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B型肝炎ワクチン [Hepatitis B Vaccine]

2010-07-07 | Vaccine 各論

不活化ワクチン
1992年にWHOが世界各国にB型肝炎ワクチンを定期接種とするように推奨、2013年末には183カ国が乳幼児の予防接種を導入しているが、日本では1985年に母子感染防止事業で公費での垂直感染予防を導入しているものの、全員を対象とした定期接種ワクチンではない(Global Immunization Data 2014 July)。

WHO西太平洋事務局(WPRO)では2018年までの5歳時のHBs抗原陽性率を1%未満とすることを目標に掲げ、日本はこの目標を明らかに達成しているものの、定期接種が導入されていないとの理由で改善が必要な国とされている(SAGE 2014年)。




遺伝子組み換え型吸着抗HBs抗原(recombinant adsorbed Hbs Ag)を20μg15歳以上に接種する。

接種方法:
通常の予防の場合は、0.5mLずつを4週間隔で2回、更に、20-24週を経過した後に1回0.5mLを皮下又は筋肉内に注射する
ただし、10歳未満の者には、0.25mLずつを同様の投与間隔で皮下に注射する
ただし、能動的HBs抗体が獲得されていない場合には追加注射する

B型肝炎ウイルス母子感染の予防(抗HBs人免疫グロブリンとの併用)の接種方法は2013年10月18日の審査により変更(通知)されると共に、変更内容が保険適応となった(通知)。0.25mLを1回、生後12時間以内を目安に(生後2-3箇月により変更)皮下に注射する。更に、0.25mLずつを初回注射の1箇月後及び6箇月(3箇月より変更)後の2回、同様の用法で注射する
ただし、能動的HBs抗体が獲得されていない場合には追加注射する
2014年3月17日に添付文書内容が変更

HBs抗原陽性でかつHBe抗原陽性の血液による汚染事故後のB型肝炎発症予防(抗HBs人免疫グロブリンとの併用)の場合は、0.5mLを1回、事故発生後7日以内に皮下又は筋肉内に注射する
更に0.5mLずつを初回注射の1箇月後及び3-6箇月後の2回、同様の用法で注射する
なお、10歳未満の者には、0.25mLずつを同様の投与間隔で皮下に注射する
ただし、能動的HBs抗体が獲得されていない場合には追加注射する

有効性:
3回接種後に約95%の接種者で感染防御に有効な抗体価(10mU/ml以上)が得られる
抗体を検査する場合はワクチン接種後1-2ヵ月後に検査する
抗体獲得率は高齢者や男性で低い傾向がある
1シリーズの抗体獲得率は40歳未満で95%, 40-60歳で90%, 60歳以上で65-70% (WHO, 2002)
3回のワクチン接種後、約5年で半数の接種者は抗HBs抗体が陰性化するが、感作リンパ球に防衛機能が残存しており、一度抗体反応があった接種者でB型急性肝炎に罹患したとする報告もないことから、健常人では追加接種を必要としないとする考え方が主流[Vaccine. 2007 Apr 20;25(16):3129-32. Epub 2007 Jan 19.]
接種4年後1/3-1/2でHBs抗体陰性化という報告もある

 

ビームゲン®:
HBs抗原、HBs抗体及びHBc抗体が陰性の成人、小児を対象に本剤0.5mL(10歳未満0.25mL)の3回接種を行ったところ、96.3%(1,712/1,777)がHBs抗体陽性となった

ヘプタバックス®:
HBs抗原、HBs抗体及びHBc抗体が陰性の成人及び小児に本剤0.5mL (小児は0.25mL) 3回接種後の抗体陽転率は、成人で92.4% (1,438/1,557例)、小児で100% (88/88例) を示した
成人について投与経路間で比較すると、筋肉内投与では95.0% (662/697例) と皮下投与の90.2% (776/860例) に比べ、やや高い抗体陽転率※を示した

海外でのHBV (Engerix-B®; Recombivax HB®)
容量は20歳未満では0.5mlの3回接種(0, 1, 6 month)
20歳以上では1.0mlの3回接種(0, 1, 6 month)
透析患者、免疫不全者ではEngerix-B® を2.0mlまで増量可能

抗HBs 抗体が10IU/ml以上で感染防御と判定される

non low-responderが約10%存在する
3回のワクチン接種後もRIA(EIA)陰性: non-responder
3回のワクチン接種後もRIA(EIA) S/N 高齢者、男性、肥満者、喫煙者では免疫応答が低下する[Averhoff F, 1998]
透析患者での抗体獲得率は50-60%[Propst T, 1998]
遺伝的要因を持つ健常者でも2 extended HLA haplotypeにより特徴付けられるHBs抗体産生に関わる遺伝子欠落によりnon-responderとなる

