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帰りのショートホームルームが終わって、運動部の男子が教室を飛び出しだす。野球部やサッカー部の男子は少し怖いけれど、彼らの持っているエネルギーには圧倒される。大変な練習が待っているのに、なんであんな風にグラウンドに飛び込んでいけるのだろう。
始ちゃんもあんな風だったのかな。違うと思う。始ちゃんは、もっと静かにグラウンドへ行く。始ちゃんにとってグラウンドは、戦う場所だ。野球部やサッカー部だって、遊ぶつもりでグラウンドへ行ってるわけじゃないだろう。それでもやっぱり、始ちゃんの心構えとは違うのだ。
グラウンドへ向かう始ちゃんを見たことがある。ピリピリと張り詰めていて、私の知っている始ちゃんじゃないみたいだった。話しかけられずに見送って、そのとき私は悟った。私は、戦っている彼のことを何も知らないのだと。そして、陸上部の人たちはその始ちゃんを知っているのだと。愕然として、嫉妬した。
「美穂、帰ろ」
藤森が話しかけてくる。
「藤森、今日ミヤマ行かない?」
「ごめん、今日は無理。バイトあるんだ」
藤森がバイトをしてるのは初耳だった。帰宅部で放課後が暇だった仲間として、何か裏切られたような気持になる。
「バイトしてたんだ。知らなかった」
「近所の子の家庭教師やってんだ。お母さんから私がここ通ってること聞いたらしくてさあ。ぜひ家庭教師をなんて頼まれてんの。周りから見るとこの高校の生徒って、家庭教師を頼みなたくなるような存在なんだね」
「なにそれ、受ける」
私は率直な感想を口にする。この高校だっていろいろいる。入って成績落とした人も、不真面目な人も、人とろくに話せないような人も。それなのに人は、この高校だってだけで、人にものを教える能力があると思ってしまう。変な話だった。社会の目なんていうのは、優等生をやっているうちは味方になる。それだから社会の目は、私たちが意識をしなくても私たちを味方する。それは確かに心地がいいのだけど、敵に回った時には辛いんだろうな。そんな風にも思う。でも私たちは、今の所は優等生をやめるつもりもない。だから少しだけ、社会が味方してくれる今を甘受しよう。
「それじゃ、私一人でミヤマ行くよ。お姉さん独占してくる」
「ずるい。抜け駆けじゃん」
「放課後同盟を破棄したのは藤森でしょ。お仕事頑張ってきなさい」
文句を言い続ける藤森と校舎を出て、最初の道で別れた。
帰りのショートホームルームが終わって、運動部の男子が教室を飛び出しだす。野球部やサッカー部の男子は少し怖いけれど、彼らの持っているエネルギーには圧倒される。大変な練習が待っているのに、なんであんな風にグラウンドに飛び込んでいけるのだろう。
始ちゃんもあんな風だったのかな。違うと思う。始ちゃんは、もっと静かにグラウンドへ行く。始ちゃんにとってグラウンドは、戦う場所だ。野球部やサッカー部だって、遊ぶつもりでグラウンドへ行ってるわけじゃないだろう。それでもやっぱり、始ちゃんの心構えとは違うのだ。
グラウンドへ向かう始ちゃんを見たことがある。ピリピリと張り詰めていて、私の知っている始ちゃんじゃないみたいだった。話しかけられずに見送って、そのとき私は悟った。私は、戦っている彼のことを何も知らないのだと。そして、陸上部の人たちはその始ちゃんを知っているのだと。愕然として、嫉妬した。
「美穂、帰ろ」
藤森が話しかけてくる。
「藤森、今日ミヤマ行かない?」
「ごめん、今日は無理。バイトあるんだ」
藤森がバイトをしてるのは初耳だった。帰宅部で放課後が暇だった仲間として、何か裏切られたような気持になる。
「バイトしてたんだ。知らなかった」
「近所の子の家庭教師やってんだ。お母さんから私がここ通ってること聞いたらしくてさあ。ぜひ家庭教師をなんて頼まれてんの。周りから見るとこの高校の生徒って、家庭教師を頼みなたくなるような存在なんだね」
「なにそれ、受ける」
私は率直な感想を口にする。この高校だっていろいろいる。入って成績落とした人も、不真面目な人も、人とろくに話せないような人も。それなのに人は、この高校だってだけで、人にものを教える能力があると思ってしまう。変な話だった。社会の目なんていうのは、優等生をやっているうちは味方になる。それだから社会の目は、私たちが意識をしなくても私たちを味方する。それは確かに心地がいいのだけど、敵に回った時には辛いんだろうな。そんな風にも思う。でも私たちは、今の所は優等生をやめるつもりもない。だから少しだけ、社会が味方してくれる今を甘受しよう。
「それじゃ、私一人でミヤマ行くよ。お姉さん独占してくる」
「ずるい。抜け駆けじゃん」
「放課後同盟を破棄したのは藤森でしょ。お仕事頑張ってきなさい」
文句を言い続ける藤森と校舎を出て、最初の道で別れた。