ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

ダイニングテーブルを囲み 3話

2024-05-18 10:20:00 | 
  ⑴
 ゴールデンウィークの最中だ。
受話器を取ると、「久しぶり」の声の次に、
「連休中だけど、何か予定はある?」
と問われた。
 「特段の計画はないけど・・・」
と応じた。

 すると、
「じゃ、会いに行くわ」。
 「いつ?」
やや間が、
「・・・ううん、明日、行く!
明日で、いいかい?」。
 やや驚きながらも、
「いいよ。2人で来るの?!」

 「うん、一緒に行く。
車で・・、お昼頃着くと思う。」
 「高速道でしょう。
インターの近くまで来たら、電話して。
 道案内するから。
着いたら、一緒にお昼ご飯を食べよう」
 「わかった。じゃ、明日!」。

 余りにも突然のことだ。
2人とは、大学時代の友人である。
 初めて伊達の我が家にやって来るのだ。

 翌日、家内が用意した昼食を前に、
「会いたいと思う人と、
いつかではなく今会っておこうと思ってサ。
 だから、急でも構わないから、
後悔しないようにとやってきましたよ」
と彼は言う。
 嬉しかった。

 彼をYさん、奥さんをKちゃんと呼び、
食べながら、思い出話に花が咲いた。
 そして互いの近況報告に、
時間はアッと言う間に過ぎた。
 
 そんな団らんの合間だった。
Kちゃんが、目の前の五目チラシを食べながら
 「私、白いご飯があまり好きじゃないの。
だから、これすごく美味しい!」
と、若い頃と変わらない笑顔を作った。 
 
 同じ趣向仲間がいた。
「それって同感だよ。
嫌いと言う訳じゃないけど、どうも白いご飯はイマイチで、
いつも納豆とかふりかけとかをかけないとね・・」
「そうよね。そうするといいけれど、
白いままじゃね」。

 それに対し、Yさんも家内も
「白いままが美味しいのに」と。
 でも、Kちゃんも私も、
「そうじゃない」と譲らない。
 急の再会も良かったが、
それにプラスアルファー、白米への共感者がいた。


 ⑵
 麺類が好物である。
ラーメンやそば、うどんなら、例え毎食でも構わない。
 焼肉屋へ行っても、
最後は真冬も冷麺でなければならなっかった。

 さて、スパゲッティーも麺類だ。
貧乏学生だった頃、奨学金支給日にだけ、
ナポリタンを食べに行った。
 ずっとパスタは、
ナポリタンの味で満足だった。
 
 40代になった頃だったか、
飲んだシメに、ペペロンチーノが出てきた。
 それまでは知らなかった美味しさに驚いた。
それからはその店に行くと、
最後はペペロンチーノを注文した。

 徐々に、イタリアンレストランが増え、
どこの店にもペペロンチーノのメニューがあった。
 店によって味は若干違ったが、
ニンニクの効いた美味しさは、パスタにぴったり。

 次第に、他のパスタメニューにも惹かれるようになった。 
カルボナーラ以外は、大好物になった。

 半年前になるだろうか、
市内スーパーの生麺のコーナーに、
生うどんや生そばと一緒に、
生パスタが並んでいるのに気づいた。

 生パスタ以外の麺は、
複数の製麺所からのものが、
種類豊富に場所を取っていた。
 だが、生パスタは、
M製麺所の細麺と太麺の2種類が、
ひっそりと置かれていた。

 市内のレストランでも、
生パスタのメニューを見たことがあった。
 しかし『生』に惹かれて、
オーダーしたことはなかった。
 同様に、スーパーに並んだ生パスタに、
特別の関心はなかった。 
 ただ何故か物珍しくて、
たびたびその棚に立ち止まった。
 
 「一度、食べてみたら・・!?」
家内の誘いに、2食入り細麺の袋に手が伸びた。
 乾麺パスタはどのメーカーも、
ゆで時間7分程度だったが、
生パスタは2分から2分半でいいと、
袋に説明書きがあった。
 「これは、手軽でいい!」。   

 その日、茹でたあと湯切りをして、
平皿にのせた。
 市販のスパゲッティーソースをかけて、
混ぜ合わせみた。

 私は『旨辛ペペロンチーノ』ソース、
家内は『きのこと野沢菜』ソース。

 もちもちした食感に驚いた。
ソースもよく絡んだ。
 新しい美味しさに出会った。

 家内のも少々つまみ食い。
どちらも生パスタに合っていた。

 好きな麺料理が1つ増えた。
「今度は、太麺を試してみよう!」
 家内も、賛成してくれた。
   
   
 ⑶
 4人がけのダイニングテーブルは部屋の中央だが、
大きな窓と平行に置いてある。

 だから、向き合って座ると、
1人は窓を背にするが、
もう1人は、外を見ることができた。

 窓からは、駐車場の先の通りが見え、
通学の子や散歩の方、通過する車もわかった。
 時には、小枝に止まる小鳥も・・。

 1日に3回、それらを見ながら食事をする人、
全く目にできない人。
 ふと、公平感に差があることに気づいた。

 今までは、ずっと外が見える席に私が座っていた。
でも、2ヶ月前から月ごとに席を交替するように改めた。

 私は、初めて窓を背にした。
家内は通りを歩く人を見て、
「あら、久しぶりにHさんが通った。
しばらく見なかったけれど、元気そう」。
 ずっと私が言っていたのと同じようなことを言った。

 それを聞いて、私は思わず体を反転させて外を見る。
すでにHさんの姿はなくなっていた。
 「なんだ。もう行っちゃったのか!」
以前、家内が言っていた決めぜりふを言う。

 一度や二度じゃない。
毎日食事時には、同様のことをくり返す。
 半月が過ぎると、早く元の席に戻りたくなった。

 そして、今月は外の見える席が私。
でも、残り半月で交替だ。
 公平感に差があるなんて、気づかなきゃよかった。
「もう遅い! 本当に失敗した!」




   ~鈴蘭だから?~立ち止まる
コメント
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