森田宏幸です。今日は2010年7月16日です。
今日は、「アニメーション」の仕事になんらかのかたちで関わっている皆さんに向けて書きます。
それも、若い皆さんと、ベテランでも、仕事のウラの話題に関心がない人たちへ。
先日、同世代のアニメーター仲間と呑んだ時、
その彼は「コンテンツ」という言葉を知らなかった。
そういう人は意外と多いのではないかと。
いくらなんでも、仕事が出来ていれば知らないでよい、という問題ではない。
上の写真は、その話の切っ掛けですが、
私の住んでいる最寄り駅の前です。
まさか、毎日帰りに
リン・ミンメイに出迎えてもらえるようになろうとは思わなかった。
私が高校生の頃の、人気のキャラです。
今の人は知らないかも知れないけれど。
こうしたものがあるのは、
都内の「アニメ」振興策の一環ですね。
ガンダムのサンライズのある杉並区でも盛んです。
それで、ちょっと前になってしまったけど、こんなニュースがありました。
http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/ghibli/cnt_eventnews_20100518c.htm
「アニメの練馬 世界へ発信 区がHP」
この記事の中に、
練馬vs秋葉原という図式が出てきたのです。
それが私は気になった。
(2010年5月13日読売オンライン「アニメの練馬 世界へ発信 区がHP」の記事から一部を転載はじめ)
「ジャパンアニメーション発祥の地」をPRし、アニメを生かした都市活性化を進める練馬区が、アニメ情報を発信するホームページ「練馬アニメーションサイト」を開設した。関連企業約90社が集まる一大集積地。区内のアニメにまつわる歴史や、ゆかりのアニメーターのインタビューなど盛りだくさんの内容となっている。近く英語版も完成予定で、担当者は「世界中の人々を魅了するような情報を提供したい」と意気込んでいる。(渡辺光彦)
練馬区は、日本初の長編カラーアニメ映画「白蛇伝」(1958年)を生み出した「東映動画」(現・東映アニメーション)や、連続テレビアニメ第1号「鉄腕アトム」(63年)の「虫プロダクション」が、スタジオを構えていた日本アニメ発祥の地。
(転載、中略)
HPでは、練馬アニメクリエイターズアワード「アニメ作家シナリオ・コンテスト」のグランプリ作品のプロモーション映像を公開しているほか、「アニメの町、練馬」の歴史や、としまえんなどで毎年開催されるアニメ関連イベントなどの情報が満載。世界最大のアニメ映画祭の開催地で、昨年、「アニメ産業交流協定」を結んだ仏アヌシー市との交流なども盛り込む。
発祥の地を自負する練馬だが、区の担当者には、「世界中から注目される日本のアニメといっても、脚光を浴びるのは秋葉原」という悩みもある。このため、区は昨年1月、アニメ産業を戦略的に育成しようと、「アニメ産業集積活性化計画」を策定、今回のHPもその一環で作成した。世界に練馬アニメを発信できるよう、各素材の英語版や字幕入りを制作している。
HPは、http://www.animation-nerima.jp/。
(転載終わり)
森田宏幸です。注目して欲しいのは、
「世界中から注目される日本のアニメといっても、脚光を浴びるのは秋葉原」
という部分です。
多くの読者は「まあ、そんなものだろう」と読み流すでしょうけど。
いくら練馬が「アニメ」発祥の地でも、昔から電気街として栄えている商業地だから仕方ない、
と、そんな印象でしょう。新しい秋葉原と古い練馬、みたいな。
でもより正しく、より本質的には、
練馬は「アニメ」の地で、秋葉原はコンテンツの地、だと思うんです。
つまり、練馬と秋葉原を同列に対峙させるのは、本当は、ちょっと違うのだ、
と、私はそのように、言いたい。
コンテンツとは、漫画、「アニメ」、ゲーム、映画、小説など出版物、それに、
音楽、ラジオ、テレビ番組など、デジタルデータに置き換えられるものはすべてです。
「アニメ」だけじゃない。
秋葉原にあるデジタルハリウッド大学の杉山知之学長の著書に、
このコンテンツという概念を分かりやすく説明している箇所があったので
引用させていただきます。
(杉山知之著「クール・ジャパン 世界が買いたがる日本」84ページから転載はじめ)
■あらゆる産業を串刺しにするもの
