冷吟閑酔

みんな忘れてしまったんだろう?

図書館にて 2

2006年06月30日 | 生活
ひとつ、椅子の並びのほかに、彼に対して気に入らない点があった。
彼は、本を見るときに、極めて渋そうな顔をするのだ。
また、本を近くにしてみたり遠くにしてみたりと、せわしなくなるときがあった。

「目が悪いのか?」
「いや、悪かァねぇんだ。…良すぎて、ちょっと近くのちぃちゃいのが見えねぇだけ」

私は彼を老眼だとひとしきりからかい、眼鏡をしないのかと尋ねた。
彼は笑って、そういうふうに老眼だと思われるのが嫌だし、眼鏡はかっこ悪いからと言った。
眼鏡をしている私へのからかいの報復でもあった。

私は彼に眼鏡を贈ることにした。
度数は少々弱めにして、遠視用のシンプルなものを図書館で手渡した。
度が合わなかったら直しにいくだろう。貰ったものなのだから邪険にはしまいという考えがあった。
彼は驚いて、はにかみながら喜び、申し訳ないという顔をしてみせ、参ったという顔をしてその眼鏡をかけて見せてくれた。
やはりあの無骨な顔には少々似合わなかったが、渋い顔をしているよりも格好が良いと言ったら素直に笑ってくれたのだ。

それから、図書館で見かけるたび、あの眼鏡をして本を見ている彼の姿は、なんだか以前よりサマになっていた気がする。
しかし話し掛けると、少々あわてて眼鏡を外してから顔を見合わせる。
眼鏡はかっこ悪い、恥ずかしいというのは本当らしかった。

彼はまだあの眼鏡をしているだろうか?
未だにああやって本を見ているのだろうか。

眼鏡をかけているサマを人にあまり見せたがらないのが直っていないのであれば、そういう彼を正面からまじまじと見たのは私だけということになる。
それを考えると、楽しくて仕方がない。

図書館にて

2006年06月29日 | 物語り
彼はたいてい、暇があれば女性と遊びに行き、そうでなくば友人と酒を飲み、またそうでない場合は部屋で眠りこけ、眠気に誘われない場合は図書館で本を読みあさっていた。

その図書館は町の中央ほどにあり、あまり大きくはない。
ミリ単位のズレも許されないといったふうに並べられた長机と対称的に、椅子がばらんばらんに並べられているのが私は気に入らなかった。
彼の座る場所は特には決まってはいなかったが、入館してすぐに見渡せるその長机とばらばらの椅子の中に、何も苦労せず見つけることができた。
紅い髪のせいもあるが、本当の目印はそれではない。
座った彼の背丈よりも高く大量に平積みにされた本たちである。

その本の選びには節操がない。
よくある物語や誰かしらの伝記であったり、何かの辞典、料理本であったり、はじめての縫い物だとか、スポーツの手順書、絵本、性的欲求を満たすための本(…は彼の持ち込みである)、新聞のバックナンバー、話題作、駄作、というふうに、その選びには何の共通点も探し出すことができない。
しいて言うなれば、紙に文字がタイプされているということぐらいだろうか。

彼はまず、入館してすぐに目につく「新刊」のコーナーを物色する。
それからじゅんぐりに各ジャンルの本棚をめぐり、終わるころには大量の本を抱えて、適当な席につく。
それなので、ジャンルや何やらがばらばらでも、毎回積まれる順番は一緒だった。

本の選出方法は、いいかげんである。
彼には、好みの作者やジャンル、出版社があるわけではない。
うろうろと目を動かし、目にとまったタイトルや装飾に魅せられてその本を手にとる。
内容を確かめることもせず、どさり、と重なった本の上に載せるころにはその本の存在をすっかりと忘れてしまい、また次の本を探し始める。
そんなものだから、何度も同じ本を選んでしまうことがあると笑っていた。

