-それではこちらに、お名前をお書き下さい。-
-えっと・・・登録できる文字に、制限は?-
-ございませんよ。ただ、やはりみなさん、比較的短めのお名前をつけていらっしゃいますね。-
-短め・・・かぁ。じゃあやっぱり下の名前だけかなぁ。-
-ふふふ、どなたかへのプレゼントですか?-
-え?あ、はい・・・実は///-
-この日付に見られるものをご所望・・・ということは、恋人へのプレゼントですね?-
-えへへ。・・・はい、そうです。-
-とてもお喜びになりますよ!ロマンチックで美しい、この世でたった一つのプレゼントです。-
-だと良いんですけど。あとは当日、雨が降らなければ。-
-きっと大丈夫。それに、当日以外にも、場所を変えればまだチャンスはありますし。-
-そうですね・・・。あ、はい・・・じゃあ、この名前で。-
-かしこまりました。お名前は・・・ー
-“・・・”ですね・・・-
「ん・・・」
うっすらと目を開けると、見慣れない天井がおぼろげに映る。
見慣れない?
・・・いや、違う。
ここは、病院の中。
私は交通事故にあって、5日前に目を覚ましてから、ずっとここにいる。
「あら、月野さん。ごめんなさい、起こしちゃったかしら?」
この人は、いつも面倒を見てくれる看護婦さんだ。
病室には、他に人はいないみたい。
あの人たち・・・えっと確か・・・
レイさんに亜美さん、まことさんと美奈子さん・・・
それから、あの大人っぽい人たち。
はるかさんと・・・みちるさん、えと・・・せつなさん、だっけ。
あの人たちは、もう帰ってしまったんだろうか。
「あの・・・その・・・みんなは?」
「ん?あぁ、お友達のこと?
それなら、皆さんさっき帰ったわよ。
月野さんが起きたら渡して下さいって、おいしそうなお団子もいただいてます。」
あの人たちは、目を覚ましてからの毎日、
いつも何か甘い物をおみやげに持って私を訪ねてくれていた。
“うさぎの大好きなお店のだよ”なんて言って、
おみやげを手渡してくれながら、“元気になったら、また一緒に行こう”と笑ってくれて。
なのに私は、
“大好きなお店”のことも、“一緒に行った思い出”のことも、
ましてや、“うさぎ”と呼ばれる私のこと自身、うまく思い出せないでいた。
それから・・・。
「あ、それから。
ちょうど10分くらい前に、衛さんもお見えになってました。
ふふふ、“起こしちゃ悪いからまた来ます”って言ってたわ。月野さん、幸せ者ね。」
・・・そう。
思い出せないことはまだある。
いつもお見舞いに来てくれる、二人の男の人。
二人とも、私にとても優しくしてくれるのに、なんでかな。
二人の顔を見ると、すごく頭が痛くなって、
思い出しそうだった何もかもが、ぐちゃぐちゃと渦を巻き始める。
「あの人は・・・私の・・・。」
答えを出そうとする度に、頭の奥がズキズキ痛む。
なのに考えることをやめてしまうと、今度は胸が締め付けられる。
いろんな記憶がごちゃまぜになる。
“ゼッッタイ、遅レチャダメダカラネ”
“ホラ、ヒトリデ行ッタラ危ナイヨ”
“オ名前オ書キ下サイ”
“危ナイッ!!”
私は誰?あの人は誰?
あとちょっと・・・
待って、思い出しそう。
でも違う・・・わからない・・・
私は・・・
“カシコマリマシタ。オ名前ハ・・・”
“・・・ッタスケテ、オ兄チャンッ!!!!!”
あの人は・・・
トテモ大切ナ、ヒトダッタッテ気ガスルノ。
「う・・・」
「あらあら、月野さん、大丈夫?
