トーキング・マイノリティ

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準引きこもり症候群

2007-05-28 21:18:05 | 世相(日本)
 河北新報で最近「準引きこもり症候群」という特集を組んでいた。このコラムは富山国際大学講師の樋口康彦氏が執筆しており、10回に亘り掲載された。私は新聞で初めて「準引きこもり症候群」との言葉を知ったが、キャンパスにおける孤立者を分析した内容だった。

  頭に“準”が付いているとおり、「準引きこもり症候群」は引きこもりなどではなく、ちゃんと大学に通いきちんと授業を受け、単位を落とすこともない。夜遊 びやバイトもせず一見真面目な学生に見える。だが、樋口氏は実態は引きこもりと変わりなく、真正のニートや引きこもりの予備軍だという。家に引き篭もって もいないのに、この名称は不適切に思われるが、樋口氏のコラムを見れば確かに引きこもり予備軍の可能性が高いと頷けた。

 「準引きこもり 症候群」の学生の特徴は、まず学内に友人がいないそうだ。常に一人で授業を受け、一人で食事を取り、授業を終えると真直ぐ家に帰るタイプ。親元から大学に 通うことが多いとか。友人がいないのは人付き合いが全く出来ず、雰囲気も暗いので周囲からも敬遠され、浮いてしまっている。友人がいないから社会性も育た ず、社会性がないから友人も出来ないのだ。
 非社交的な性格なのは確かだが、彼らが人付き合いが苦手なのは子供の頃からであり、イジメや不登校になった体験が多いらしい。そのため大学生になっても、人との付き合い方を知らない。

  では友人のいない「準引きこもり」学生は、帰宅後ひたすら勉学に励んでいるかと思いきや、ゲームやネット、漫画、フィギィアのような一人遊びに没頭してい るらしい。ただ、一人遊びに満足しきっている人間嫌いでは決してない。実は人一倍人恋しいのに、現実社会での人間関係に傷付くことを恐れ、「準引きこも り」状態になっていると樋口氏は指摘する。そのため、声を掛けられたり、相手にしてくれそうな人間には、途端に相手の都合を顧みずストーカーまがいに付き まとう傾向も持っているそうだ。

 樋口氏の受け持ちの生徒にも「準引きこもり」学生がいた。講師なので学生に親切に声をかけたら、その学 生は樋口氏にかなり付きまとうようになったという。講義前から樋口氏を待ち構えており、講義終了後も何かと彼に擦り寄ってくる。樋口氏に予定や都合があ り、それを告げてもなかなか去ろうとはしない。男子なのにバレンタインデーには高価なチョコレートまで贈ったこともあったとか。
 その一方、樋口 氏が学生たちに自分の講義へのアンケートを取れば、殆どの学生が単位がほしくてお世辞が述べられていたが、「準引きこもり」学生はその類の追従は見られ ず、辛辣な批判が綴られていたそうだ。馴れた間柄なので、批判よりも苦言を呈するつもりだったのかもしれない。

 人付き合いが極度に苦手な「準引きこもり」学生は、他人との距離など当然取れず、関った人に執拗に付きまとうので、ますます敬遠され孤立してしまう、と樋口氏は見る。かくて大学に通っても友人や恋人も出来ない始末。
 大学在学中ならまだしも、困るのは卒業後だ。対人恐怖症ゆえ就職活動にも身が入らず、面接時に非社交性を見抜かれ採用されないケースも少なくない。運良く就職しても、職場での人間関係が上手くいかず、トラブルから辞めることも珍しくもないとか。

  樋口氏は「準引きこもり」学生の家庭環境も紹介されていたが、彼らは親から虐待を受けた体験もなく、逆にかなり過保護で裕福な家庭に育っている。親は欲目 もあり我子を真面目な良い子と思っているが、実は甘やかされて育ったため自立精神や逞しさが決定的に欠けているのだ。そのため複雑な人間関係が避けられな い職場では対応できず、結局辞職して家に引きこもり、親から自立も自活も出来ず、脛をかじって暮らす結果となる。

 ネットの世界では 「準」どころか真正の引きこもりを結構見かける。ネットユーザーのごく一部だろうが、時間だけは有り余っているため、彼らはネットに明け暮れ、掲示板等に ひっきりなしに書き込む。そのため、彼らの存在が目立つのだ。ネットを厳しく非難したがる河北新報もネットが今ほど盛んではなかった頃、むしろこのような 媒体は引きこもりのような人々を救済するのに役立つと報じていたのだ。結果は返って引きこもりを助長したに過ぎず、アルコール依存症にウオッカを渡したよ うなものだった。

