初音

日曜日の夜をのんびり物まね番組を見て過ごしていたら

ＣＭ中に嫌なチャイムが画面から聞こえて来た

去年の３月以降さんざん聞かされたあの緊急地震速報だ

福島から茨城、千葉にかけて強い揺れに注意と促している

思わず身構えてしまう私

しかしパソコンの電源も切らないまま

その場で固まってしまった

数秒後、襖がガタガタと音を立て始め若干の横揺れを感じた

テレビは即座に各地の震度を発表している

最大震度は福島浜通りで５弱だった

フジのニュースショーでは更に緊急地震速報が画面に映し出され

例のチャイムが鳴ったがすぐに取り消された

地震はほぼ毎日何処かで起きているが

１人で自宅に居る時の揺れほど心細い事はないと改めて痛感した


さて店の話に移ろう

金曜日は嘘の様に暇だったが

土曜日は早い時間からお客様に恵まれた

そんな中、若い２人連れの女性がドアを開けた

店の真裏に住んでいた初音だ

今は仕事の関係で広島に居るが久々にコチラに帰って来た様だ

彼女はお母さんと２人暮らしだった

店前でキャッチしていると学校帰りの彼女をよく見かけた

アイドル時代の岸本加世子の様な瞳の大きな童顔が印象的だった

ちょっと生意気な所もあったが時間が経つにつれ

プライベイトな話もしてくる様になった


名門女子大を卒業後、有名デパートに就職した初音

職場の愚痴もよく聞かされたが

ある時、とても深刻な事を打ち明けて来た

実はお母さんが脳梗塞で倒れて入院していると言うのだ

彼女のお母さんも私とは面識があり

お勤め帰りには必ず挨拶を交わしていた

とても元気そうだったのに…

近隣の病院とは言え初音も勤めの身

そうそう見舞いにも行ってられない

お母さんの弟さんが近くに居るらしいがアテにならない

結局、寝る間を惜しんで初音が看病した


お母さんは数ヵ月後に退院したが後遺症が残った

久々に見かけた彼女の変わり果てた姿には絶句した

それでも懸命にリハビリに通っていると初音に聞かされていた

そんなある日、また彼女の顔が曇っていた

「広島に転勤になったわ」

まだ不完全な身の母親をひとり残して遠い広島に行くのは心配で

いっその事、会社を辞める事まで考えたらしい

しかし思い留まって結局広島へ赴任した

長い休みにはすぐに戻って来てお母さんを看ていた

最後に初音を見かけたのは数ヶ月も前だった


「あら～久し振り！

　いつ帰って来てたの？」

友達の結婚式に出席した帰りに立ち寄ってくれたそうだ

一緒に出席したマヨも一度当店に遊びに来ている

「アタシの事覚えてる～？」

エメラルドグリーンのワンピースが鮮やかだ

ロリコン顔の初音とは正反対の大人びたルックス

「今、彼氏の事で悩んでいるの

　結婚をするべきかどうか…」

早速占ってみたら６年先まではお互いに時期が悪い

「でも３０越えちゃうわ～」

細い身体をよじらせながらマヨは悩んでいる

その横で初音も

「アタシの事も見て～」

どうやら転職を考えているようだ

続きは次回…















此処のところ首都直下型地震を懸念するマスコミ報道で

日々不安な生活を送る人が増えていると思う

私もその１人だが緊急地震速報の