大切なものは、いつだってすぐそばに。
なんなんだ? 16歳の高校生が妊娠・出産するというスキャンダラスな話なのに、終始湧き上がるこの幸福感は!
主人公のジュノは、70年代のパンクロックをこよなく愛する、ちょっとシニカルで大人びた女の子。バンド仲間の(さっぱり冴えない)モーリーと退屈しのぎにHをしてみるが、なんとあっさり妊娠! 一旦は中絶を考えるものの産んで里子に出す道を選び、両親や親友に支えられながら出産に臨む。
よくある展開だと、まず親との葛藤、次に学校、社会というように、次々と現実の厳しさに直面していくのでしょうが、ジュノの両親は、最初は面食らうもののすぐに娘の決断を受け入れ、協力を示します。これが全く違和感がなく、逆にこの家族の距離感が見えるんですよね。
母親は父親の再婚相手。つまり継母。血がつながっていないからこそ冷静に受け止められる部分もあり、母親として役に立てるチャンスでもあり、この設定も利いています。
先生や生徒たちの好奇の目は避けられないけど学校にも普通に通えるし、親友のリアとの関係は何も変わらない。
両親とリアは、何があってもゆるがないもの。これに対して、里親夫婦の関係はとても不安定で不確か。ジュノに宿った命は、ジュノと家族との距離を縮めながら、里ママと里パパの間にある距離を浮き彫りにしていきます。
あからさまな対立関係を軸にするのではなく、家族にがっちり支えられながら、里親夫婦と深く関わっていく中で、悪態をつこうがお腹がでっぱろうが、ありのままの自分を愛してくれる人がいる幸せに気づいていく。妊娠・出産はいわば、『スタンド・バイ・ミー』で少年達が旅に出たようなもの。少女から大人への通過儀礼として描かれているところが新鮮です。
脚本家のディアブロ・コディは、本作でアカデミー賞・最優秀脚本賞を受賞。なんとこれが処女脚本らしい。もうね、この本が産み落とされた時点で、この映画は愛される運命にあったと思うわ。
とにかくどのキャラクターも魅力的で、そのセリフは鋭くて可笑しく、温かい。ジュノの絶対的な味方である父と、娘に無関心な実母。血の絆と血に頼らない絆。ブルーカラーとホワイトカラー。さまざまな対比で「大切なもの」を描き出す構成力も確か。
そして何より、一人ひとり、一つひとつの心の動きを丁寧に見つめ、きちんと拾い上げる誠実さのようなものがあり、シンプルな話なのに濃くて深くて、作り手の人間性の豊かさが伝わってくる。
ああ、だからこんなにハッピーになれるのか!
継母、ジュノ、里ママ。血のつながらない女達の”母のリレー”は、この映画のもうひとつの見所。親子といえども人と人。絆を築いていくのは決して血のつながりではないという強いメッセージを感じます。
ジュノを演じるのは、本作でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたエレン・ペイジ。『ハード・キャンディ』という、少女が大人を監禁していたぶる幼児虐待へのアンチテーゼみたいな映画で名優を食っちゃったと評判の女優さん。
(観てないので詳しくは知らない)
歯に衣は着せないし、行動力も人一倍。でも肝心なことはなかなか言えない。本当は不安だし、モーリーにだってやさしく支えて欲しいわけでして。
言葉や態度の奥にある、そんな繊細な心の揺れまで、表情ひとつで表現されておりました。小柄だけど、大物です。
しかし、里パパったら……(苦笑)。この里パパに感情移入する男性は多そうよ。青春まっさかりの少年少女、大人になりきれない大人たち、守りたい子を持つ親御さんたち。あらゆる世代に訴えかけるものがあるので、ご家族でご覧になるのもよいかと。
登場人物のキャラや心情変化を映し出すかのような美術、衣裳、音楽も☆☆☆
で、この腹に入っているのは……
脂肪です。
(今はも少しやせてます)