旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

鳩の話

2005-02-14 22:08:38 | 日記・雑学
 ■餅は餅屋とは言うけれど、鳩の事は鳩害駆除の業者さんに聞くのが一番です。先日、マンションのベランダを鳩から死守する為に、とうとう専門の業者の助けを求める事になりました。ホームセンターの鳩コーナー(鳩を飼う道具ではなく苛める道具売り場)に並ぶ様々なる商品を、高架抜群を競う宣伝文句を頼りに次々と購入しては、ピカピカ光る音の出ないCDをぶら下げたり、天敵の梟(ふくろう)をデザインした反射鏡付きの高額な鳩威嚇(いかく)商品を試したり、プラスチック製のトゲトゲでベランダの囲いを着地不能にしたり、随分お金と努力を重ねた結果、すべては徒労と浪費でしかなく、素人の手には負えないと言う結論に達しまして、鳩に対する憎悪は一挙に高まって留まる所を知らず、精神状態が悪化して日常生活も危ぶまれ、とうとう専門業者を呼ぶ事になったような次第です。

 NHKの情報番組で、マンション屋上の縁(へり)にピアノ線を張って、着地不能にすれば鳩は寄り付かないと言っていましたが、どっこい野生の鳩の方でも生活が掛かっているので、勇敢な奴が果敢にピアノ線越えの垂直着陸を成功させて突破口を開けば、我も我もと飛び越えてしまい、何の効果も無くなってしまうのだそうです。既に深刻な鳩被害を受けている場合は、完全に鳩に舐(な)められているので、全面に網を展開して防衛する以外に方法は無いそうです。業者さんは、鳩の執念深さを知り尽くしていて、5センチ以上の隙間を見逃しませんでした。猫は自分の頭骸骨が通れば、何処へでも侵入しますが、鳩はそれ以上の能力を持っているのです。

 更に鳩に舐められている御家庭の場合は、折角施工した網に向かって抗議と怒りの突進攻撃が加えられる場合が有るそうです。嘴(くちばし)と足の爪は相当の破壊力を持っているので、網が破られないとも限らないのだそうです。そんな凶暴な攻撃を予(あらかじ)め想定して、強固な素材で網を作ってアンカーで固定する業者も有るのですが、万一火災が起きた場合、消防隊員の皆さんが網を破れずに消化と救出の活動に支障を来たすのだそうです。鳩を防ぐ網で人間様が逃げられず、ベランダで焼き殺されるのは嫌ですから、いざと言う時には人の手の力で破れる網を使っている業者さんに頼みました。
 

 
 ■鳩の被害は、確実に関東中に拡大中で、川口、志木、朝霞等の地名が次々と出ました。急に駅前に高層マンションが建ち、駅のロータリー辺りで散歩や日向ぼっこをする動物愛護の心を持った方が、毎日パン屑(くず)でも撒いているような、実に長閑(のどか)な風景が見られる場所には、例外無く深刻な鳩糞被害に苦しむ御家庭が存在しているのだそうです。鳩の害ほど、家庭ごとの認識レベルが大きく違う問題も珍しいとのことで、「可愛い鳩チャン」と「ニックキ鳩メ」との間には深くて広い河が流れているようです。

 こんな悲劇を聴きました。或るマンションの住人が、鳩との戦いに疲れ果て、自分の家にはベランダは存在しない、と心に決めてサッシもカーテンも閉め切りにして暮らすこと数年。そして或る日突然、配水管の雨水が逆流して溢れ出し、隣や下の部屋から苦情が出るわ、自室のエアコンが沈黙するわで、どう考えても原因は「存在しない」ベランダに有りそうだ、と嫌な結論に達して恐る恐る数年ぶりにカーテンを開けてみると、そこは一面の銀世界……ではなく、鳩の糞が20センチ以上も堆積した白い世界が広がっていて、排水口など何処に有るのかさえ分からないし、エアコンの室外機の下側はすっかり埋もれて目詰まりを起こしていたそうです。勿論、各種病原菌の結晶のような鳩の糞ですから、すぐに全部撤去して、鳩除けの網を設置したのだそうです。
 鳩屋さん(こう呼んでいますが、正確には鳩の駆除屋さん)の言うには、鳩対策は最初が肝腎で、一羽でも侵入しようとしているのを目撃したら、徹底抗戦のメッセージを相手に知らせなければ、全ては手遅れになるのだそうです。家族全員参加で鳩を見たら小まめに追い払う。これを鳩が根負けして諦(あきら)めるまで続ける根性が何より必要なのだそうです。現実に、絶対の自信を持って各地に鳩防除網を取り付けている「鳩屋さん」自身は、自宅には網を付けていないとの事でした。「我が家の上の部屋ではエライことになっていますがね。」と勝ち誇っていましたぞ。ですから、最初の訪問者(鳩)に餌付けなどしようものなら、大変なことになりますよ。


