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昭和の防人②―斎藤昭彦さんに関連する書想『ゴルゴ13』シリーズ

2005-05-28 02:19:06 | 書想(国際政治)
「昭和の防人①」の続き。

■齋藤昭彦さんの経歴


1976年、千葉市内県立高校に入学。
1977年6月末、一身上の都合により退学。
1979年1月、陸上自衛隊に入隊し、北海道の第6普通科連隊に配属。
1980年、千葉県習志野の第1空挺団普通科群第2中隊に配属。
1981年1月、任期満了で除隊。
(5月11日の朝日新聞より)


これ以外の情報としては、油絵を描き原稿用紙に文章を書き溜めていたこと。20歳の時に外国に渡ったこと。10年前に一時帰国した時から家族とは音信普通状態であったこと。2003年11月に母親が急死したが、その三ヶ月前にワインやチョコレートが手紙も住所記載も無く届いたこと。などが新聞に載っているだけである。

■フランスに急行したテレビ局のカメラは、外人部隊の元同僚やアパートの大家さんのコメントを集めて放送したけれど、特に人物像がくっきりと浮かび上がるような内容ではなかった。外人部隊時代に撮影された訓練中の表情が何度もニュースに使われたが、そこからも目付きの鋭さと鍛えられた肉体という、傭兵としては当然の情報しか得られなかった。彼が何を考え、「日本を捨てたのか?」という大問題に、敢えて触れようとしたマスコミは今のところ見当たらないようだ。記者会見に引き出された三人兄弟の末っ子、博信さんは言葉少なに「外務省、国民の方にご心配、ご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。……」と語るだけで、兄の内面を語る言葉は持ち合わせていないようであった。72歳という父親の正蔵さんは、一切取材に応じないのか、マスコミ側が自粛しているのかは分からないが、父子関係も不明のままである。

■「傭兵(ようへい)」「フランス外人部隊」「民間軍事会社」などの耳慣れない言葉に、日本のマスコミは明らかに拒絶反応を示した。しかし、『ゴルゴ13』を愛読している人達の目には、マスコミ界の平和ボケの深刻さばかりが印象に残ったのではなかろうか?


第235話 「ワイルドギース」SPコミック第74巻(1986年度作品)冒頭に、「中世の英国では、王侯貴族が私兵を蓄えた。雇われ兵は求めに応じて王侯らの間を渡り歩いたところから、“渡り鳥の雁(がん)”=ワイルド・ギースと呼ばれた。転じて、傭兵をワイルド・ギースと呼ぶようになった……」

ニュージーランドのオークランド港で、フランスが準備していたムルロア環礁での核実験に反対する環境保護団体グリーンピース(作中ではグリーンベルト)の船が爆破されたが、それは傭兵業者のホートン大佐が請け負った仕事だった。現場で逮捕されたスイス人パスポートを所持していた男女は、DGSE(フランス対外治安総局)の連絡員で、傭兵部隊の仕事ぶりを監視していたのを怪しまれただけである。毎年、米国のラスベガスで開催されるスタッド・ポーカー大会の常連でもあるホートン大佐が、現地に入って賭博仲間とホテルのプールサイドで会話する。


「私の組織は、国際的な名声を博しており、そのサービスはきわめて幅広い範囲にわたっている……」
「たとえば、どんな?」
「情報、破戒工作、反乱鎮圧、敵性地域からの個人救出、または逮捕……」
「反乱を鎮圧する目的で、敵性地域へ侵入し、指導者を倒すとする、その場合はいくらになる……?」
「それは派遣部隊の人員と稼動日数によって違うぜ……週400ドルの給料で、250人の兵を4週間なら……」


■週に400ドル=8万円(当時の為替相場)ならば、日給は12000円弱になる。齋藤昭彦さんが所属していた英国のハート社では、日給2万円~6万円などという金額が報道されているから、米国はこの業界にとっては福の神に違いない。御丁寧にも、副大統領のチェイニーさんが経営参加している会社も受注しているらしい。イラクを壊して軍需産業が大儲けし、再建事業でも石油業でも大儲け、正規の陸軍を削減した穴を埋める傭兵請負業でも儲ける人たちがホワイト・ハウスに集まっている。勘定書きの多くが日本に回される。

■ホートン大佐が経営する派遣会社の見積もりは、8000万円になるが、ゴルゴ13ならば単独で同じ任務をこなしてほぼ同額を受け取っている。最近では米ドルが安くなっているので、円換算で1億ドルを越える仕事も増えているようだが、イラクで受注している傭兵会社の方が稼いでいることになる。今の世界情勢を予見する台詞が、作中に出て来る。


「ゴルゴ13は、われわれの最大の“商売仇”だ!……彼がいなくなれば傭兵の仕事は、飛躍的にふえる!」


賭博仲間の一人が、ホートン大佐の傭兵部隊よりも、ゴルゴ13一人の方が強いと言い張って、10万ドルの賭けをすることになる。ホートン大佐は知り合いのCIA(米中央情報局)職員に、ウガンダの軍事評議会議長の暗殺依頼をさせる一方で、現地の新軍事政権に雇われながらゴルゴ13を殺害する計画を立てる。上手く行けば、軍事政権からの正規の報酬と掛け金の10万ドル、そして商売敵も抹殺するという一石三鳥の作戦。

■米国南部のアラバマ州に置かれている、ワイルドギース・センターで訓練している精鋭部隊をウガンダに投入して、反政府軍の制圧をしながらゴルゴ13を待っていると……。後は読んでのお楽しみ。
尚、フランス外人部隊が登場する作品として、第60話『砂漠の逆光』SPコミック第14巻。除隊した軍人が特殊技術を活かして他国の指導教官になる話は、第250話『バトル・オブ・サンズ』SP第75巻、第274話『北の暗殺教官』SPコミック第94巻などが有る。

昭和の防人③に続く。

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