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小説 山あいの町4

2016-09-27 23:21:59 | 小説 山あいの町
4


 子供部屋に入ると、始ちゃんと莉子が話していた。
「あ、お姉ちゃんおかえり」
 妹がニヤニヤと笑いながら言う。始ちゃんと仲良く話す莉子を苛立たしげに見ながら、挑発に乗るまいと無視をする。
「お、美穂ちゃん久しぶり。お邪魔してます」
「いらっしゃいませ始ちゃん。ゆっくりしてってね。ちょっと待ってて、お風呂入れてくるから」
 違和感なく話せたかな。そんな風に思いながら、始ちゃんの顔もロクに見ないままに、自分の部屋に入る。着る服を少し悩んだけれど、お風呂掃除をするのに外着を着るのも変な話だ。だからいつも通りの部屋着に着替えた。


 我が家の子供部屋は、もともと客室だった。私と莉子が基地に変えて、それがそのまま子供部屋になった。要は、姉妹で遊んだり友達を呼んだときに使う部屋だ。小学校時代、私と莉子と始ちゃんは、よく子供部屋でダラダラとしたものだった。

 適当にお風呂を洗い、湯船にお湯をそそぎはじめる。お風呂の鏡を見ながら、少しだけ髪を直した。莉子のやつ、私が始ちゃんのことを好きなのを気づいてる。分かっていて、私の眼の前で楽しそうに始ちゃんと話すのだ。腹が立つ。

 子供部屋に戻ると、始ちゃんがいた。当たり前のことだけど、そういうひとつひとつに感動する。
「お待たせ、始ちゃん。うちに来るの久々だよね。今日はどうしたの?」
「母親が出張行くとかでさ。美穂ちゃんとこ行きなさいって言われたんだよ。高校三年生にもなって一人で晩飯も食えないと思われてんの、結構ショック」
 そう言いながら始ちゃんが足を伸ばす。始ちゃんはそんなに背が高い方じゃないけど、足を伸ばすとやっぱり大きい。私や莉子じゃ、この部屋はこんな風に狭くならない。始ちゃんは子供の頃から変わらず始ちゃんだ。それと同時に、もう男の人なんだって実感する。
「心配性だもんね、おばさん」
 私はそう言って笑った。妹がこちらを細めで見てくる。なんだ、やるのか。私は睨み返す。妹は眼を横に逸らしてから、億劫そうに立ち上がった。
「お皿並べるの手伝ってくる。始ちゃんとお姉ちゃんはゆっくりしといて」
「俺も行くよ」
 当然のように始ちゃんが言う。
「いいよ。お客様なんだし。手伝いもしなかったらお姉ちゃんがぎゃーぎゃーうるさいし」
「はあ?私がいつうるさくしたのさ」
「そういうとこだって言ってんじゃん。人の好意くらい大人しく受け取りなさい馬鹿姉」
 中学二年生の妹は、日に日に生意気になっていく。でも、今回はいい仕事だ。あとで秘蔵のハーゲンダッツを与えてやろう。そう思いながら、私は表面上ため息をついた。
「はいはい、お願いね」
 その様子を見ながら、始ちゃんがケラケラと笑う。
「変わんないなあ、二人とも」

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