 とうに成人しているにも係らず、親に養ってもらいながらネットをしているのは、高価な玩具を買い与えられた子供と変わ らない。猫も杓子も大学に行く時代、樋口氏は「準引きこもり症候群」はこれからも増えると予測している。氏は大学で彼らには人付き合いを教えることを提言 されていたが、これでは大学のレベルダウンは確実だ。

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10 コメント

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自分も…… (のらくろ)
2007-05-30 01:10:12
生まれる時と場所が違っていたら、「準ひきこもり」になっていたかもしれません。

それをかろうじて救って(食い止めて)くれたのは、当事ペットだった我が家の飼い猫ではないかと、当事を振り返り思います。

この飼い猫(メス)について、以下「彼女」と書かせていただきます。何しろ、私が生まれたときから既に我が家にいて、生き物の宿命として落命したのは私が高校3年になる直前の2月と記憶しており、それまでの私の人生すべてのシーンに彼女は存在して、私にそれなりの、いいえ多大の影響を与えてきました。

>では友人のいない「準引きこもり」学生は、帰宅後ひたすら勉学に励んでいるかと思いきや、ゲームやネット、漫画、フィギィアのような一人遊びに没頭しているらしい。

「ゲームやネット、漫画、フィギィアのような一人遊び」とペットとの決定的違いは、ペットは決して飼い主の思い通りにはならないということです。私自身、彼女が危険を感じた場合には容赦なく引っ掻かれ、切り傷を作っていましたし、逆に小学生低学年だった私が、彼女を我が家の2階の窓から突き落とすなんて「動物虐待」もしておりました。「飼い猫でさえ思い通りにならない、いわんや他人においておや」ということを、子供心に印象づけられたのでしょう。

彼女は母の妹の嫁ぎ先の近所から我が家に引き取られたそうですが、母曰く「元の飼い主さんにとってもできるものなら残したいと思わせる」ほど可愛かった猫で、白をベースに茶と黒のブチがある、人間から見ても美人ならぬ「美猫」でありました。近所の猫社会でもモテまくったようで、よく我が家で出産しましたが、彼女の跡取りとして我が家に居続けた子猫は一匹もおりません。その子猫の父親ではないオス猫が、あるいは追い散らし、あるいは殺して行ったのでしょう。小学校から帰ってきた私に母が、その様子を生々しく伝えてくれたことがあり、私自身子猫の一匹が喉を食いちぎられ、鮮血に染まって絶命しているのを見たこともあります。猫社会でも「痴情のもつれ」による殺害事件が起こるのを目の当たりにした「事件」でした。私はここからも本村事件の異常さを認識します。犯人fから本村氏が被害者女性を奪っていったのなら、事件そのものは残虐としても一応は成り立ちます。ですが犯人fと被害者女性はその時まで一面識もなかったのですから、これは猫社会であっても厳しく断罪されるべき事件であり、安田某を中心とする弁護団は、正しく鬼畜にも劣る侮蔑すべき輩の集団と言わざるを得ません。

さて、長々と我が家のペットの話をカキコしましたのは、今の20代以下の若者が育った環境で、ペットをこのように飼うことができた家に育った者が何名いるだろうということを懸念したからであります。

集合住宅であれば、小鳥はともかく、犬猫飼育禁止は当たり前でしょう。ですが子供にとって家族の中で自分の下位に位置する存在の小動物がいない環境というのは、親が余程気をつけていないと、エントリーにあった準ひきこもりを「量産」しかねないと思われます。小動物なら、子供にとって必ずしも自分の思い通りにならないことを身をもって教えられますが、ゲームやフィギュアは子供の意思に決して逆らうことはないのですから。

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Unknown (知足)
2007-05-30 11:22:49
戦後の人権偏重・平和惚け教育の成れの果てではなかろうか。
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Unknown (名無しさん)
2007-05-30 17:13:12
大学のレベルダウン?心配いりません。

 社会の荒波どころか、生徒の批判にすら晒される事も無く、象牙の塔に篭ったまま定年退職を迎える超真性ひきこもり養成所。それが大学ではありませんか。私も大学に通っていましたし、卒業後も沢山の教授陣とお付き合いさせて頂いております。もちろんこの人ならどこでも公私両面で成功するだろうという優秀な方もおられますが、その一方でコンビニのバイトすら務まらないな、という方も沢山います。樋口氏の「彼らは親から~結果となる」の件は正に大学の教師陣にこそ相応しいと私は思います。