今までの産業は、それぞれの業界ごとに独立して存在してきた。自動車も電機も、いわば縦(たて)に存在し、活動してきたわけである。束(たば)ねていたのは銀行で、英語にもなった「ケイレツ(系列)」という企業グループを形成してきた。
一方、コンテンツ産業は、あらゆる産業を串刺しにする。
日本のコンテンツ産業の特徴は、キャラクターを通じてマンガ、テレビアニメ、映画、ゲーム、CMなど、メディアを串刺しにする形を作り上げていることだ。キャラクター商品を除いて狭義に捉えても、これだけのメディアを貫(つらぬ)いており、トータルすれば、巨大な金額が動く。
たとえばポケモンは、これまでに三兆円を売り上げたとされるが、日本、アメリカ、ヨーロッパで一兆円ずつで、まんべんなく浸透している。これも活躍の場が、複数のメディアにまたがっているからだ。
(転載終わり)
森田宏幸です。
この「串刺しにする」という言葉が面白いですね。
「アニメ」に出資する立場の方々から、よく聞こえてくる言い回しです。
漫画、「アニメ」、ゲーム、映画を「串刺し」にしてまとめると、
売り上げが膨らんで投資の対象として魅力があるということらしい。
だから、ポケモンの売り上げが三兆円という時、
それはあくまで、コンテンツ全部をまとめた額ということです。
「アニメ」の売り上げなどは、このうちのほんの一部分に、
相対化されて、位置づけられているだけです。
我々アニメーションの関係者はここを勘違いしてはならない。
ちなみに、このコンテンツという言葉の用法は、日本独自のものだそうです。
私はこのことを、杉山学長から直接教わりました。
誰がどう使い始めたかは教わらなかったけれど、
一般化させたのは、おそらく経済産業省ではないでしょうか。
その前はゲームや、IT業界かも知れないけれど、
このコンテンツ串刺し戦略は経済産業省が描いた戦略なのだと思います。
コンテンツという言葉を、「アニメ」の現場の私が耳にするようになったのは、
「猫の恩返し」が終わった2002年から2003年にかけて。
「コンテンツを扱っている某(なにがし)です」とか、
「コンテンツに可能性を感じてるんです」
というような言い方でよく聞きました。
そうした日本「アニメ」の関連会社の方々とたくさん会いました。
そうした方々は、「アニメ」の現場の私に、皆、
「アニメ」という言葉を使わないで話しかけてくるのです。
産業界の上層の方では、もはやアニメーションは
「アニメ」とは言わなくなったのだな、と思いました。
かつて、アニメーションは漫画映画と呼ばれていました。
宮崎駿さんや高畑勲さんが若い時代です。
そのあとテレビアニメの時代が始まって、
「アニメーション」が省略されて「アニメ」になった。
アニメージュなどを昔から読んでいて知っているのですが、
宮崎さんはずっと漫画映画という呼び名にこだわっていました。
また、個人作家の集まりの日本アニメーション協会(JAA)の人たちと、
私はここ数年話すようになって、彼らが、
アニメーションという呼び名に今もこだわっていることを知りました。
JAAのHPの表紙(http://www.jaa.gr.jp/)には、今も
「アニメだけではない、『日本のアニメーション』の世界を紹介します」
と書かれています。
でも、今や、そんな方々の頭越しに、
「アニメーション」は「コンテンツ」になりました。
時代の歯車がまたひとつ回った。
その瞬間に私は生々しく立ち会った。そんな感慨を憶えます。
私も実のところ、
「アニメ」という呼び方では抵抗があったJAAの人たちに近い感じ方です。
本当は、アニメーションと呼ばせていただきたいけれど、
あまりに一般化したので、あきらめて「アニメ」と言ってます。
ま、そんな話はともかく。。
「アニメ」の、練馬vs秋葉原、という構図は、
実は、「アニメ」の練馬、「コンテンツ」の秋葉原という構図でした。
秋葉原は昔から電気街で、家電の輸出の拠点のようにして栄えていた。
テレビに始まって、パソコン、そして携帯と、デバイスという家電で、
あらゆるコンテンツを統合して引っ張ってきたのです。
経済産業省はそこに目をつけて、
コンテンツ産業の戦略拠点に利用しているのだと思います。
さて、練馬「アニメ」は、秋葉原「コンテンツ」に比べてすっかり時代遅れなのか?
