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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『最後の追跡』

2016-12-16 | 映画レビュー(さ)

 ニューシネマと呼ばれる映画群が生まれた背景の1つがベトナム戦争への反抗であり、戦争=人殺しをする事で一生涯背負ってしまった罪と傷を白日の下に晒すためのものだったように思う。デヴィッド・マッケンジー監督による『最後の追跡』(=原題“Hell or High Water”)は冒頭、テキサスの田舎町の壁にこんな殴り書きを見つける“3回イラクに行ったのに支援なし”。

マッケンジー監督はニューシネマや、サム・ペキンパーへオマージュを捧げながらイラク戦争後にアメリカが背負った十字架を観る者に突きつけ、それは“トランプ旋風”によって分断された今日、厳しく映る。主人公兄弟は住宅ローンによって帰るべき家を押さえられてしまった事から、テキサスの地銀を狙った銀行強盗を繰り返す。行員の出社時間を狙った大胆不敵かつ緻密な犯行は成功し続けるが、彼らを追うテキサスレンジャーによってその包囲網は狭められつつあった。

冒頭から目を見張るショットを連発するカメラと、乾いた音楽を奏でるニック・ケイヴのスコアが本作を“ネオウエスタン”として彩り、キャストも素晴らしいアンサンブルを披露する。『スター・トレック』以外の代表作を手に入れたクリス・パイン、“ショーン・ペン化”にますます磨きのかかるベン・フォスター、そしてジェフ・ブリッジスが十八番とも言える保安官役で豪放な魅力を放つ。老いたりといえどもやんちゃな若大将っぷりはかつての『サンダーボルト』を彷彿とさせ、ニューシネマ的な文脈を未だ描き続けている作家イーストウッド(そしてマイケル・チミノ)と本作を邂逅させている。

イギリス人監督マッケンジーによる虚実入り混じったテキサス像はやがて映画に神話的な奥行をもたらしていく。贖罪し続ける事の過酷さを描いた作品は近年、ついぞなかったのではないか。これは“2016年のニューシネマ”なのだ。


『最後の追跡』16・米
監督 デヴィッド・マッケンジー
出演 クリス・パイン、ベン・フォスター、ジェフ・ブリッジス

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