My little lovers

忘れないうちに、書いときます。

1982 少女A・・

2024年05月14日 | 日記
彼女は中学生。2年か3年。名前は多分聞いたことがある。でもも忘れてしまった。少女A。
その頃僕は八王子にいた。
大学の5年か6年。申し訳ない事に、留年している身だった。キョータルというお寿司屋さんの深夜アルバイト。暇な日はバイトひとりに任せて板さんは帰ってしまう。
風俗のお姉さんたちが3時ごろに来ることがあり、何も出せずに泣きそうになったことがある。
ある日、彼女は現れた。手も足も長く、身長は170センチ近かったと思う。だいたいはショートパンツにトレーナー、白い運動靴だけが年相応の美しい子だった。
「どうやってきたの?」
「自転車」
「家はどこ?」
「駅の向こう側、、、ウソ、ホントはもうちょっと遠く。自転車漕ぐの早いから」

なぜ、会いに来てくれるようになったのか。
最初は、たぶん家族と来たのだろうけど。


午前2時、お客が来ると、「いらっしゃい!」と手伝ってくる。アガリを出し笑顔を見せる。
お客の方はキョトンとしているが、やがて眩しそうに笑顔を返す。
14歳だったとしても、当時僕が大学で見ている女の子(だいたい20才くらい)と変わらない女性の笑顔にときどき運動靴が似合う中学生が浮き出してくる。
すらっとした肢体と愛らしい瞳をしていたけれど、やっぱり大人の女性とは違う。長い髪は奇跡のようにサラリとまっすぐだった。
「こんな時間に、おうちの人は心配しないの?」
「うん、大丈夫、心配しない。朝には家にいるし。」

どんな事を話していたのか、よく覚えてない。でも、よく話した。とてもアタマのよい子だった。
カウンターに座って、にこにこしているだけの時が多かった。時にはビルの窓を開けて、危なっかしい木枠に座り、
僕がはらはらするのを見ておもしろそうに笑っていた。
彼女の肩越しに見える明け方の街は、とてもきれいだった。

「危ないから、降りろ」
「心配?」

こんな笑顔をむける人を他に知らない


・・どれくらいの期間、彼女は明け方までの時間を過ごしに来ていたろうか。数えたら4ヶ月。
シフトで僕がいないときは、入り口からすぐに帰っていったらしい。携帯やLINEなんてなかった。
僕は時には彼女を心待ちにしていたけど、彼女も僕のいない寿司カウンターを何回見ただろう。
早い夏から、肌寒い秋まで。そして突然、彼女は来なくなった。

紫色の朝に、健康的な長い脚と真っ白な運動靴。その横で街を見渡した、あんな朝はもう来ないだろうけど。
ずっと来てくれてありがとう。僕は役に立っていた?

17夜の月

2017年10月09日 | 日記
一昨日くらいに満月だったと思う。今夜は少しかけている。
ナビでは、まだ家まで1時間くらい。
大きな橋の近くで車を停めた。
透き通った空に月がかかり、海の上に銀の盆みたいに
光が映る。
ひとたび闘いを起こしたなら、
断じて勝たねばならない。
虫の音さえしない山奥のみち。
きれいな夜空に、もう面影はない。
やれるだけ、やってみる。
また、家までの道を走り出した。

藍色7 風のコリドー

2017年09月04日 | 日記
大学病院の新館と本館のあいだに
「コリドール」という廻廊みたいな空間がある。
内部にはカフェとか、コンビにまである。
僕は外側からの業務用の扉を出入りする。

25メートルプールを立てたくらい、
とても高い屋根が建物をつなぐ。
晴れた空、真っ白な「廻廊」に立つと、
まるで台風のような透き通った風が吹いた。
塊のように続く強い風に〈サヨナラ〉、と声に出した。

誰もいないし、風音は大きかった。
しばらく空を見上げて、
また業務用の扉を開けた。
大きく開いた吹き抜けの空を見ながら、客先への長い廊下を歩いた。
さよなら、藍色のマスター・ピース。
さよなら、インディゴ・ブルーの空。
この風は、もう秋が近い。


alone again

2017年09月03日 | 日記
昔、ヒロ君が言っていた。
「悲しい曲をマイナーのコードで作るのは簡単だけど、
 メジャーコードで悲しい気持ちを出すって難しい。」

「たとえば、ギルバート・オサリバンの<alone again>みたいにね。」

どこかの文章で見かけたモーツアルトの曲
「疾走する 悲しみ」
誰もそれに追いつけない、と。

そうだね。悲しみは疾走する。
自分が、悲しみよりも早く、
「疾走する」から。
仕方ない。

よく晴れた9月の空に
心地よい風が吹く。

”alone again”

メジャーコードに
泣きそうになる。


藍色6 口紅

2017年08月04日 | 日記

うだるような陽が沈む。
帰りの駐車場
後ろから声をかけられた。
とても綺麗な赤の口紅だった。少なくとも、僕が見たことのない色。
喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
 ---キレイだね。---
「保守、契約取れるといいですね」
そうだね。
 ---誰なんだ、一緒に帰るのは。-----

台風が近いせいか、空は異様な透き通った色になって、夕焼が見たことの無いピンクに燃えた。
終わりかな、始まりかな。
こんな、見たことの無い空から始まるのは何かなぁと。
でも、もう準備は、出来ている。
ひとつも間違うことなく、僕は始める。
仕事や家族、いろんなことが、僕の中で、パズルみたいに完成しかけている。

僕は君の何ひとつ自分の物には出来ない。そのかわり、もう、どんな小さなルールも破らない。真っ直ぐに立ち、精一杯に笑う。
大切な透けて霞むような微笑に素敵な赤の口紅。
誰よりもほしいと思い、誰よりもそこから遠い。だから、誰も何も失くさなくて、済む。
とても幸運な出会いが
此処に、ある。

でも、幸運な出会いって、何でこんなに悲しい?

一つも約束できないことが、こんなにチカラの要ることとは。
人違いをしたのは、、、僕かな。