ー養護学校で生活を共にしたすべての旧友たちに捧ぐー
しののめの弱き光の 映える頃
かすかなめざめぞ 生まれつる
ショパンの調べの さざなみが
心の糸を 爪弾けば
たったひとりの 仕合せが
幼き胸に しのび入る
あかねさす 昼の太陽のぼる頃
まぶしき波こそ つれなけれ
モーターボートの 人々と
楽しく踊れる 海ゆえに
一人ぽっちの かなしみを
かばってくれぬ 海ゆえに
たまかぎる夕日がかなたに 沈む頃
焦がれし海ぞ 帰りきぬ
やさしき母の 輝きに
愛せられたる わが身こそ
ひと日暮れ行く その刹那
まことの幸を 給はらめ
ぬばたまの夜のとばりの おりる頃
眠れる海ぞ 消え果つる
潮のにほひと 波音の
低き寝音は 聞き知れど
海の青さは いづくにか
松のみどりも 消え失せぬ
ー 北助松養護学校にて Bruxelles 12歳の作品ー
作品タイトル「海を眺むる日々」
詩集「2N世代」収録
1971年5月発行 編集・装丁 たなかひろこ
凶地街社(志摩欣也代表)発行 凶地街叢書
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ある詩人の会合で、ぼんやりロビーに座っていた。
ふと隣を見ると、和服姿の新川和江氏がいらした。
「2N世代」をお渡ししたら、その場でご覧になって
「なかなか素晴らしい」とお褒めのお言葉をいただいた。
詩学の嵯峨信之氏にも
詩作品にも君自身にも可能性を感じるので
大切に育てるように、と
わざわざお手紙をいただいた。
饒舌体が氾濫していた70年前後の現代詩壇においては
内容の評価はともかくとして
このような古典的な詩作品が
新鮮だったことは間違いないと思う。
・・・・・追記:2012年8月27日・・・・・
同学年はひとクラス、ひとクラスに5人
その5人のうち2人がその後2年以内に亡くなった。
「お薬が欲しい、欲しい」と言いながら...
病弱という井戸の中で: そのほかの日々