さて、そんな適当な方法で選びぬかれた本たちは、やっぱり適当に読まれていく。
いや、読まれていない。
私はあれを――…見ている、と表現すべきだと思う。
彼はタイトルや作者を気にしない。
まず、本を開く。
冒頭の文章を、それはそれはじっくりと見始める。
文章を見る。また次の文章を見る。
それは、まるで何かの動きを追うかのように、見ていく。
そして彼は気に入った文章や単語の並びを見つけると、何度もそれを見返す。
時には小さく声に出して繰り返す。
そして満足すると、次に気に入るであろう文字の羅列を探していくのだ。
彼は、本を本として読むことができない。
まるで、探し物をするかのように、文字の一つ一つを愛撫しながら、自分の求めているものをただひらすら探す。
タイトルはおろか、内容すら覚えない。

「まるで、自分の書いた文章を無くしてしまったようだ」
「なるほど!そりゃあお前さんらしい、素敵な予想だね。勿論ハズレだけど」

私は、彼のそんなふざけた物言いが嫌いであったし、好ましくもあった。

あれっ

2006年06月27日 | 生活
あっという間に一年過ぎてた。

ちょっと眠くて眠くてしょうがない時期にあたってしまって、
ろくに動けなかったんだよな。
今まさに絶好調なんだけどね。
あのころみたいに、自由に体を動かせる。
絵も描けるしね。

…いまさらだけど。
自分におめでとう。

こんなに長くいるなんてね。
小屋まで建てちゃって。

これが、いつもの俺の気まぐれなんじゃないかって、
実はずっと怖いんだ。
明日目覚めたら、ぐるっと気がかわっちまって、
小屋を売り払ったりしてしまうのじゃないかって。

俺はたくさんの人につなぎとめてもらってる。
有難う。
これからもよろしく、したい。

可愛いマフィア

2006年06月26日 | 生活
そうそう、帰ったら、なぁが暑そうな格好で出迎えてくれた。
チョコの匂いのするタバコをくわえて、室内でサングラスかけて。

「似合わないぞ」

俺って正直すぎるな。

どうやら罰ゲームだったらしく、それっぽさを引き立たせるために傍らにヨルがいた。
俺からしてみればそんなもん、と思うのに、やっぱり年頃の女の子には堪えるみたい。
ズボンなんて履いたことない!って言っていて、そりゃあもうびっくりした。
でも確かに、なぁは丈の短いスカートが一番似合う。
自分に何が似合うか知ってるのってとっても素敵なこと。

うーん。
今思うと、あの格好も可愛かったかもしれない。
だって、あんなかっこしといて、俺のこれっくらいしかないんだもん。

おにぎり

2006年06月25日 | 生活
家に帰ると、呼鳩から小包。(風呂敷の)

開けると、どでかいまーんまるいおにぎりが二個。
ヨルの分も二個。幾分かそっちのほうが小さかった。
つまり、この俺の拳よりもでっかいおにぎりが俺の分。

…ふふ!食べ応えがあるじゃないか…!
ちょうど帰ってきたばかりで腹も減っていたしね。

中身は、前にリクエストしたことがあった、鮭と昆布。
具に見合って多いのなんのって。
あのちっこい手でよく作ったもんだなぁと思ったんだけど、
想像したら、どろだんご作るみたいにペタペタ丸く握ってる呼鳩の姿が浮か…
いやいや、ボリューミーで美味しかったよ。

識の握った飯よりかは遥かに美味かった。
また頼むよ、なぁんて。

死ねない男の生き様

2006年06月23日 | 生活
識を出迎えに村の入り口でぼんやり夜空を見ていた。

しっとりと戦の後の空気が濡れていた。
鉄サビの匂い。血の匂いとも言うのか。
砂漠の砂に吸い込まれず、ここまで漂ってくるものなのだ。

まぁ、俺は戦に行っていないので、どうだったかはわからん。
識がなんか言ってるけど、俺は目当ての女性の家に行く近道に砂漠をちょっと歩いただけのこと。

識がくるまで、その夜空と香の煙を眺めていた。綺麗だったな。
識が来たら帰らなきゃいけねぇから、姿を見たときはちょっと残念だった。
もうちょっと遅れてくればいいのに。

デートの約束があったから正気に戻れた、と聞いたとき、俺は嬉しかった。
そうとも、それが男ってやつだ。
そんだけのために命を張るのもいいし、面子だとかプライドだとかも捨ててトンズラしたっていいのさ。
約束を守る男は最高にかっこいいよ。

けど、お相手を聞いたとき、俺は頼もしい男友達をもった少年の気分から、息子を見守る母の気分になった。
いやいや、彼女は素敵なレディだとも。
ちゃんとエスコートしておやりよ。


ああ、毎日こうしてゆるぅく生きていけたら。

ぎゅっ

2006年06月18日 | バトン
ギュッ?バトン
呼鳩とか識とか。


Q1ギュウされるのは好き?