無理しなくたっていいのよ、ゆっくりでいいの。
ほら、横になって。」
頭が痛い。胸が苦しい。
「あ、そうだ・・・。
先生からね、良い物を預かっているんですよ。」
わからない。思い出したい。
「ほら、これ。」
どうしたら、思い出せるのか。
「・・・これ、月野さんが事故のとき持っていたバックの中身。
ちょっと汚れちゃってるけれど、全部無事よ。
これを見て、少しずつで良いから、記憶を整理していきましょう?」
「・・・これ・・・私の、もの?」
「えぇ、そうよ。
お財布にお化粧ポーチ、定期入れにキャンディ。それに手帳。」
・・・これしかない。
私の記憶を、たぐり寄せてくれるもの。
私はおもむろに、広げられたものたちに飛びついた。
[つづく]
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-えっと・・・登録できる文字に、制限は?-
-ございませんよ。ただ、やはりみなさん、比較的短めのお名前をつけていらっしゃいますね。-
-短め・・・かぁ。じゃあやっぱり下の名前だけかなぁ。-
-ふふふ、どなたかへのプレゼントですか?-
-え?あ、はい・・・実は///-
-この日付に見られるものをご所望・・・ということは、恋人へのプレゼントですね?-
-えへへ。・・・はい、そうです。-
-とてもお喜びになりますよ!ロマンチックで美しい、この世でたった一つのプレゼントです。-
-だと良いんですけど。あとは当日、雨が降らなければ。-
-きっと大丈夫。それに、当日以外にも、場所を変えればまだチャンスはありますし。-
-そうですね・・・。あ、はい・・・じゃあ、この名前で。-
-かしこまりました。お名前は・・・ー
-“・・・”ですね・・・-
「ん・・・」
うっすらと目を開けると、見慣れない天井がおぼろげに映る。
見慣れない?
・・・いや、違う。
ここは、病院の中。
私は交通事故にあって、5日前に目を覚ましてから、ずっとここにいる。
「あら、月野さん。ごめんなさい、起こしちゃったかしら?」
この人は、いつも面倒を見てくれる看護婦さんだ。
病室には、他に人はいないみたい。
あの人たち・・・えっと確か・・・
レイさんに亜美さん、まことさんと美奈子さん・・・
それから、あの大人っぽい人たち。
はるかさんと・・・みちるさん、えと・・・せつなさん、だっけ。
あの人たちは、もう帰ってしまったんだろうか。
「あの・・・その・・・みんなは?」
「ん?あぁ、お友達のこと?
それなら、皆さんさっき帰ったわよ。
月野さんが起きたら渡して下さいって、おいしそうなお団子もいただいてます。」
あの人たちは、目を覚ましてからの毎日、
いつも何か甘い物をおみやげに持って私を訪ねてくれていた。
“うさぎの大好きなお店のだよ”なんて言って、
おみやげを手渡してくれながら、“元気になったら、また一緒に行こう”と笑ってくれて。
なのに私は、
“大好きなお店”のことも、“一緒に行った思い出”のことも、
ましてや、“うさぎ”と呼ばれる私のこと自身、うまく思い出せないでいた。
それから・・・。
「あ、それから。
ちょうど10分くらい前に、衛さんもお見えになってました。
ふふふ、“起こしちゃ悪いからまた来ます”って言ってたわ。月野さん、幸せ者ね。」
・・・そう。
思い出せないことはまだある。
いつもお見舞いに来てくれる、二人の男の人。
二人とも、私にとても優しくしてくれるのに、なんでかな。
二人の顔を見ると、すごく頭が痛くなって、
思い出しそうだった何もかもが、ぐちゃぐちゃと渦を巻き始める。
「あの人は・・・私の・・・。」
答えを出そうとする度に、頭の奥がズキズキ痛む。
なのに考えることをやめてしまうと、今度は胸が締め付けられる。
いろんな記憶がごちゃまぜになる。
“ゼッッタイ、遅レチャダメダカラネ”
“ホラ、ヒトリデ行ッタラ危ナイヨ”
“オ名前オ書キ下サイ”
“危ナイッ!!”
私は誰?あの人は誰?
あとちょっと・・・
待って、思い出しそう。
でも違う・・・わからない・・・
私は・・・
“カシコマリマシタ。オ名前ハ・・・”
“・・・ッタスケテ、オ兄チャンッ!!!!!”
あの人は・・・
トテモ大切ナ、ヒトダッタッテ気ガスルノ。
「う・・・」
「あらあら、月野さん、大丈夫?
無理しなくたっていいのよ、ゆっくりでいいの。
ほら、横になって。」
頭が痛い。胸が苦しい。
「あ、そうだ・・・。
先生からね、良い物を預かっているんですよ。」
わからない。思い出したい。
「ほら、これ。」
どうしたら、思い出せるのか。
「・・・これ、月野さんが事故のとき持っていたバックの中身。
ちょっと汚れちゃってるけれど、全部無事よ。
これを見て、少しずつで良いから、記憶を整理していきましょう?」
「・・・これ・・・私の、もの?」
「えぇ、そうよ。
お財布にお化粧ポーチ、定期入れにキャンディ。それに手帳。」
・・・これしかない。
私の記憶を、たぐり寄せてくれるもの。
私はおもむろに、広げられたものたちに飛びついた。
[つづく]
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