ほめちぎり映画館

"ほめたい映画"限定! シナリオ練習生の勝手気ままに見たまま、感じたままの映画評。

東南角部屋二階の女

2008-11-29 15:43:04 | 映画(DVD)

僕のうしろに道はできる。

大好きな西島秀俊主演、加瀬亮共演ってことで、ストーリーも確認せずに観に行った映画。これがなかなかの佳作でございました。

父親が莫大な借金を残して亡くなり、負債を背負い込んだ野上。実家も差し押さえられ、祖父の家の敷地に建つ年代物のアパートで暮らし始める。アパートは、祖父とは古くからのなじみで、近所で小料理屋を営む藤子の持ち物だが、野上が借金を返済するには、このアパートを取り壊して祖父の土地を売るしかない。野上は売却を見込んで会社を辞め、祖父を説得するが、祖父は首を縦にふらない。そんな状況の中、自分の仕事に責任もやりがいも見出せず、勢いで会社を辞めてしまった野上の後輩・三崎、フリーのフードコーディネーターをしているが一向にうだつが上がらず、結婚に逃げ道を求めて野上とお見合いした涼子が、アパートに引っ越してくる。

野上、三崎、涼子の3人は、次元の違うところでそれぞれに追い詰められていて、答えを見つけられないまま、決断を先延ばしにして生きている。3人が暮らす、昭和臭漂う木造二階建てのアパートは、言ってみればモラトリアムな時間を過ごすシェルターのようなもの。

そのアパートの二階の東南角部屋は、鍵が見つからないまま“開かずの間”になっていて、ここにひとつドラマが隠されている。

クライマックスで明かされるエピソードに関してはちょっと甘いかな、と感じたのですが、若者たちの“始まらない時間”と、「東南角部屋二階の女」の“鍵をかけた時間”が“開かずの間”でつながり、それぞれの時計が動き出すという組み立ては鮮やかでした。

若者? 3人の設定も、身近じゃないようで身近だったりして。観る人それぞれ自分を重ねてしまうかも。

野上のように突然債務者にならないにしても、いきなりリストラされる時代だし。自分のせいでもないのになんで俺が下請けに頭下げなきゃいけないんだ、なんて三崎みたいな青年はいっぱいいるだろうし。私なんかは、同じフリーランスとして涼子の状況が身につまされたもん。

3人の姿は、それぞれ、現代を生きる私たちの姿を映し出す鏡のようでもある。

で、彼らが出した答えに、先の見えないこんな時代にあっても、自分にとっていちばん大切なものが決まれば、人生の選択ってそんなに難しくないんだということに改めて気づかされるわけです。

まぁ、このファースト・プライオリティを見つけるというか、決めるのが一番大変なんですが。

監督の池田千尋さんはこの作品が商業映画デビュー作。はっきりしない若者たちの心情を映すかのような褪せた感じの色調や、3人の距離感が伝わる、一方通行の“続かないバドミントン”など、冴えた映像表現が随所に。

シェルターを出、それぞれの足で歩き始めた3人の距離は、むしろひとつ屋根の下にいた頃より近くなっているように感じるのですが、この辺りも、日常の一コマを切り取った映像だけでさりげなく描かれていて、芯はしっかり、口当たりさっぱりな映画に仕上がっていました。

大きな感動はなかったけれど、見終わって、ちょっと顔を上げたくなりました。


ディナー・ウィズ・フレンズ

2008-11-16 16:05:29 | 映画(DVD)

ともに白髪の生えるまで。

見事な会話劇。

2001年アメリカ制作の日本未公開作品で、DVD化されたのも最近という、これまた掘り出し物。

ゲイブとカレンは、ペアで取材・執筆を行う料理評論家夫妻。ニューヨーク郊外の一戸建てに住み、子供は2人。結婚生活は12年になるが円満だ。ゲイブの親友トムとカレンの親友ベスは、ゲイブ夫妻が結婚してすぐに二人によって引き合わされ、結婚。以来、夫婦同士で交流を続けてきた。ある日、恒例のゲイブ夫妻主催のディナーにベスが子供を連れてやってくる。トムはいない。そして食事のあと、ゲイブとカレンは、ベスから、トムの浮気が原因で二人が離婚の危機にあることを告げられる。

主な登場人物は2組の夫婦。舞台設定は、1)ゲイブとカレンの家、2)トムとベスの家、3)ゲイブとカレンの別荘、4)カレンとベスがランチするレストラン、5)ゲイブとトムがお茶するカフェ、のおおまか5つ。それぞれのシーンで、2人もしくは3人がひたすら話し合うシチュエーションドラマです。

大きな動きはないのでセリフが命。かといって、面白いセリフを、とヘタにこねくり回すこともなく、倦怠期の夫婦にありがちなリアルなセリフのキャッチボールが続き、これが普通に面白い。苦笑するコトバあり、身につまされるコトバあり、がははははっ!と声を上げて笑うコトバあり。

会話だけで、苛立ち、嫉妬、孤独、焦り、不安、喪失感など、さまざまな心情が表現され、ぐっと引き込まれるドラマに仕上がっています。

その中のひとつ、冒頭、ベスがゲイブ夫妻にトムの浮気を打ち明けるセリフ。
「彼女は120%だって言うのよ。私は75%しかないって」(うろ覚え)は印象的。
この数字が、恋愛や友情と、結婚やら家族はちょっと違うことを示唆している気がします。