 ■カラスが住宅地に増えたのは、ゴミの不始末が主な原因ですが、以前、週刊新潮に連載中の高山正之さんの辛口コラムに、東京都が炭酸カルシウムを混入した新しいゴミ袋を制定したのが直接の原因だ、と書いていました。その説によると、カラスは山での暮らしが長くて、黒くて丸っこい物を見ると熊を思い出すらしく、警戒して余り寄り付かないのだそうで、それを知ってか知らずか、東京都が指定したのは純白のゴミ袋でした。恐れなくなったカラス達は、バブル時機にすっかり残飯を増やした東京都でグルメ三昧の生活を楽しみながら、子作り巣作りに励んだというわけです。
 袋の色がカラスの異常繁殖の原因とは認めないお役人は、カラスも鳥目だろうからと、それまでは出勤前のお父さんや登校時の子供が出していたゴミ袋を、深夜に出させて収集するようになりました。まさか、それが原因で青少年の深夜の徘徊が増えたのでもないでしょうが、夜中のゴミ出しとは、何だか小さな夜逃げみたいで気持ちの良いものではないでしょう。
 恐るべき数に増えたカラスの数自体を減じようと、石原都知事の指令でカラス殲滅(せんめつ)作戦が実行されて数千羽のカラスが処理(殺害)されたようですが、渋々周辺の山に帰ったカラスも多いかも知れません。目出度い事に、カラスの数は目に見えて減ったようです。これで少しは生活環境が改善されたと喜ぶ人々も多いでしょう。
 しかし、汚水の中でも逞(たくま)しく泳ぐ鯉も住めなくなるほど水質が悪化してしまうと、人間は安全な水を得られなくなると言われるように、このままどんどんカラスが減り続けて、カラスさえも住めなくなった都市は、マトモな人間が住めない場所になってしまいはせぬかと、少々心配でもあります。今のところは、住みたがっているカラスを追い出しているようですから、その点は安心です。でも、或る日突然一羽のカラスも見えなくなったら、直下型の大地震が近いということでしょうか。


 ■ところが、鳩となると、いささか話が違ってきます。カラスの駆除が、鳩の天敵を減らす効果を生んでしまったとの説も有るようですが、今の四十代から上の世代の日本人ならば、鳩に餌を投げたり、わざわざ専門店から買って来て、鳩小屋を作って飼った経験が有るか、近しい人がそうしていた事を見聞きしているはずです。
 戦後の日本人は、強制的に鳩好きにさせられたのです。思えば1964年の東京オリンピック以来、何か大きな催し物の度に、
「平和の象徴、白い鳩たちが、晴れ渡った青い空に放たれました。」の決まり文句の実況中継とともに、用意された籠(かご)から白い鳩の大群が大空に飛び立って行ったのでした。あの頃の勇ましい光景をNHK辺りが再放送すると、鳩の害は人災であった事が衆知徹底されるでしょう。その頃は、鳩が何処で何を食べて暮らすのか、誰も心配も考えもしませんでしたなあ。
 そして、空間に余裕の有る公園や大きな御寺の境内に鳩が住み着くと、必ず「鳩のエサ」の看板が有って、豆を売っていたものです。我が子に豆を撒(ま)かせては、襲い掛かって来る鳩の群れに埋もれて泣き出す我が子の姿を嬉しそうに写真に撮るパパが、何処にでもいましたね。
 考えてみれば、数多い日本の民話や童話の中に、鳩が登場する話はほとんど有りません。里山には僅かな山鳩が住んでいましたが、案外山鳥料理になっていたようですし、元々、群れを成して住宅地を飛び回る今のようなドバトは居なかったのです。

 では、何故急に日本人が鳩好きになってしまったのか、と考えてみますと、『聖書』とオリンピックにぶつかります。欧州では第一次大戦まで、伝書鳩は重要な情報兵器でしたが、大日本帝国は第一次大戦の陸上戦には参加しませんでしたから、伝書鳩兵器も無く、かといって優秀な電子兵器も無いままに、真珠湾攻撃をしてしまいました。日本側が持っていないレーダーがハワイにはちゃんと設置されていて、群れを成して襲来する日本海軍の第一次攻撃隊の機影が見事に捉えられていましたが、丁度本土から爆撃機隊が飛来する予定だったのが幸いして、空襲警報が出されなかったという逸話が有ります。

