MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯674 パンデミックへの備え

2016年12月08日 | 社会・経済


 国立感染症研究所が発表した、11月21日~11月27日の期間中の感染症発生動向調査の結果を見ると、インフルエンザと(ノロウィルスのような)感染性胃腸炎の患者が前週よりもさらに高水準で推移していることが判ります。

 日本では例年、12月から3月にかけてインフルエンザウイルスが蔓延し、患者が増える傾向にありますが、今年は流行が早まっており、11月27日時点での医療機関あたりの患者数(1.79人)は過去5年間で最も多く、2015年(0.19人)の9倍以上となっているということです。

 一方、新潟県関川村や青森市で確認された高病原性鳥インフルエンザについて、農林水産省は12月1日、「H5N6亜型」のウイルスだったと発表しています。これは、韓国をはじめ各地の野鳥の死骸などから見つかったウイルスと同じ型とされており、カモやハクチョウなどの渡り鳥がウイルスを持ち込み、野鳥を介して感染が広がっている可能性が高いと考えられているようです。

 WHO(世界保健機関)に報告されたヒトへの鳥インフルエンザ感染症例は(現在確認されている範囲では)鳥インフルエンザによって死んだ鳥や病鳥と濃厚接触をするといったケースに限られており、人から人への感染が確認されたケースは決して多くはありません。しかし、ウイルスが感染を繰り返すうちに変異し、鳥に感染するタイプのものが他の動物にも感染するようになる可能性があることは、科学的にも明確に裏づけられているところです。

 これまで人が(あまり)感染したことのないこうした新しいタイプのインフルエンザ(ウィルス)が流行すると、免疫がないだけに感染者が爆発的に増加し、また個別の症状も重症化しやすい(いわゆる)パンデミックの状態に陥る可能性も高くなると考えられます。

 実際、1918年から19年にかけ全世界的に流行したスペイン風邪では、感染者は約5億人以上、死者は5000万人から1億人に及んだとされています。当時の世界の人口が約18億人~20億人であったことを考えれば、全人類の約3割近くがスペインかぜに感染したことになる計算です。

 日本では、当時の人口5500万人のうち約39万人~48万人が感染により死亡、米国でも50万人が死亡したとされています。これらの数値は感染症のみならず戦争や災害などすべてのヒトの死因の中でも、もっとも多くのヒトを短期間で死に至らしめた記録的なものだとWikipediaは説明しています。

 さて、国の想定では、今後、新型インフルエンザが大流行し全人口の25%が新型インフルエンザに罹患した場合、医療機関を受診する患者数は最大で約2500万人になると推計されています。病原性が重度の場合、そのうち入院の必要がある患者は概ね200万人、死亡者は最大で65万人に達する可能性があるということです。

 日本のインフルエンザ・パンデミック対策はどうなっているのか。

 日本が島国であるという特性から、一般的に、新型インフルエンザが流行するとすれば、ウイルスは保健・衛生環境などが貧弱な海外から渡航者などを通じて国内に侵入する可能性が高いと考えられています。

 新型インフルエンが国内で出現してしまった場合には、(前回の新型インフルエンザ騒動の混乱の経験からも分かるように)パンデミックを食い止めることは非常に難しくなります。従って、可能な限り早期にパンデミックの予兆を検知してワクチンの開発に着手し、あらゆる手段を講じつつワクチンが使用できる様になるまでの間感染拡大を最小限にとどめる必要があるでしょう。

 このような基本戦略のもと、政府の行動計画では(大きく分けると)
(1) 国境における対策により国内への侵入を遅らせる
(2) 侵入した場合には早期に封じ込めを図る
(3) 地域の段階で流行を遅らせ流行のピークを小さくする
(4) ワクチンの完成・流通により国民を守る
といったプロセスごとに、抗ウイルス薬やワクチンの活用などの医学的介入や社会距離対策、社会機能の維持、情報共有体制の整備などの非医学的介入について(関係セクター)に具体的な準備を求めています。

 こうした行動計画が現実のパンデミックに際して効果を上げるためには、連携の在り方について関係者で十分議論し、国民のコンセンサスを得て、演習を行い、実効性を確認しておく必要があるのは言うまでもありません。また、国際的に連携・協力していくためのネットワークを構築したり、最新の医学的な知見を整理しておくことも重要になると考えられます。

 今回は、医療の面から追ってみましたが、パンデミック対策を考える際には、大量の感染者の発生を国民の「健康」の問題としてばかりでなく、国民生活全般に大きな混乱をもたらす大きな危機(クライシス)として捉え、様々な角度から想像力を駆使して対応を想定しておかなくてはなりません。
 
 インフルエンザの流行を終息に向かわせるための医療体制の確保のみならず、社会や経済の混乱に柔軟に対応できる政治や行政の意思決定の在り方、金融、流通、労働などの各分野の対応などについて国全体としての方針を明確にしておくことが求められていることも、(当然ですが)忘れるわけにはいかないということです。