この話題、もうちょっと続けます。(つづく)
今日は、「アニメーション」の仕事になんらかのかたちで関わっている皆さんに向けて書きます。
それも、若い皆さんと、ベテランでも、仕事のウラの話題に関心がない人たちへ。
先日、同世代のアニメーター仲間と呑んだ時、
その彼は「コンテンツ」という言葉を知らなかった。
そういう人は意外と多いのではないかと。
いくらなんでも、仕事が出来ていれば知らないでよい、という問題ではない。
上の写真は、その話の切っ掛けですが、
私の住んでいる最寄り駅の前です。
まさか、毎日帰りに
リン・ミンメイに出迎えてもらえるようになろうとは思わなかった。
私が高校生の頃の、人気のキャラです。
今の人は知らないかも知れないけれど。
こうしたものがあるのは、
都内の「アニメ」振興策の一環ですね。
ガンダムのサンライズのある杉並区でも盛んです。
それで、ちょっと前になってしまったけど、こんなニュースがありました。
http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/ghibli/cnt_eventnews_20100518c.htm
「アニメの練馬 世界へ発信 区がHP」
この記事の中に、
練馬vs秋葉原という図式が出てきたのです。
それが私は気になった。
(2010年5月13日読売オンライン「アニメの練馬 世界へ発信 区がHP」の記事から一部を転載はじめ)
「ジャパンアニメーション発祥の地」をPRし、アニメを生かした都市活性化を進める練馬区が、アニメ情報を発信するホームページ「練馬アニメーションサイト」を開設した。関連企業約90社が集まる一大集積地。区内のアニメにまつわる歴史や、ゆかりのアニメーターのインタビューなど盛りだくさんの内容となっている。近く英語版も完成予定で、担当者は「世界中の人々を魅了するような情報を提供したい」と意気込んでいる。(渡辺光彦)
練馬区は、日本初の長編カラーアニメ映画「白蛇伝」(1958年)を生み出した「東映動画」(現・東映アニメーション)や、連続テレビアニメ第1号「鉄腕アトム」(63年)の「虫プロダクション」が、スタジオを構えていた日本アニメ発祥の地。
(転載、中略)
HPでは、練馬アニメクリエイターズアワード「アニメ作家シナリオ・コンテスト」のグランプリ作品のプロモーション映像を公開しているほか、「アニメの町、練馬」の歴史や、としまえんなどで毎年開催されるアニメ関連イベントなどの情報が満載。世界最大のアニメ映画祭の開催地で、昨年、「アニメ産業交流協定」を結んだ仏アヌシー市との交流なども盛り込む。
発祥の地を自負する練馬だが、区の担当者には、「世界中から注目される日本のアニメといっても、脚光を浴びるのは秋葉原」という悩みもある。このため、区は昨年1月、アニメ産業を戦略的に育成しようと、「アニメ産業集積活性化計画」を策定、今回のHPもその一環で作成した。世界に練馬アニメを発信できるよう、各素材の英語版や字幕入りを制作している。
HPは、http://www.animation-nerima.jp/。
(転載終わり)
森田宏幸です。注目して欲しいのは、
「世界中から注目される日本のアニメといっても、脚光を浴びるのは秋葉原」
という部分です。
多くの読者は「まあ、そんなものだろう」と読み流すでしょうけど。
いくら練馬が「アニメ」発祥の地でも、昔から電気街として栄えている商業地だから仕方ない、
と、そんな印象でしょう。新しい秋葉原と古い練馬、みたいな。
でもより正しく、より本質的には、
練馬は「アニメ」の地で、秋葉原はコンテンツの地、だと思うんです。
つまり、練馬と秋葉原を同列に対峙させるのは、本当は、ちょっと違うのだ、
と、私はそのように、言いたい。
コンテンツとは、漫画、「アニメ」、ゲーム、映画、小説など出版物、それに、
音楽、ラジオ、テレビ番組など、デジタルデータに置き換えられるものはすべてです。
「アニメ」だけじゃない。
秋葉原にあるデジタルハリウッド大学の杉山知之学長の著書に、
このコンテンツという概念を分かりやすく説明している箇所があったので
引用させていただきます。
(杉山知之著「クール・ジャパン 世界が買いたがる日本」84ページから転載はじめ)
■あらゆる産業を串刺しにするもの
今までの産業は、それぞれの業界ごとに独立して存在してきた。自動車も電機も、いわば縦(たて)に存在し、活動してきたわけである。束(たば)ねていたのは銀行で、英語にもなった「ケイレツ(系列)」という企業グループを形成してきた。
一方、コンテンツ産業は、あらゆる産業を串刺しにする。
