旅限無(りょげむ)

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シリア 現地の報道から考える 其の壱

2005-10-26 19:05:58 | 外交・情勢(アジア)
■以下は、中東情勢の生情報を翻訳掲載しているウェブ/
sサイトのメムリからの引用です。
日本の報道機関が配信している欧米のメディアの情報とは一味違う「中東の危険な臭い」が感じられると思います。


Inquiry and Analysis Series No 246 Oct/9/2005

緊張高まるシリア・レバノン関係   H・アブラハム

最近シリア・レバノン関係が緊張度を強めている。シリアはレバノン新政権の動きに神経をとがらせているが、レバノン議会で反シリア勢力が多数派を占め、その派が新しい体制のなかで力を増しているためである。
この動向に対応して、シリアはいろいろな手段でレバノンに圧力をかけている。例えばレバノンからシリアへの武器密輸を取締まると称して、国境検問所でわざとチェックを遅らせて、レバノンのトラックを長時間待たせる。シリアの領海侵犯者としてレバノンの漁民を逮捕することもある。ハリリ前首相の暗殺後レバノン国内でシリア人労働者70名が殺されたとして、補償を求める意向を、正式に発表したし、レバノン労働者数十名を、不法滞在者として追放処分にした※Al-Mustaqbal(Lebanon), July 17,2005 Al-Thawra(Syria), July 20,2005;  Al-Hayat(London), July 29,2005 Al-Thawra(Syria), July 13,20051。

■最初から、日本では知りえないシリアとレバノンの緊張関係が分かる話です。シリアは、表面的にはレバノンを一人前の国家として扱っているのですが、内心では属国以下としか考えていない事が良く分かります。

シリア・レバノン関係の緊張は、双方のメディアによる非難合戦にも反映している。シリアの政府系新聞は、レバノンを恩知らずとののしり、過去30有余年にわたってレバノンのためシリアが犠牲を払ってきたのに、ころりと忘れていると非難する。シリア紙は、レバノン新政権の政策も攻撃し、アメリカ政府の言いなりになりつつある、ヒズボラの武装解除問題について特に然りである、と非難する。レバノン政府がシリアの反政府勢力を煽っている、と咎めることすらある。レバノン紙も負けていない。シリアは、レバノンが独立国家であることを知らねばならない。シリアは、物質面だけでなくレバノン国民の心を傷つけてきた。謝罪せよといった論調が目立つ。レバノンのコラムニスト達は、緊張が高まればハリリ暗殺に類似する流血事件の発生の恐れがある、と指摘する。

■イラクのフセイン政権が崩壊した後でも、シリアが明らかな反米姿勢を示していた事が分かります。ソ連の後押しで力を付けた「バース党」は、社会主義という名の先制政治と、アラブ民族主義という名の好戦的な体質を合体させた政党です。フセイン大統領の若い頃の伝説などを見ると、バース党が政党であったのかどうかさえ怪しいものです。秘密結社やテロ集団と何処が違うのか分からないような集団です。


2005年7月31日、レバノンの新首相アル・シニオラ(Fouad Al-Siniora)がシリアのアサド大統領とダマスカスで会談した。シリアのアタリ首相(Muhammad Naji `Atari)とも会った。この時の会談で、双方は友好善隣関係を促進、強化することを話合った。このダマスカス会談後、緊張は少し緩和した。しかし、緊張材料が無くなったわけではない。更にシリアのメディアには、「両国、両国民をつないできた歴史的な友愛関係をたち切ろうとするレバノン人がいる」と論じる傾向が強い※2 Teshreen(Syria)、August 2,2005 Al-Hayat(London), August 7,2005.

■この7月31日に開催されたシリアとレバノンの首脳会談など、日本のどの新聞が報じたでしょう。扱ったとしても、誰も読まない小さなベタ記事だったに違い有りません。新聞社の外信部であれば、レバノンが既に国家とは呼べない状態になっている事は分かり切っているので、レバノン情報など誰も貴重な紙面に割り込ませるような事はしません。しかし、イラクが米国の支配下に置かれた直後から、中東情勢の台風の目となったのはシリアであり、救援と解放を主張すれば大義名分が立つレバノンだったのです。レバノンの南半分はイスラエルの影響下にあり、北半分はシリアが抑えているという不自然な分断の膠着状態が続いています。


シリアの報道にみるレバノン批判
A ヒズボラの武装解除問題

シリアの政府系新聞は、アメリカの政策を支持しているとして、新しいレバノン政権を批判した。例えば政府系新聞Teshreenは、レバノン政府をこきおろす記事を出す。曰く、「下衆(レバノンの)な指導者共が、シリアに対する〝憎悪〟をむきだしにして、近年シリアがやってきたことを前面的に否定し、(国際)提案にのろうと企て、政府と議会でその立場を強めた…メディアを使ってシリアを傷つけているのみならず、アメリカの大中東計画へ乗りかえることも、主張している。アメリカのライス国務長官の(レバノン)訪問で、この件は具体性を帯びてきた…この政治的〝大合唱〟は、ライス長官の助言を拝聴し、勧告に相手喝采し、救い主アメリカとの連帯を夢みて歓喜した。この同盟が何を最優先するかは、既に明らかである。例えば、レバノンの主権〝回復〟の一環として民族抵抗運動(ヒズボラ)の解体を目論んでいる…」 ※3 Teshreen(Syria), July 26,2005. 。

■こうして反米闘争の中核として「ヒズボラ」に言及されます。レバノンを拠点として、故アラファト議長が和平に傾きかける度に、几帳面に嫌がらせのテロ攻撃を仕掛けては各種の会談や会議をぶち壊して来たのがヒズボラです。露骨にアラファト暗殺を予告するような事も有ったようです。ビン・ラディンが登場する前は、シリアがイスラム過激派の総本山みたいなものでした。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
TBありがとうございました (mugi)
2005-10-27 00:45:56
こんばんは。



シリアとレバノンの関係はかなり複雑なのですね。初耳でした。

中傷合戦もすごい。中東の国は一筋縄で行かないですね。
mugiさんへ (旅限無)
2005-10-27 01:01:27
お久しぶり?ですね。いらっしゃいませ。世界にはもっと複雑怪奇な隣人関係や援助関係で維持されている奇妙な国がごっそり有ります。それらが、もれなく国連に議席と米国と同じ「一票」を持っているのですぞ!日本の隣人は、トンデモない国ではあっても、比較的分かり易いのかも知れません。中東の現代史は、資料が欧米から沢山発表されているので、研究はやり易いと思います。「外交」の本性を知る教材には最適ですよ。
マスコミが伝えない韓国 (zer0zer00)
2005-10-27 02:40:26
TBありがとうございます。



TB成功したようですね、ガンガンTBください
HP紹介 (breport)
2005-12-10 03:32:07
突然ですがお邪魔します。

小生は現在レバノン在住で、レバノン、シリア、パレスチナ情勢中心の下記の日本語ウェブサイトを運営する者です。貴下のブログを見て、レバノンやシリアに関心を持っておられる方が居るのかと思ってコメントさしあげることにしました。よろしければ覗いてみて下さい。なおJMMでもレバノン・シリア関係を中心に連載中です。



http://www.geocities.jp/beirutreport/



 

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