☆豪州vs中国のダイジェスト

というのも89イタリアW杯アジア最終予選で
当時アジアでは無敵だった韓国が1位通過したのですが5戦全勝ではなく3勝2分での突破ですから、短期間に5試合というシステムでは5連勝で
予選突破は現実的ではありません。
実力的には日朝豪の3カ国の中から2カ国という感じでしたし、日本と北朝鮮はオーストラリアから勝ってましたので残り2試合は負けなければOKと思ってました。
そしてオーストラリアと中国の力関係を考慮した場合、中国が2勝1分で来ていたのなら日本も勝たないとダメでしょうけど1勝2分だから中国が勝たないとダメという展開でしたので得点力不足の中国がオーストラリアに勝つのは難しいと考えてました。
だから‘早過ぎる時間潰し’などとも叩かれてましたけど、下手にシュートを打ってカウンターから切り返されて追いつかれると逆転もありましたが 残り時間も少なかったので引き分けに持ち込めたと思ってます。
試合自体は完全に北朝鮮ペースでしたから、
もう少し相手に決定力があれば厳しかったと思
うので、引き分けただけでもOKでしょう。
とりあえず これで休養できますから、じっくり疲れを取って来年のロンドンでの秘密兵器の
発掘に携わって欲しいものです。
明日の中国戦は控え中心メンバーで臨んでもらいたいですね。
それにしても、女子の日程は男子と比較しても過酷すぎますよね。
過去に行われた男子の参加6ヶ国の総当たり戦を方式の大会を調べると、イタリアW杯アジア最終予選は17日間、米国W杯アジア最終予選は14日間、バルセロナ五輪アジア最終予選が13日間です。
W杯での北朝鮮は1次リーグで敗退(しかも2戦目で)したのに対し、日本は決勝戦まで残ったのだから五輪予選に向けた準備期間が短くなるのは必然でした。
ましてや、帰国後の国内の過熱騒動で休む暇もなかったので、他の予選参加国に比べて体調が思わしくないのは無理もないです。
悪いコンディションの中、負け試合を引き分けに持ち込んで結果を出したのは評価できます。
イタリアW杯予選の時の韓国の様に、1試合を残して決めたのは本当によかったです。
なぜなら、北朝鮮戦がああいう終わり方をしたので、疲労だけでなく、精神的なショックも抱えていたからです。
ただ、五輪で悲願のメダルを獲得する為には、北朝鮮のような世界のセカンドクラスに確実に勝利する力をつける必要があります。
同じアジアの北朝鮮とは五輪本大会の1次リーグで同組になることはおそらくないですが、準々決勝以降に対戦する可能性があります。
ドイツが出ないロンドン五輪はメダル獲得を出来るまたとないチャンスなので、確実に準決勝に進出する為にはこの手の相手に寝首を掻かれないことが絶対に重要です。
また、五輪予選は18名だけしか登録できないので、控え選手の整備は喫緊の課題ですね。
というのも、五輪とW杯は同じ6試合ですが、五輪は5日間も短いので同じ選手だけで乗り切るのは厳しいからです。
控え選手で戦うことが予想される今日の中国戦も含めて、佐々木監督の手腕が問われますね。