トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

ブームについて

2010-01-06 21:20:40 | 世相(日本)
 毎年暮れになると、マスコミはその年にブームになった現象や流行を振り返り、世相を論評するのを恒例行事としている。昨年は太宰治がブームとなったと言われ、新聞やTVでも大きく特集し、著書も新たに出版、映画化もされている。そのため、にわかファンが増えたと思われるが、つくづくブームというものは、メディアにより作られるものだと痛感させられる。

 マスコミによる若者の活字離れが言われて久しい。もう30年ちかくも前の私の十代の頃さえ、最近の若者は本を読まなくなったと地元紙・河北新報やTVの御用評論家などが嘆いていた。ひょっとすると、嘆いた記者や評論家の青年時代も同じことを言われていたのではないか、と勘ぐりたくなる。出版業界と報道業界は密接な関係があるため、本が売れなくなると困るのは書くまでもないし、後者は本の宣伝も兼ねて、ある作家を大々的に売り出すのは想像に難くない。忘れられていた過去の作家に目をつけ、物語に現代風の解釈を施し、キャンペーンを重ねて売るのは当然の商業行為なのだ。これは本だけではなく、他のあらゆる商品や出来事、話題も同じである。

 ヒッチコックの代表作のひとつ『北北西に進路を取れ』の冒頭、広告会社経営の主人公が「いらない商品でも売りつける職業」と女に皮肉を言われるシーンがある。まさに商品の売れ行きは宣伝にかかっており、宣伝如何で売上は大きく左右される。派手な広告は資本主義社会の特徴であり、映像を通して商品をアピールされたら、特に良品といえない代物でも、買わなければ損する優れものと思い込む人も出てくる。昔から口コミはあったが、情報伝達の速さではTVに及ばず、最近はネット広告も台頭してきている。

 たとえ誇大傾向でも、よいことや良いモノを宣伝し、それがブームになるなら問題ない。しかし、実際はいらないものでも売りつけられ、ブームが去った後はそれがあったことも忘れられる対象が多い。要するにブームの仕掛け人がおり、彼ら彼女らに視聴者若しくは消費者は煽られ、踊らされてブームとなるのが実態だろう。特に横並び志向の強い日本人には効き目は絶大だ。経済効果があるのは事実だし、この先も手を変え品を変え、ブームが作られることだろう。

 人間は変化を求める性質があり、いつまでもブームが続くことはありえない。そこで、ブームの絶頂時は、似たような食品、商品、特集が並び、業界では熱の覚めやらぬうちに売って売って儲けようとする。現代の経済は売上至上主義で成り立つので、良品を作れど売れず、ブームにもならぬなら、そのモノはなかったことと同じなのだ。庶民に情報を与える新聞や雑誌、TVの影響力は未だに絶大であり、特に寂しいからという理由でTVをつけずにいられない人も少なくない。考えもなしに映像を見続ければ、メディアの思うまま情報を刷り込まれ、それが己の考えだと誘導されていく。

 今流行のエコもまたブームと言ってよく、様々な業界もこれに目をつけ、過熱に拍車がかかる。今年の元日の河北新報にミュージシャンの坂本龍一へのインタビューが載り、ニューヨーク在住の彼はこちらではエコはファッションになっていると語っていた。この答えは興味深い。日米共に芸能人が軽佻浮薄なのは同じでも、動機はファッションなのだ。きっかけはどうあれ、環境保護に繋がればよいと解釈できるが、坂本がのめり込んだ学生運動もファッションだったのだろう。昨年1月、当時の学生運動や現代の活動家を評したコメントを頂いた。
結局アメリカなどから流れてきた、一過性のファッションでしかなかった学生運動というものの中に自分がいた過去のファッショナブルな栄光の余韻に浸っているだけ…

マスコミの嘘と裏」というサイトがある。業界の裏事情が紹介されており、なかなか面白いが、「ミリオンセラーにだまされるな!」のコラムは本好きの私の関心を引いた。書店に行けば、「何万部のベストセラー」の類の手書き広告が見られるが、発行部数=販売部数ではなく、本を売るための戦略として、発行部数を水増しして発表することは日常茶飯事とあるのには絶句されられた。そして、「これは出版業界だけの話じゃないんだ」と結んでいるのも意味深である。

 たとえ教養番組を扱っていても、メディアというものは巨大広告宣伝機関であり、それこそが本業なのだ。良質な番組もない訳でもないが、それはお菓子のオマケのようなものであり、何かをブームに仕立て上げ、視聴者にモノを買わせ、ある方向に向けさせることが本来の目的である。ブーム製造組織と言ってよい。
 現代の生活はメディアなしでは考えられないが、それがなかったさして遠い時代に比べ、大量の情報は産業の発達と生活の向上も促進した半面、いらないモノでも売りつけるブームを量産したのは間違いない。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
明けましておめでとうございます (ユウスケ)
2010-01-08 04:20:47
お久しぶりです。バタバタとしておったら年が明けておりました。
ときどき覗いてはいたのですが、読んでわりと満足したり、コメントしている暇がなかったりの毎日でした。いつの間にか、auとdocomoを2台使い分けるようになって、ブックマークを探すのも一苦労。(笑)

しかしながら、ファショナブルな余韻に浸っているだけとは、また、辛辣なことを言う人間もあったものですなぁ。(笑)
確かエコはエゴだと言っておった記憶もございます。(笑)

むろん、ファションが必ずしも唾棄すべきものだなどとは思ってはおりませんが、あまりにも人々が躍らされていて、ときには滑稽にすら思います。とはいえ、「欧米人からしたら、自分の信念がないように見える」といった例のあの常套句もまた良いとは思いませんが。(笑)

イロニーというフィルターを通して、浮き世の悉くを一切合財、一笑にふしてみておると、まことこの世は面白いものでございます。
さて、遅くなりましたが今年もよろしくお願いいたします。
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Re:明けましておめでとうございます (mugi)
2010-01-08 21:25:16
>ユウスケさん、

 お久しぶりですが、お変わりありませんでしたか?
 年末年始はバタバタしながら、既に今日で8日となり、もう正月気分も抜けた日常になりました。間もなく冬季オリンピックで盛り上がるのでしょうね。

 貴方の表現がお見事だったので、またも使わせて頂きました(笑)。エコではなくエゴと言ったブロガーさんもいました。
 人間にファッションは欠かせませんが、有名人が煽ればブームになりますが、その有名人もまた何処かに踊らされる操り人形だったりする。欧米人にせよ信念のある者は少なく、信念から欧米の価値観を無視する非欧米人には、後進的の言葉を投げつけるのでしょう。

 こちらの方こそ、拙ブログを今年もどうぞよろしくお願い致します。
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