好きに決まってる。
細い腕で、必死にしがみつかれたりとかするのがすごく好き。
されるなら、やっぱ子供にされたい。

Q2前からギュウと後ろからギュウどっちが好き?

顔をね、横からギューっとしてもらうのがいい。
頭をかかえてもらうっていうのかなぁ。
幸せ。

Q3あなたの手のまわし方は?

片方を肩にまわして、もう片方を相手の頭に。
俺より背ェの高いのなんて、なかなかいねぇからね。

Q4顔はどっちの肩に置きますか?

肩?むむ…難しいね。
相手が楽そうなほうに抱き寄せて、その頭に頬をくっつける感じ。

Q5ギュウされて思うことは?

そのときそのときによるんじゃないかな。
別れる時のギュウだったり、再会のギュウだったり、
なんでもないギュウだったりとかさ。

Q6好きな人にギュウされた時言われたい言葉は?

俺のことが好きである、ってことを伝えてもらえたら、それで。
幼稚なら幼稚なだけいい。

Q7今までギュウされてよかった・嫌だったシチュエーションは?

よかったことは、順位はつけられないなぁ。
嫌だったのは、クライにはじめてギューっとされたときかね?
はは、冗談だよ。
首をぎゅーっとやられたことが昔あるけど、それは違うか。

Q8理想のギュウは?

検討もつかない。

Q9KoCの中にギュウしたい人・されたい人はいますか?

みんな。
そりゃもう、誰とだって。

Q10あなたにとってギュウとは?

愛してるって表現と、
俺のものっていう独占意欲の現れ。
でも、あんまり強く抱き寄せるのは好きじゃないな。
ギュッっていうより、そっと抱く方が好み。


こんな感じかなぁ。
ちょっと面白みが無いね、はは。

あちらとこちら

2006年06月17日 | 生活
向こう側に行けないくせに、いたずらに人を向こうへ押しやる。
向こう側にどうやったって行けないのに、人に無理矢理くっついていき、途中で流され、戻ってくる。
こちらの岸に戻ってくるころには、怪我だらけで。



狂ってる。

狂いたくないという意識はあるようだが、果たして本物だろうか。



多分、彼には狂う要素は揃ってたんだ。
あんなこと、素質がないと口走れない。
「楽しい」だなんて――
あの表情はぞっとした。

…俺のせいだとしたら?
たとえばこの間の。
ちょっと前の。
ずうっと前の。

ああ、もともと定義から狂っている男だから
どうしようもないのかもしれない

見張っていよう、但し、見張るだけだ。

夏椿

2006年06月15日 | 生活
リーが袋と手紙を置いてってくれたのと同じ窓枠に、白い花が置いてあった。
窓枠にかすかに、女性と泥と獣の血と、洞窟のしめった匂いが残ってた。
そうでなくとも、窓枠にぺたりとついた、小さな少女の手。

送り主はアニマ。
きっと、こないだのアップルパイの礼だろう。

…ちょっと、手にとって、くるくる回して。
自分の左右、後ろを確認して。

髪に飾ってみた。
窓にうつった自分の姿といったらなかったけど、
それ以上にニヤついてる俺の顔が馬鹿らしかった。

それから手にとって、においをかいで。
リビングのテーブルに一輪差しにして飾っておいた。

飯を食うとき、花となぁが一緒に見えるようにしてちらちらと見てみた。
花はやっぱり、女性のほうが似合うよ、アニマ。
甘いものもね。

クインクの誕生日

2006年06月14日 | 生活
クインクの誕生日を祝いに。

正直、からかう方が多かったな、祝うより。
だって反応がいちいち可愛くて面白いんだもの。
歳に似合わずね?…なんていったらまた怒ってくれるかな、ふふ。

歳の数の花束と、ろうそく。
さて、来年はどうしてくれようかな、なぁんてね。