消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

現代米国の黙示録 10 メガ・チャーチ(1)

2006-09-02 23:58:01 | 現代宗教
 メガ・チャーチとは、日曜日の礼拝に参加する人数が2000人を超える教会を指す。メガ・チャーチの特徴は、牧師がケーブル・テレビで専用の番組をもち、ベストセラーとなる宗教本を作り出し、教会内をロック・コンサートのような雰囲気に作り変える点にある。メガ・チャーチは,1955年前後に誕生したが、急成長したのは、レーガン大統領が福音派教会を利用し始めた1980年代に入ってからである。以後、年率5%の水準でメガ・チャーチは増えてきた。 とにかく、メガ・チャーチは、巨大になるのに、長期間を要しなかった。例えば、著名なメガ・チャーチの1つ、「アナハイム・ビネヤード・チャーチ」などは、信者ゼロから3000人にするのに、5年しかかからなかったと創設者のジョン・ウィンバーは自慢している


 巨大化することで、社会の関心を集め、信者を集め、それがさらに巨大化に拍車をかける。アトランタの「ワールド・チェンジャーズ・ミニストリー」の牧師、クレフロ.A.ダラーは、信者席を8000席設けた。その工事だけで、近隣の人々の関心を呼び、そのことが、新聞、ラディオ、テレビで報道され、さらに多くの人々が見に来るという相乗作用を、巨大化は生み出す。


 規模と並んで、メガ・チャーチの地理的位置も共通点がある。メガ・チャーチの75%は、サンンベルト州に立地している。中でも、カリフォルニア州がもっともメガ・チャーチの教会数が多く、後、テキサス、フロリダ、ジョージアの各州が続く。


 つまり、米国で人口の増加率の大きい州の州都にメガ・チャーチが集中しているのである。不規則に急拡大する町を米国ではスプロール・シティというが、ヒューストン、オーランド、ダラス、ロサンゼルス、アトランタ、フェニックス、オクラホマ・シティなどがそうした町である。そして、これらメガ・チャーチは、郊外に位置し、高速道路を使うと容易に行ける場所にある。


 メガ・チャーチの集会はとにかく楽しい。元々教会に行きたがらない人々を獲得することにメガ・チャーチが腐心してきたからである。教会を敬して遠ざける人は、内気で人付き合いが苦手なタイプが多い。したがって、メガ・チャーチは、とにかく楽しく、すぐに周囲の雰囲気に適合できるような工夫が凝らされている。まるで、劇場の中にいるように物事が進行させられている。演出は凝ったものになり、教壇の振り付けもプロによるきらびやかで楽しいものが目指される。牧師は、難しい言葉は一切使わないことを原則にしている。


 メガ・チャーチは、ブームに乗ってフル操業をしている企業そのものである。食堂から喫茶店、日用雑貨店に薬局、運動クラブに各種文化的催し、等々、イベントが目白押しである。まったく休日なしに教会は営業している(Scaller[1990], pp. 20-24)。  メガ・チャーチの特徴は、カリスマ的な人気のある司祭たちが、抜群の経営センスをもっていることである。宗教上の教理への理解よりも、経営センスの方が重視されているとも思える。その証左が、メガ・チャーチの運営者の3分の1は、伝統的な教会で訓練を受けたことのない人たちであるという点にある。


 イリノイ州(Illinois)サウス・バリングトン(South Barrington)にある同州最大の「ウィロー・クリーク・コミュニティ・チャーチ」(Willow Creek Community Church)の運営責任者のハイベルズ(Bill Hybels)は、一度も牧師としての訓練を受けたことのない人である(Niebuhr[1995a])。


 教会を建てる時には厳密なマーケッティング調査をするが、教義上では専門家でもなんでもない経営者のハイベルズが、聖書に書かれたものこそが、真実であるという「レフトビハインド現象」そのものの言葉で語るのである。


 この教会のウェブ・サイトで、ハイベルズは言う。 「私たちは、もっとも今風の言葉、音楽、劇を使って、今日の文化に合う神の御言葉を伝えます。しかし、私たちのメッセージは、聖書と同じ程度に旧いものです。私たちは、すべての教義に関する、歴史的なキリスト教の教えを重視します。イエス・キリストが死で贖って下さったこと、悔い改めることによる救済、神の恵み、受難時の神の御言葉が書かれた聖書を重視します」。


 「聖書と同じ程度に旧い」メッセージとは、携挙やトリビュレーションの到来を信じ、ハルマゲドンとの戦いに立ち上がれというものである。ハイベルズは豪語する。

 「私たちは、王国の歴史を作りつつある。完全に新しい世代に向けての新しい方法で事に当たっている」。


 フル操業のメガ・チャーチは、多様で豊富な業務を遂行するために、非常に多くのスタッフを抱えなければならない。ハイベルズの教会は、1995年時点ですでにフルタイムの司祭助手を20人前後抱えていた。さらに、フルタイムの事務員260人、ボランティアも2000人はいた。年間予算も、1235万ドルもあった。予算の63%が従業員の給料に、残りが施設維持費と活動費に使われた。建物を含む施設の総資産は、3430万ドルであった。


 『ビジネス・ウィーク』誌の最新の推計によれば、同教会の2004年の年間予算は4800万ドル、純資産1億4300万ドル、日曜集会の参加者数は2万1000名を超えるようになった。雇員は、427名にまで増加した。ボランティアも1万人になった。教会の事業は、100を超えている。


 ビル・ハイベルズは、1975年にこの教会を創設した後、グレグ・ホーキンズを雇い入れた。ホーキンズは、スタンフォード大学でMBAを取得し、マッキンゼーの元コンサルタントであった。彼が日々の教会運営に携わっている。


 この教会のコンサルティング部門は強力である。「ウィロー・クリーク協会」がそれである。このコンサルタント業務は、ハーバード・ビジネス・スクールのMBA、ジム・メラドが責任者になっている。主たる顧客は、他のキリスト教会である。固定的顧客の教会数は、90の宗派を横断する1万500にも及ぶ。「ウィロー・クリーク・メソド」という効率的な教会の運営方法の伝授を行っている。固定的顧客ではなく、1回だけのコンサルティングを含めると、料金を払って、その方法を学んだ教会数は、2004年の1年間だけで11万件を超えている。


 年間収入の内訳は、献金が2600万ドル、コンサルティング収入が1700万ドル、書籍販売320万ドル、コーヒー・ショップとレストランの売上250万ドル、自動車修理100万ドル、サマー・キャンプ収入30万ドルであった。


 これでは、もはや教会ではない。れっきとした企業であると決め付けられても仕方のない態様である。

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