トムとベスは、つねに100%自分を満たしてくれる相手を求めるタイプ。ゆえに二人は別れ、新しいパートナーと歩み始めます。お互いから、さらにはゲイブとカレンの呪縛からも解き放たれたかのように、きらきら輝くトムとベス。そんな二人に、ゲイブとカレンは失望ととまどいを隠せない。

同時に、トムとベスの離婚騒動はゲイブとカレンの中にある老いへの恐れや不安、ときめきが失われていくことへの寂寥感をあぶり出し、完璧に見えた二人の関係もまた、もはや100%ではなくなっている事実を浮き彫りにします。
それでも、欠けてしまった25%を別の形で埋めながら、生涯のパートナーとして、あるいは家族として生きていこうとするゲイブとカレン。

2組のカップルはリベラルVS保守のような対比を成していて、それぞれの生き方を対立軸に、男と女とは、夫婦とは、家族とは、友だちとは何かを問いかけてくる。なかなかに奥の深い話なのだ。
こんな話を、上質の会話劇でサラリと描いてみせる。誰だ? 監督・・・・・・と思ったら、名作『月の輝く夜に』のノーマン・ジュイソンでした。

物語を彩るデイヴ・グルーシンのジャズも、映画のテイストにドンピシャ。ラストシーン、ちょっとジーンときてやさしい気持ちになったのですが、ここからエンドロールにかけて流れる曲が、“ささやかだけど最高の幸せ”的気分を盛り上げてくれます。

まー、仮に二人の関係が0%になる日がくるとして。0%は考えようによっちゃ100%なのかも。これぞ一心同体。ここに夫婦の醍醐味がありそうだわ、と、独り者は密かに憧れを覚えるのであった。


エターナル・サンシャイン

2008-11-10 10:47:45 | 映画(DVD)

愛は、消せない。

映画館で観た映画が不発。半額クーポンを握りしめてツタヤへ行くも、ひと月ほど前にどひゃーと入荷した新作(クーポン対象外)がまだ準新作になっていない。こんな日は、仕方なく足を運んだ旧作の棚で掘り出し物に出合うわけです。

2004年のアメリカ映画。『マルコヴィッチの穴』『アダプテーション』の人気脚本家チャーリー・カウフマンが脚本(監督含む3人の共作)に参加し、その年のアカデミー脚本賞を受賞した話題の作品らしい。監督は『ヒューマン・ネイチャー』でもカウフマンと組んだミシェル・ゴンドリー。

ニューヨーク、ロングアイランド島にある、何の特徴もない街に住むジョエル・パリッシュは、これまで話のネタになりそうな出来事もないまま生きてきた、これまた平凡な男。冬のある日、突発的に仕事をずる休みしてでかけたモントーク(ロングアイランド島の果てにある避暑地)の浜辺で、髪を真っ青に染め、鮮やかなタンジェリン(オレンジ)色のパーカーを着た、彼とは全く別人種の女性、クレメンタインと出会う。二人は恋に落ち、愛し合い、一緒に住み始め、そのうち倦怠期がやってきて・・・・・・と、ここまではよくあるお話なのですが、そこはカウフマン。規格サイズに収まることは、もちろんなく。

なんと、彼に苛立ちを感じ始めたクレメンタインが、記憶を消すサービスを行うヘンテコな病院? でジョエルに関する記憶を一切消してしまうという! それを知ったジョエルもまた、クレメンタインの記憶を消す施術を受けるという!!
施術(つってもヘンテコな機器を被ってベッドに寝てるだけで、脳に蓄積された記憶をコンピュータで消していくという方法)中にジョエルの記憶を遡る形で二人の過ごした日々が描かれ、物語が骨格を持っていく構成。

さらーに。覚悟を決めて施術に臨んだジョエルですが、すぐに後悔し、抵抗し出したりするもんだから、現在やら過去やら未来やら、現実やら幻想やらがごっちゃ混ぜになって、時間を戻りながら実は前に進んでいたり、こちらの脳までいじられてるような、気持ち悪いような、気持ちいいような^_^;

脳を操作されている状態であるにも関わらず、必死に記憶を守ろうとするジョエル。消してしまいたい過去のはずなのに消さないように動くって、ある意味、人間の無意識の防衛本能なんじゃなかろうか?  目まぐるしい時間軸の交差に目眩を覚えながら、人間心理の深層へと引きずり込まれていく。深いよ~。

さぁ、ジョエルは記憶を守れるのか? 二人はどうなるのか? 

クライマックスを迎える頃、冒頭の出会いのシーンにも訳があることが明らかになります。これはかなりロマンチックな展開。
で、ここで終われば絵に描いたハッピーエンドなのですが、もちろん終わるわけはなく。最後に現実の辛~いスパイスを利かせてはります。

これがあるからおいしくなるんだな、人生は。

愛する人と一緒にいても100%いいことばかりじゃない。側にいればいるほど、嫌な部分、合わない部分も見えてくる。全てを忘れて出会い直したところでそれは変わらない。じゃあ、別れるの? 男と女って、人と人って、そーじゃないよね? って話で。愛ってやつは、理屈や損得じゃ測れない。だから厄介だし、だからこそ求めずにはいられない。
観終わった後、傷つこうがイライラしようが、人生を共にする誰かが欲しくなる映画です。

ジム・キャリーが冗談も言えない冴えない男・ジョエルを、ケイト・ウィンスレットがはっちゃけたおねーちゃん・クレメンタインを演じているのもミソでやんす。

エンドロールで流れるテーマソングもしみた。。。。。