 オリンピックと言えばオリーブの枝葉で編んだ栄冠、…月桂樹(ローリエの木)とオリーブの樹が混同されていますが、マラソン競技の勝者だけはアポロの神を象徴する「月桂冠」が与えらましたが、他の競技の勝者にはゼウス神を象徴するオリーブの冠が与えられたので、オリンピックと言えば断固オリーブです……。逆に言えば、オリーブの樹も生えていない場所とは何の関係も無いお祭りだったという事ですね。だから日本人が優勝などすると、すぐにイチャモンが付いて突然競技規則が改定されてしまうのです。

 何はともあれ、オリーブの枝と言えば『聖書』の創世記に出て来る「ノアの方舟」の物語です。
 神は自分が造った人の世を改めて点検すると、阿呆な人間ばかりが増えてしまった事に腹を立てました。神は絶対で、世界の創造者ですから所有者でもあり、管理者でもあります。ですから、自分の失敗だったとは絶対に反省はしません。まるで、何処かの国の官僚達のようです。
 神様は40日と40夜、少しも休まずとんでもない量の雨を降らせましたから、丁度地上は和式の水洗トイレの使用後のような状態になってしまいまして、全てが、何処かに流れ去ってしまいました。神が創造した全ての生き物を雌雄一匹ずつ載せたノアの方舟は、帆も舵(かじ)も無いので、神を只管(ひたすら)信じて漂流し続けたそうですが、船の内部は世界最大規模の動物園の数倍の飼育能力を持っていたのでしょうなあ。
 雨が止んで、神の気に入らない物は全部何処かに流れ去り、今のトルコとイランの国境線辺りの山岳地帯が最初に水面から現れたそうです。アララトの山と言われる山は現存していて、美しい双子山です。しかし、アララトは山岳地帯全体を指している名称ですから、あの山の頂上から変な物が発見されたり発掘されたりしても、それは悪質な詐欺です。時々、方舟の破片やら木片やらを「発見」する人が現れますから、注意しましょう。
 

 ■さて、アララト地方のどこかの頂(いただき)が現れてから徐々に水が引いて行って……その大量の水は何処へ行ったのか、それを質問してはいけませんよ。南極と北極、そしてチベットの山でも引き受け切れない量なんですから……ノアは方舟の窓の目張りを取って一羽の鳩を放ちます。きっと、青い空が見えたでしょう。
 その鳩君が大変なパワーの持ち主で、方舟からは四方に水平線しか見えないというのに、何処かからオリーブ……このオリーブの木も只者ではありません。どんな深い根を持って大洪水の濁流に耐えたのやら……の枝を咥(くわ)えて戻って来ます。それは神の怒りの終わりを示すもので、少々やり過ぎたと思った神様は、ちょとだけ反省したらしくて、二度とこんな大洪水は起こさないとノアに約束し、律儀にその証拠を残しました。それが雨の後に架かる七色(国によって色の数は違います)の虹なのだそうです。どんなに猛烈な豪雨でも、それは必ず神が止めてくれるので、ノアの方舟の用意は不要なのです。
 わざわざ神様が証拠を用意したくらいですから、ノア一族の誰かは、内心疑っていたのでしょうか。そして、その疑いはその子孫にも脈々と伝えられている事を良く御存知の神様は、毎回雨を降らせると、律儀に虹を架けて疑いを晴らそうとし続けているのでしょう。どちらも粘着質な精神を持っている事が分かります。
 
 こうして、鳩は平和の象徴として国連のシンボルになってしまいました。既に、人間が最も恐れるものは神の大洪水ではなくて、人間が降らす核弾頭の雨となった時代の到来です。そして、次に人間を根絶やしにする者がいるとすれば、それは間違いなく人間ですから、青い国連旗に描かれているオリーブの輪は、神への祈りと人間への自戒を示しているのです。確かに、花言葉などという花屋さん御用達のコジツケ文化によりますと、オリーブは「平和」と結び付いているようです。花のイメージを決定する「花言葉」はキリスト教文化の専売特許なのです。
 平和憲法を護持して、同胞が拉致されても救出目的の戦闘態勢に入れないほど深刻な平和中毒に陥っている日本ですが、残念ながらオリーブは自生していませんし、スパゲティを炒める時の油ぐらいにしか利用しないオリーブの花言葉が「平和」というのは納得行きません。しかし、バレンタインというチョコレートの御祭りとケーキ祭りのクリスマスを愛好する日本ですから、国連の旗を有り難がるのは仕方が無いのでしょう。
 平和憲法護持に人生を懸けておられる土井たかこさんは、立派なキリスト教徒です。別に隠す必要もないでしょうが、「平和」「オリーブ」「国連」、キリストの愛というように見事に繋がるのが非常に分かり易いと思います。蛇足ながら、憲法記念日にオリーブの門松を立てましょうなどと、素っ頓狂な事を誰も言わなかったのは幸いでした。否、戦後の混乱期には、それくらいの事を言い出した日本人の一人や二人はきっと居たでしょうなあ。
 

