ロスト・バレンタイン vol.7

「いけねー遅れちまった。
お団子のやつ、もう寝ちまったかな・・・。」


星野はタクシーの支払いを済ませると、
３階西側の病室を見上げながら、受付へと急いだ。

地球に来て５日目。
調査という名目に飛びついて来てみたは良いが、
誰より会いたかった彼女との再会は、予想にもしていない形だった。


到着するや否や、耳に入ったのは彼女の交通事故の知らせ。
脇目もふらず駆けつけた先には、いろんな管が巻き付けられた彼女の姿。

それでも、その姿は相変わらず輝いていて、引力ごと惹きつけるような魅力があった。


傍に目をやると、神に祈るように情けなく座り込む男の姿。
この様子を見ると、上手くやっているようじゃないかなんて、
不謹慎なことを思ってしまう。

ふと頭をよぎる、彼女と彼が笑い合うイメージ。
宣告のように頭に響く、報われない恋の行方。


それでも、鉛のような時間のあと、彼女の無事が伝えられたとき、
星野は、「生きていてくれればそれでいい」と、
心の底から思ったのであった。



「はぁ・・・ったく、どこまでも試練の多い恋だぜ。」

自嘲するようにそう独りごちると、
星野は病室のドアを叩いた。


コンコン・・

「お団子、入るぞ？」

ふんわりと漂う花の香り。
目の端に映る赤い落陽。

そして、振り向きざまに流れる長い髪。
愛しい瞳と、目が合った。


「お団子、具合・・・どうだ？」

彼女は答えない。
ぼんやりと星野を見つめたあと、手元の手帳に目を落とす。


「遅れてごめんな。ちょっと、仕事長引いて。」

室内には、加湿器の音だけが小さく響く。
他には、誰も来ていない。


「でもほら、プリン買ってきた。
確かお前、好きだったよな。こだわり半熟プリンだぜ？」

そう言って、枕元のいすへ腰を下ろす。
彼女の記憶は、まだ戻っていないのだろうか。

以前なら、ここで子供みたいな笑みを浮かべて、
“気が利くじゃない”なんて言って、手を伸ばしていただろうに。


「・・・お団子？」

「・・イヤ・・・？」

「・・・え、何？」

「・・・は、私の・・・人？」

「え？」


そして、まるで何かの、映画のワンシーンのように、
その言葉は発せられた。


「セイヤは・・・。セイヤは私の、恋人なのね？」

【つづく】




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