 まぁ生徒が多い大学に人格育成を求めるつもりはありません。しかし本来準ひきこもりになる素質を持った学生を救済できなかった小学校~高校の教師は、皆大学で教育を学び、教員免許を取得し、社会に長期間出ずに教師になったわけです。河北新報のコラムを読んでいないので的外れな意見になるかもしれませんが、大学の「教育」レベルが、既に数十年前に落ちきっていたのが準ひきこもり増加の原因、というのが正解ではないでしょうか。

>のらくろさん
小動物の意見には反対です。孤立した子供が尋常でない犯罪を働く場合、その前の段階で小動物に手をかけるケースが多々あります。これはむかついたら簡単に殺せる、自分の思い通りになるからという理由です。殺してはいけない、同じ意思を持つ人間との付き合い方を、あなたも言ってる通り圧倒的下の立場の小動物から学ぶのは難しいと思われます。ペットがドーベルマンや土佐犬ぐらいだと、社会性を学べなかった子供は家庭内でも下っ端にされて、社会の厳しさを学べるかもしれませんが…。
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コメント、ありがとうございます (mugi)
2007-05-30 21:56:37
>のらくろさん
私が所謂「引きこもり」を見たのは、2ちゃんねるのような掲示板でした。見たといえ、彼らは家に引きこもっているのだから、現実にはネット上で知ったのですが、印象は最悪でしたね。それまで実際に関わったことがなかったためか、「引きこもり」の人にはどちらかと言えば気の毒に思っていましたが、ネットで彼らを見て、一片の同情もなくなりました。

彼らは親に依存しているだけでなく、ネット社会でもパラサイトしている。暇があるのに自分からサイトを作らず、他人のブログやHPに依存するだけならまだしも、していることはアラシなのです。異なる意見の管理人やその読者に噛み付き、荒らして憂さ晴らし。中高年の引きこもりさえおり、ネットでは学者で彼らと親交がある、或いは特殊自由業と称したり、引きこもれる俺を羨ましいのだろう、と開き直る者もいました。友も職も妻も恋人もなく、ネットに明け暮れるのは、健常人ではありませんね。
もちろん引きこもり全てがこうとは限りませんが、小説の一節のように、「落伍者特有の周囲への憎悪」に取り付かれてます。

私も子供の頃は集合住宅暮しでしたので、小鳥やハムスターを飼ってました。小鳥など可愛がっていても一週間で死んだりすることもあるし、ハムスターも前日までは元気に車輪遊びをしたのに、翌日朝には体が冷たくなっていたのはショックでした。
私は犬猫を飼った事がありませんから、猫のお話はとても興味深く読ませて頂きました。
何かの動物番組で、雄ライオンや雄ゴリラは自分の種でない子供を殺すと聞いたことがあります。いかに自分の子孫を残したいといえ、他の雄の子供を殺すのだから畜生です。だから飼い猫でも「痴情のもつれ」はすごいことになるのでしょうね。

人間と畜生の違いは、罪もない子供を平気で殺せるか否かが分かれ道だと思います。戦争時は人間は鬼畜になるのは仕方ないにせよ、平時において、山口県光市母子殺人事件のような犯人はまさに鬼畜。元少年Fの弁護団も、社会秩序への配慮が全く欠けてます。連中には犯人の人権など口実に過ぎず、死刑廃止の具にしているだけ。

この事件について感想を書いた死刑反対論者ブロガーからTBを送られたことがありますが、全く賛同できない内容でした。
http://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/036e3091d0bbd69495d9b4521580321f


>知足さん
昔の人は「子孫のために美田を残さず」と、いいことを言いましたね。親の財産で遊び暮らす者への戒めです。
文化人には引きこもりは非寛容な日本社会に問題ありと指摘する者もいますが、アフリカの内戦地帯では到底やれません。
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最大の原因 (mugi)
2007-05-30 21:58:32
>名無しさんさん
大学とは本来学問を修める場であり、人付き合いを学ぶ機関ではありません。
まるで幼稚園じゃあるまいし、人付き合いを大学で教えるなど下らないとしか思えませんね。他の大学生が迷惑します。

学者というのは世間知らずが多いから、一般社会人とは乖離した考えを持つようになるのでしょう。そのくせプライドは高いから、大学の教授陣がコンビニのバイトすら務まらないという仮定は、設定自体が間違っているのでは?彼らは学生時代から、その職業には就きたがらないでしょう。アルバイト先もエリート層とそうでない者は違う。

