ひとつ、椅子の並びのほかに、彼に対して気に入らない点があった。
彼は、本を見るときに、極めて渋そうな顔をするのだ。
また、本を近くにしてみたり遠くにしてみたりと、せわしなくなるときがあった。
「目が悪いのか?」
「いや、悪かァねぇんだ。…良すぎて、ちょっと近くのちぃちゃいのが見えねぇだけ」
私は彼を老眼だとひとしきりからかい、眼鏡をしないのかと尋ねた。
彼は笑って、そういうふうに老眼だと思われるのが嫌だし、眼鏡はかっこ悪いからと言った。
眼鏡をしている私へのからかいの報復でもあった。
私は彼に眼鏡を贈ることにした。
度数は少々弱めにして、遠視用のシンプルなものを図書館で手渡した。
度が合わなかったら直しにいくだろう。貰ったものなのだから邪険にはしまいという考えがあった。
彼は驚いて、はにかみながら喜び、申し訳ないという顔をしてみせ、参ったという顔をしてその眼鏡をかけて見せてくれた。
やはりあの無骨な顔には少々似合わなかったが、渋い顔をしているよりも格好が良いと言ったら素直に笑ってくれたのだ。
それから、図書館で見かけるたび、あの眼鏡をして本を見ている彼の姿は、なんだか以前よりサマになっていた気がする。
しかし話し掛けると、少々あわてて眼鏡を外してから顔を見合わせる。
眼鏡はかっこ悪い、恥ずかしいというのは本当らしかった。
彼はまだあの眼鏡をしているだろうか?
未だにああやって本を見ているのだろうか。
眼鏡をかけているサマを人にあまり見せたがらないのが直っていないのであれば、そういう彼を正面からまじまじと見たのは私だけということになる。
それを考えると、楽しくて仕方がない。
彼は、本を見るときに、極めて渋そうな顔をするのだ。
また、本を近くにしてみたり遠くにしてみたりと、せわしなくなるときがあった。
「目が悪いのか?」
「いや、悪かァねぇんだ。…良すぎて、ちょっと近くのちぃちゃいのが見えねぇだけ」
私は彼を老眼だとひとしきりからかい、眼鏡をしないのかと尋ねた。
彼は笑って、そういうふうに老眼だと思われるのが嫌だし、眼鏡はかっこ悪いからと言った。
眼鏡をしている私へのからかいの報復でもあった。
私は彼に眼鏡を贈ることにした。
度数は少々弱めにして、遠視用のシンプルなものを図書館で手渡した。
度が合わなかったら直しにいくだろう。貰ったものなのだから邪険にはしまいという考えがあった。
彼は驚いて、はにかみながら喜び、申し訳ないという顔をしてみせ、参ったという顔をしてその眼鏡をかけて見せてくれた。
やはりあの無骨な顔には少々似合わなかったが、渋い顔をしているよりも格好が良いと言ったら素直に笑ってくれたのだ。
それから、図書館で見かけるたび、あの眼鏡をして本を見ている彼の姿は、なんだか以前よりサマになっていた気がする。
しかし話し掛けると、少々あわてて眼鏡を外してから顔を見合わせる。
眼鏡はかっこ悪い、恥ずかしいというのは本当らしかった。
彼はまだあの眼鏡をしているだろうか?
未だにああやって本を見ているのだろうか。
眼鏡をかけているサマを人にあまり見せたがらないのが直っていないのであれば、そういう彼を正面からまじまじと見たのは私だけということになる。
それを考えると、楽しくて仕方がない。