日本のコンテンツ産業の特徴は、キャラクターを通じてマンガ、テレビアニメ、映画、ゲーム、CMなど、メディアを串刺しにする形を作り上げていることだ。キャラクター商品を除いて狭義に捉えても、これだけのメディアを貫(つらぬ)いており、トータルすれば、巨大な金額が動く。
たとえばポケモンは、これまでに三兆円を売り上げたとされるが、日本、アメリカ、ヨーロッパで一兆円ずつで、まんべんなく浸透している。これも活躍の場が、複数のメディアにまたがっているからだ。
(転載終わり)
森田宏幸です。
この「串刺しにする」という言葉が面白いですね。
「アニメ」に出資する立場の方々から、よく聞こえてくる言い回しです。
漫画、「アニメ」、ゲーム、映画を「串刺し」にしてまとめると、
売り上げが膨らんで投資の対象として魅力があるということらしい。
だから、ポケモンの売り上げが三兆円という時、
それはあくまで、コンテンツ全部をまとめた額ということです。
「アニメ」の売り上げなどは、このうちのほんの一部分に、
相対化されて、位置づけられているだけです。
我々アニメーションの関係者はここを勘違いしてはならない。
ちなみに、このコンテンツという言葉の用法は、日本独自のものだそうです。
私はこのことを、杉山学長から直接教わりました。
誰がどう使い始めたかは教わらなかったけれど、
一般化させたのは、おそらく経済産業省ではないでしょうか。
その前はゲームや、IT業界かも知れないけれど、
このコンテンツ串刺し戦略は経済産業省が描いた戦略なのだと思います。
コンテンツという言葉を、「アニメ」の現場の私が耳にするようになったのは、
「猫の恩返し」が終わった2002年から2003年にかけて。
「コンテンツを扱っている某(なにがし)です」とか、
「コンテンツに可能性を感じてるんです」
というような言い方でよく聞きました。
そうした日本「アニメ」の関連会社の方々とたくさん会いました。
そうした方々は、「アニメ」の現場の私に、皆、
「アニメ」という言葉を使わないで話しかけてくるのです。
産業界の上層の方では、もはやアニメーションは
「アニメ」とは言わなくなったのだな、と思いました。
かつて、アニメーションは漫画映画と呼ばれていました。
宮崎駿さんや高畑勲さんが若い時代です。
そのあとテレビアニメの時代が始まって、
「アニメーション」が省略されて「アニメ」になった。
アニメージュなどを昔から読んでいて知っているのですが、
宮崎さんはずっと漫画映画という呼び名にこだわっていました。
また、個人作家の集まりの日本アニメーション協会(JAA)の人たちと、
私はここ数年話すようになって、彼らが、
アニメーションという呼び名に今もこだわっていることを知りました。
JAAのHPの表紙(http://www.jaa.gr.jp/)には、今も
「アニメだけではない、『日本のアニメーション』の世界を紹介します」
と書かれています。
でも、今や、そんな方々の頭越しに、
「アニメーション」は「コンテンツ」になりました。
時代の歯車がまたひとつ回った。
その瞬間に私は生々しく立ち会った。そんな感慨を憶えます。
私も実のところ、
「アニメ」という呼び方では抵抗があったJAAの人たちに近い感じ方です。
本当は、アニメーションと呼ばせていただきたいけれど、
あまりに一般化したので、あきらめて「アニメ」と言ってます。
ま、そんな話はともかく。。
「アニメ」の、練馬vs秋葉原、という構図は、
実は、「アニメ」の練馬、「コンテンツ」の秋葉原という構図でした。
秋葉原は昔から電気街で、家電の輸出の拠点のようにして栄えていた。
テレビに始まって、パソコン、そして携帯と、デバイスという家電で、
あらゆるコンテンツを統合して引っ張ってきたのです。
経済産業省はそこに目をつけて、
コンテンツ産業の戦略拠点に利用しているのだと思います。
さて、練馬「アニメ」は、秋葉原「コンテンツ」に比べてすっかり時代遅れなのか?
この話題、もうちょっと続けます。(つづく)
でもコンテンツ的なものよりアニメ的なものの方が評価されますよね、のくせコンテンツ的なものが切り開いた市場にただ乗りするという矛盾を感じたりします。
練馬がこれからどんな街作りをしていくのか気になります。
白蛇伝は東映動画、アトムは虫プロ。
時代をさかのぼった研究もいずれしたいと思います。
チョコさん
ありがとう。励まされます。
こうした内容はこれからどんどん書くので読んで下さい。
つづきも週内にUPします。
前略
高校陸上部ひとつ後輩の玉利です。
ご活躍の噂を聞いてネットサーフしておりましたら偶然に。
これからもお仕事に勤しんで下さい。
応援しております。
草々
べつに驚くこたぁない。。