彼女は中学生。2年か3年。名前は多分聞いたことがある。でもも忘れてしまった。少女A。
その頃僕は八王子にいた。
大学の5年か6年。申し訳ない事に、留年している身だった。キョータルというお寿司屋さんの深夜アルバイト。暇な日はバイトひとりに任せて板さんは帰ってしまう。
風俗のお姉さんたちが3時ごろに来ることがあり、何も出せずに泣きそうになったことがある。
ある日、彼女は現れた。手も足も長く、身長は170センチ近かったと思う。だいたいはショートパンツにトレーナー、白い運動靴だけが年相応の美しい子だった。
「どうやってきたの?」
「自転車」
「家はどこ?」
「駅の向こう側、、、ウソ、ホントはもうちょっと遠く。自転車漕ぐの早いから」
なぜ、会いに来てくれるようになったのか。
最初は、たぶん家族と来たのだろうけど。
午前2時、お客が来ると、「いらっしゃい!」と手伝ってくる。アガリを出し笑顔を見せる。
お客の方はキョトンとしているが、やがて眩しそうに笑顔を返す。
14歳だったとしても、当時僕が大学で見ている女の子(だいたい20才くらい)と変わらない女性の笑顔にときどき運動靴が似合う中学生が浮き出してくる。
すらっとした肢体と愛らしい瞳をしていたけれど、やっぱり大人の女性とは違う。長い髪は奇跡のようにサラリとまっすぐだった。
「こんな時間に、おうちの人は心配しないの?」
「うん、大丈夫、心配しない。朝には家にいるし。」
どんな事を話していたのか、よく覚えてない。でも、よく話した。とてもアタマのよい子だった。
カウンターに座って、にこにこしているだけの時が多かった。時にはビルの窓を開けて、危なっかしい木枠に座り、
僕がはらはらするのを見ておもしろそうに笑っていた。
彼女の肩越しに見える明け方の街は、とてもきれいだった。
「危ないから、降りろ」
「心配?」
こんな笑顔をむける人を他に知らない
・・どれくらいの期間、彼女は明け方までの時間を過ごしに来ていたろうか。数えたら4ヶ月。
シフトで僕がいないときは、入り口からすぐに帰っていったらしい。携帯やLINEなんてなかった。
僕は時には彼女を心待ちにしていたけど、彼女も僕のいない寿司カウンターを何回見ただろう。
早い夏から、肌寒い秋まで。そして突然、彼女は来なくなった。
紫色の朝に、健康的な長い脚と真っ白な運動靴。その横で街を見渡した、あんな朝はもう来ないだろうけど。
ずっと来てくれてありがとう。僕は役に立っていた?
その頃僕は八王子にいた。
大学の5年か6年。申し訳ない事に、留年している身だった。キョータルというお寿司屋さんの深夜アルバイト。暇な日はバイトひとりに任せて板さんは帰ってしまう。
風俗のお姉さんたちが3時ごろに来ることがあり、何も出せずに泣きそうになったことがある。
ある日、彼女は現れた。手も足も長く、身長は170センチ近かったと思う。だいたいはショートパンツにトレーナー、白い運動靴だけが年相応の美しい子だった。
「どうやってきたの?」
「自転車」
「家はどこ?」
「駅の向こう側、、、ウソ、ホントはもうちょっと遠く。自転車漕ぐの早いから」
なぜ、会いに来てくれるようになったのか。
最初は、たぶん家族と来たのだろうけど。
午前2時、お客が来ると、「いらっしゃい!」と手伝ってくる。アガリを出し笑顔を見せる。
お客の方はキョトンとしているが、やがて眩しそうに笑顔を返す。
14歳だったとしても、当時僕が大学で見ている女の子(だいたい20才くらい)と変わらない女性の笑顔にときどき運動靴が似合う中学生が浮き出してくる。
すらっとした肢体と愛らしい瞳をしていたけれど、やっぱり大人の女性とは違う。長い髪は奇跡のようにサラリとまっすぐだった。
「こんな時間に、おうちの人は心配しないの?」
「うん、大丈夫、心配しない。朝には家にいるし。」
どんな事を話していたのか、よく覚えてない。でも、よく話した。とてもアタマのよい子だった。
カウンターに座って、にこにこしているだけの時が多かった。時にはビルの窓を開けて、危なっかしい木枠に座り、
僕がはらはらするのを見ておもしろそうに笑っていた。
彼女の肩越しに見える明け方の街は、とてもきれいだった。
「危ないから、降りろ」
「心配?」
こんな笑顔をむける人を他に知らない
・・どれくらいの期間、彼女は明け方までの時間を過ごしに来ていたろうか。数えたら4ヶ月。
シフトで僕がいないときは、入り口からすぐに帰っていったらしい。携帯やLINEなんてなかった。
僕は時には彼女を心待ちにしていたけど、彼女も僕のいない寿司カウンターを何回見ただろう。
早い夏から、肌寒い秋まで。そして突然、彼女は来なくなった。
紫色の朝に、健康的な長い脚と真っ白な運動靴。その横で街を見渡した、あんな朝はもう来ないだろうけど。
ずっと来てくれてありがとう。僕は役に立っていた?