私は「準」、真正問わず、引きこもりの最大の原因は豊か過ぎる日本の社会状況があると思います。
これが戦後すぐの混乱期なら、引きこもりなどやっていられない。甘やかされてひ弱な子供のなれの果て。立ち直りは絶望的でしょう。

飼っている小動物を殺すのは、もしかすると先天的な性格異常があるのかもしれない。仰るとおり猟奇的な殺人鬼は、人を殺害する前に犬や猫のような動物を惨殺しています。何故、彼らがこのような行動を取るのかは、精神科医でも説明がつかないから、まして私には理解不能です。
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高等遊民は明治から (madi)
2007-05-31 03:01:02
夏目漱石の「こころ」の先生や志賀直哉自身の30代くらいまでの生活をみても、コミニュケーション不全の高学歴者はいつでもいたことになります。ただ、当時の高学歴といまの大学生とでは知的レベルが相対的にちがっているし、人材としての希少性もかわっていたことでしょう。
日本でインテリがあまりだすのは1970年代くらい、フランスだと19世紀後半くらいの感じであまったやくにたたないインテリはいろいろな文学にでてきます。
司法試験浪人などはあまったインテリの例でしょう。

ひきこもりは低学歴になりがちでが、準ひきこもりだとまあまあの学歴になるのかなあ?経歴のキズになるような大学のはなしのようにもよめました。

ひきこもりは収入面でも学歴でも下になるから、そら、うっくつはたまるでしょうねえ。わたしはニフティに1989年から参加してましたが、1分10円1200ぼーなんて環境だとパソコンの知識とある程度の収入がないと参加できませんから、ひきこもりというのはニフティで当時みかけたことはありませんでした。2ちゃんねるばひきこもりが手がでるメディアという点では画期的だったことでしょう。
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Unknown (Unknown)
2007-05-31 05:07:10
素晴らしい記事ですね。しかし解決策が全く何も示されていないのが残念でした。
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コメント、ありがとうございます (mugi)
2007-05-31 21:26:15
>madiさん
もしかすると、数は少ないにせよ、江戸時代にも高等遊民はいたかもしれません。天下泰平の時代なので、その余地はありそうな…
文盲率の高さで有名なインドにも、第二次大戦前の風刺画に「大学を出た役立たず」を痛烈に皮肉ったものがありました。輪転機で紙幣ならぬ人の形をした紙を印刷している、という絵でした。

1989年からニフティに参加されていたとはスゴい。私などPCを本格的に使うようになったのは'90年代になってです。
2ちゃんねるの引きこもりは、やれ大学院を出たの、大学教授だ研究者など、殊更聞かれもしないのに学歴を強調する者がいましたね。書込みレベルからバレているのですが、そのようなことでしか自尊心を癒せないのでしょう。


>Unknownさん
解決法がない訳ではありませんが、今の日本で実現は難しいでしょう。
自力で立ち直るのはまず無理なので、彼らの親に特別税を負担させる、或いは共産圏ばりに労働矯正で施設に収容する…
いずれにせよ、日本が貧しくなれば否応なしに彼らは減少します。

彼方自身のコメントにも解決策が全く提示されてないのは、実に残念。そもそも引きこもりは最終的に当人の問題。
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鉄は熱いうちに打て ()
2009-09-05 21:35:43
TBありがとう~♪

>氏は大学で彼らには人付き合いを教えることを提言されていたが、これでは大学のレベルダウンは確実だ。

人付き合いは幼稚園前に、親が子供に教えるもの。大学は専門的な学問を教える場所。
大学生になって人付き合いを教えても覚えられるものじゃないよ。

>いずれにせよ、日本が貧しくなれば否応なしに彼らは減少します。

↑そうだね、生きるも死ぬも本人次第。
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Re:鉄は熱いうちに打て (mugi)
2009-09-06 16:09:56
>葵さん

 ↑で「本来準ひきこもりになる素質を持った学生を救済できなかった小学校~高校の教師…」などのコメントもありましたが、これは家庭での親の教育の問題。このように何でも教師にお任せの姿勢こそ、学級崩壊まっしぐら。

 生きるも死ぬも本人次第ですが、養ってくれる親がいる限り立ち直りは難しいでしょうね。親が倒れた時、目を覚ましても遅すぎる。親を殺すのはこのようなタイプかも。
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