対応方法
1回追加接種で15-25%、3回追加接種で50%免疫獲得[CDC MMWR 1991]
3回追加接種以降の追加の利点は少ない
アジュバントAS04含有ワクチンは2シリーズ目の3回接種で98%が免疫獲得(vs. 68%) [Jacques P, 2002]
A型肝炎との混合ワクチン(Twinrix®)3回接種後の抗体獲得率90%[Cardell K, 2008]
3回接種後6か月以上あけて4回目を接種[日本醫亊新報 No.3447, 1990]
ワクチンの種類を変更して追加接種する[日本醫亊新報 No.3380, 1989]
種類を変更して倍量を筋肉注射[日本醫亊新報 No.3380, 1989]
6月以内に4回目として倍量接種[日本臨牀増刊号1995:386-93]

 

・GenotypeとSerotypeの違いについて
Serotype:Hbs抗原蛋白の抗原性による血性分類
4つのサブタイプがある(adw, adr, ayw, ayr)
抗a抗体を含んでいれば、どのセロタイプのHBs抗原にも結合できる

Genotype: HBV全ゲノムの塩基配列を比較した遺伝子型分類
配列が8%以上異なれば、別のgenotypeと判定される
8種のgenotype(A-H)があるが、さらにAe(A2), AA(A1), B, Cs(C1), Ce(C2), D1-7, F1-4などのsubtypeがある

・相互の予防効果について(互換性)
ビームゲンはgenotype C (serotype adr)、ヘプタバックスはgenotype A (serotype adw)
genotype A2のワクチンはgenotype A以外の全ての遺伝子型のB型肝炎ウイルスに対しても予防効果がある(Expert Rev Vaccines, 2012
genotypeの異なる2種類の組み換え沈降B型肝炎ワクチン(酵母由来)を、いずれの組み合わせで接種をしても、3回接種後には感染予防に必要な抗体価を獲得し、重篤な副反応も認めないことから、互換性が確認された(ワクチンの有効性・安全性評価とVPD対策への適用に関する分析疫学研究

・予防効果の持続期間について 
幼少期のワクチン接種による予防効果は疫学的に20年以上の効果が認められ、免疫不全などの問題がない限り追加接種を必要としない(CID, 2011
予防効果が持続する原因は免疫記憶の維持と関連すると考えられている(J Viral Hepat, 2003)
台湾でのB型肝炎接種後5~20年の観察で、breakthroughの全累積発現率は0.007[95%CI 0.005-0.010]だった。(Vaccine, 2010)
1回~2回のワクチン接種で抗体が陽転することもあるが、長期間の予防効果は3回の予防接種を終了させ、HBs抗体が10mIU/mL以上に上昇した場合にのみみられる。(CID, 2011)
HBs抗体値は約1/4までの抗体獲得者において、10-31年で有効性を示すカットオフ値以下まで低下するものの、再接種によるブースター効果が見られることから、長期免疫が持続していることが示唆され、医療従事者に明らかな再接種の必要性はない。(CID, 2014)

 

・母子保健事業について
厚生省は1985年6月からB型肝炎母子感染防止事業を開始し、全国の妊婦のHBs抗原検査を公費で行い、これが陽性の場合にはHBe抗原検査を行った。そして1986年1月1日以降、HBe抗原陽性HBs抗原陽性妊婦から出生した児に対して感染防御処置が公費で行われてきた(IASR 12(4) 2000)。1995年よりHBs抗原陽性の母体から出生する児に対する予防接種及び免疫グロブリン注射は1995年4月より保険診療で行われることとなった(B型肝炎母子感染防止事業の実施について)。事業は1998年に一般財源化された。 

 

日本産科婦人科学会、日本小児栄養消化器肝臓学会より、B型肝炎ウイルス母子感染の予防に関する組換え沈降B型肝炎ワクチンの用法について変更の要望書があり。第17回医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議(平成25年10月7日開催)及び第6回薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会(平成25年10月7日開催)にて変更が承認された。

また日本小児科学会から添付文書変更に伴う接種方法の指針が示されている。
 B型肝炎ウイルス母子感染予防のための新しい指針(登録2013.12.18)
B型肝炎ワクチン接種時期の変更に伴う母子感染予防指針 低出生体重児等の特別な場合に対する日本小児科学会の考え方 (登録2014.03.23)
 


B型肝炎に対する治療については、WHOからガイドラインが作成された。
World Health Organization (WHO). Guidelines for the prevention, care and treatment of persons with chronic hepatitis B infection. Geneva: WHO. Mar 2015. 

Reference:
医療用医薬品の添付文書情報
海外渡航者のためのワクチンガイドライン2010

 


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