旅限無(りょげむ)

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どちらもお気の毒様 其の弐

2005-09-05 20:08:32 | 社会問題・事件
其の壱の続き

■今回、バグダッドで起こった大惨事は、天変地異が原因ではないので、もっと残酷なものを感じます。どうやら事件現場はバグダッド市外の北よりに当たるチグリス川の岸辺近くのようです。ここには「カドミヤ廟」という施設が有って、シーア派の信者が大切にしているそうです。シーア派第7代イマーム(指導者)だったカーディム師(ムーサー・アルカーディム)が埋葬されているそうで、8月31日は師の命日というので各地から数十万人の巡礼者が集まっていたとの事です。イスラーム暦は陰暦ですから、たまたま今年はこの日だったのでしょうが、イマームに対するシーア派の人々の熱狂的な敬慕の心は大変なものですから、これを標的にした者は狡知に長けた冷血漢でしょうなあ。

■イマームは歴史上12人しか存在しませんから、それぞれの命日や廟は大切にされているのですが、フセイン時代は少数派だったスンナ派が多数派のシーア派を抑圧していたので、シーア派の信仰心は鬱屈していたと言われています。聖人の命日に集まって、泣き叫んだり自分の体を叩いたりして宗教的なカタルシスに浸るのはシーア派の伝統ですから、フセイン体制が崩壊して解放感に満たされた人々は、しみじみと嘆き悲しんでも弾圧されることは無くなったのですが、本当に嘆き悲しむような事件が起きると、やはり困ってしまいます。悲しむ儀式の日に本当に悲しむべき事件が起こるというのは、とてもややこしいのですが、シーア派にはこうした聖なる日が沢山あるようなので、これからは安心して嘆き悲しんでもいられなくなりますなあ。

■新聞報道によりますと、31日の午前8時頃に迫撃砲による攻撃が有って7人死亡したようです。しかし、宗教的な熱狂はこの攻撃では衰えず、カーディム師を悼む儀式はその後2時間も続行されたそうですから、大したものです。シーア派の熱狂的儀式は大群衆を作って一斉に声を合わせて叫び声を上げ、自分の声と周囲の声が混ざって気分を高揚させて行き、それに合わせて同じ動作でそれぞれの体を叩いて更に気分を盛り上げるので、どうしても密集隊形になってしまいます。その時の気分は、槍が降ろうと雨が降ろうと構わなくなるのでしょうが、本当に迫撃弾の攻撃を受けても止めなかったのは流石(さすが)と言うべきでしょう。

■報道では、「群衆の中に自爆テロリストが紛れ込んでいる」との噂が広がってパニック状態に陥ったと伝えていますが、その程度で死者1000人に近い大暴走が始まるのか?とちょっと腑に落ちないところもあるのですが、もしも、本当だとすると、お気の毒ながらもちょっと安心もします。宗教的熱狂の中でも、我が身と家族の命を守ろうとする世俗的な判断力が蘇って逃走行動に出たとすれば、「話せば分かる」可能性が彼らの中に残っている事になるからです。しかし、イラクの保健省が発表した話として、犠牲者の中に「毒殺死体」が有るとの話も有ります。江戸時代の「おかげ参り」「御伊勢参り」「ええじゃないか」と同じように、巡礼者には沿道の人々が飲食物を喜捨(きしゃ)する習わしで、これを武装勢力が悪用して毒物を混入させたとの説も紹介されています。これが本当だとすれば、巡礼と聖なる祭儀を汚されたとしてシーア派側が報復に出る可能性が高まります。

■シーア派の総本山は言わずと知れたイランですから、世界の「12イマーム派」を守るための核開発でもやり始めたら手が着けられなくなりますぞ!スンナ派の原理主義者はどうやら「カリフ」制復活を夢見ているようですから、ムハンマド直系の第四代カリフでもあったアリーの血筋しか認めないシーア派は、悪評高いイスラム原理主義者達を焼き滅ぼす核兵器を宣言するかも知れませんなあ。ビン・ラディンやアルカーイダを打ち倒すための核武装を、ブッシュ大統領は何と言って禁じるのでしょう?「それは米国の仕事だから、任せておけ」とでも言うのでしょうか?そんな事を言ったら、イスラーム穏健派も黙ってはいないでしょうなあ。「異教徒の分際で何を言うか!」と怒りの対象にされてしまいますぞ!ただでさえ、サウジアラビアに我が物顔で軍隊が駐留していて評判が悪いのですから、ご用心願いたいものです。

■仮に天変地異が起こって多大な犠牲者が出たとしても、今のイラクであれば対立勢力が「悪魔」だからだ!と解釈されて、火に油を注ぐだけでしょうから、シーア派地区に駐留している我等が陸上自衛隊の皆さんは「悪魔」と見なされない内に帰国できることを祈るばかりです。9月1日現在、郵政民営化選挙で、「刺客」「落下傘」「ねじれ」などの空騒ぎに夢中の日本は、関東大震災の記念日と言うので自分の国の地震対策ばかりに熱心ですが、米国の救助活動や復興支援の話はぜんぜん出ていませんが、小泉さんは米国の注文どおりに「郵貯・簡保」資金を市場に持ち出そうとして評判が悪くなりそうなので、急に米国が嫌いになってしまったのでしょうか?議員の先生方は今は「ただの人」に戻って選挙運動中ですし、閣僚も政治を放り出して刺客の応援に全国を飛び回っていますから、誰も救援の指示が出せないのでしょうか?

其の参に続く

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