 ■戦争に敗れた日本は、国連に加盟して悲願のオリンピックを開催したのですから、日本人全員が、国連好き、五輪好きになり、その後遺症が鳩好きという事になります。数十年間に亘って、日本国中あちこちで、盛大に鳩を増やしては何かの開会式に放し続けたのですから、現在の数の少なさを考えれば、拍手と喝采の中で放たれた鳩達の多くは、次々と天敵に仕留められたのでしょう。「平和のシンボルの鳩を天敵から守ろう」運動をした人も居たかもしれませんが、余り目立たなかったのは幸いです。大きな市民運動にでもなっていたら、今頃ワイドショーで昔の映像をしつこく使いまわしされていた事でしょうからね。
 鳩の天敵を排除して、遠い祖先達が暮らした絶壁の途中に有る棚状の岩とそっくりの構造を沢山持っている高層住宅が、日本の都市ににょきにょきと生え出したのですから、天敵を恐れて逃げ込んだ鳩達は安心して子作りと巣作りに励(はげ)めるようになったという訳です。目出度し目出度し。
 というわけには行きません。日本人は、椅子やベッドを大急ぎで導入しましたが、布団を干さないと気分が悪いのです。ベッドのマットレスの上に、布団を載せないと寝付けない人が減りませんから、大切な布団干し場のベランダが鳩に占領されると、突然鳩嫌いに変身します。元々、鳩好きになる伝統的な理由は無いのですから、鳩を追い払う事には何の痛痒も感じません。ツバメとの付き合い方と比べると良く分かります。 

 つまり、オリンピックのお祭り気分で突然鳩好きになった日本人が、バブル期の土地高騰で土地付き住宅を諦めて、次々と高層住宅に移り住み、丁度天敵のカラスが駆除されたのが、今の鳩戦争の原因という訳です。外来文化、舶来好みは大昔からの日本人の習性ですが、そろそろ大人になって落ち着いて取捨選択をした方が良いでしょう。食いもしない凶暴な魚をあちこちの池に放して、キャッチ・アンド・リリースなどと変な発音のカタカナ語を流行らせる輩(やから)の御蔭で、伝統的な鮒(鮒)料理や鯉料理が危機的状況になってしまいました。一時、日本中の鯉が死滅するのではないかと大騒ぎになった奇病も、誰かが持ち込んだ外来種の水生生物から感染したのではないでしょうか。
 生物界の感染も恐ろしいのですが、一番恐ろしいのは、人間の精神に感染する文化的な病気です。縁も縁(ゆかり)も無い所から、舶来品だと言って得意げに妙な思想を運び込まないようにしたいものです。鳩は減っても平和憲法は残ります。鳩の糞で「戦争放棄」は揺るぎませんが、御近所から飛んで来る核弾頭には、日本得意の「万止むを得ず」の台詞が飛び出して、鳩の網ならぬイージス艦の迎撃網が張り巡らされることになりそうです。


チベット語になった『坊っちゃん』―中国・青海省 草原に播かれた日本語の種

山と溪谷社

このアイテムの詳細を見る

------------------------------------------
チベット語になった『坊っちゃん』書評や関連記事

最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
鳩の退治には (wowow)
2005-02-18 22:54:10
ぜひ中国人をお使いください。
返信する
鳥嫌い、クルックルゥで悪夢 (メイチャン)
2010-04-22 00:10:44
8年かけて、やっと県営団地に入居出来たんです!
最初の下見の時は、5階だし、多少の糞は仕方ないかなぁ~
が、しかし!換気扇を設置する場所に、ドンぶり一杯分の糞が…その業者さんもビックリ(οдО;)

この団地に、最初立ち入ったとき、鼻にツーットくる匂い  新しい畳?
いや、糞の匂い
家賃額が、安いから、仕方ないんでしょうか?
毎朝、クルックルゥで目覚め、熟睡出来ません!
返信する
メイチャンさんへ (旅限無)
2010-04-22 09:48:11
いらっしゃいませ。ご事情、ご苦労はお察し致します。「クルックルゥ」は早暁より前の午前3時4時には聞こえませんか?鳩は換気扇用の窓枠に巣を作っているようですから、拙ブログで取り上げたネットは不要ですね。鳩撃退用の強力な磁石を置いたらどうでしょう?落下しないようにしっかりテープなどで固定することをお忘れなく。また、大概の鳩は強力磁石が放つ磁力線を嫌いますが、中には鈍感で我慢強く適応力に優れた固体もいますから、効果があるかどうかは保証の限りではありませんが……。
返信する