みのる日記

サッカー観戦記のブログです。国内外で注目となる試合を主に取り扱い、勉強とその記録も兼ねて、試合内容をレポートしています。

女子日本 × 女子北朝鮮 #4

2006年12月27日 | サッカー: 日本代表
※この記事は「女子日本 × 女子北朝鮮 #3」からの続きです。


■ ワールドカップ出場に向けた「なでしこジャパン」の再始動
失意のアジアカップをいつまでも引きずるわけにはいかない彼女たちは、国内リーグの全日程を終了させて11月中旬に集結し、また新たな前進を始めました。
年度末にはアジア大会が開催されますが、今の女子日本代表にとっては、その後に控えているワールドカップ出場へのラストチャンスとなるプレーオフの2試合(ホームアンドアウェー)、これが最大の焦点です。
今年度の始めから変わることなく、来年のワールドカップ本戦を見据えるどころか、引き続きそのワールドカップの出場権利を得ることに照準を合わせることになったのです。
日本の、プレーオフに向けた今年最後の強化が幕を開けました。

今回の強化合宿は、アジア大会への準備という意味合いが大部分に含まれてはいましたが、何よりも結果的に「失敗」となってしまったアジアカップの反省点を確認する場でありました。
今までの日本は戦術面での修正に力を注いできましたが、アジアカップではまた新たな大きい課題が浮き彫りとなって露呈してきたのです。
それは、精神面での脆さでした。
これまで述べてきた通り、若手を中心として新戦力が相次いで成長してくるという喜ばしい収穫が続いたのですが、彼女たちにはまだ、世界を舞台に戦ってきたレギュラーの代表選手たちと比べて欠けている部分がありました。
一例を挙げると、新生エースとして先発を任され続けたFW永里です。彼女は10代という年齢ながら、実力的には申し分ないものを持っています。しかしながら準決勝のオーストラリア戦では、勝てば出場権獲得という重圧に呑まれたか、これまで出来ていた動きが嘘のように消え去ってしまっていたのです。いつもの積極性がなく、次第に中盤にも下がってくるようになり、半ば錯乱状態のままついには足を止めてしまいました。これを立て直すために、試合中に澤は何度も彼女へ懸命に叱咤していたのだそうです。
これは永里だけに限ったことではありません。重要な大一番、先制される試合展開。日本はこのような局面下に置かれると、途端に選手たちの戦闘意識にはズレが生じ、チーム全体がギクシャクしてしまうのです。自分たちの持つ良さを、自ら潰してしまう恰好となっていたのです。
物理的なプレッシャーだけでなく、精神的なプレッシャーへの対策も重要視されることになりました。

合宿の締めには、アジア大会の壮行試合としてオーストラリアとの親善試合が組まれました。
ここで日本は、本来のポゼッションサッカーを存分に発揮。次々につながる迅速なショートパスのオンパレードという、理想的な内容でした。
特筆すべきだったのが、MFの澤と宮本です。
澤はアジアに名が知れ渡る、言わずと知れた日本の司令塔なので、オーストラリアは彼女を徹底マークしてきたのです。しかし、澤は全くこのマーキングをものともしないプレーの連続で、オーストラリアの目論見を大外しにさせる活躍を見せました。これにより、かえって日本の中盤が数的優位となって活性化されていく事態となったのです。
アテネ五輪の支柱であった宮本の実力は期待通りのものでした。ただ驚くべきことなのは、よくぞそのパフォーマンスを維持し続けていたということなのです。宮本は五輪後に、出産と育児のために長期戦列を離れ、今年にようやく活動を再開させました。この日は、日本代表としては2年以上ものブランクの末の復帰戦でしたが、連係にも問題はなさそうで、主力として遜色のない輝きを保っていたのです。残念ながら宮本は、この後のアジア大会には子供の帯同が困難であるとして不参加となりましたが、日本にとっては頼もしい戦力がまた加わったことを証明させた試合でもありました。
オーストラリアはすでにワールドカップ出場を決めていて、確かにこの一戦へのモチベーションは低そうであった感は否めません。それでも上出来な内容でもってアジアカップでの雪辱を果たせたのは、沈んでいた日本のムードを大いに浮上させるものでした。

アジア大会直前にはドイツへと遠征しました。FIFAランキングで堂々の1位である、そのドイツとも試合を行っています。
さすがにドイツは強く、日本は6失点もしましたが、逆に3得点も挙げたのです。これは純粋にこれまでの成長として評価されるべきものでした。
そして事の他この遠征で大きかったのが、若手を含めた全選手が改めて世界との差を実際に確認し、共通した認識を持つようになったことです。この意識面でのつながりが、後に日本にとってかけがえのないものとなっていきます。
日本代表はドイツでの合宿を終了させ、ここから直接ドーハへと赴いてアジア大会に臨みました。

■ 結果と育成が求められる2006アジア競技大会
「とにかく今大会は、戦い方をどう定めていくべきかに相当悩んだ」と、幾度も漏らしていた大橋監督。この2006ドーハ・アジア競技大会では、もちろん日本にとっては初となるアジア制覇が目標となります。ただ、さらに優先されるべきなのは、来年のプレーオフや五輪予選といった、より重要な戦いのためのチームの育成をこの場で図るということです。成績はもとより、ここでチーム力の向上を絶対に達成させなければなりません。なぜならばこの大会は、これまでの短い間隔での練習期間と異なり、大会前の合宿を含めて約1ヶ月もの長期間という、またとないレベルアップの絶好の機会であるからです。ただし当然のこと、それを追い詰めるあまりに散々な結末で大会を終えてしまっては、取り戻しかけていた自信がまた大きく揺らいでしまう事態にもなりかねません。非常に進め方が難しい舞台ではありました。
確かに、唯一ワールドカップの出場が未確定のままである日本が、その調整のために一番戦闘意欲が高い参加国であったかも知れません。それでもなお北朝鮮、中国、韓国といった存在はやはり強敵です。こういった面々を相手に、自らのテーマを課しながら勝利を目指すということになるのです。結果と熟成の両面が日本に求められていました。

組織的な働きを伴うパスワークを主体としたサッカーの完成。アジアカップで崩れてしまったメンタルの不安定さの克服。今年に表れた課題の全てを抱えて、「なでしこジャパン」の今年最後の戦いが始まりました。

グループリーグの初戦は対ヨルダンです。実力差があり過ぎたことも事実ですが、日本は効率的に攻めて圧勝しました。FW大野と荒川が自在に動き、攻撃的MF澤と柳田も軽やかです。そこに他の選手も続々と波状的に攻撃参加をしたために、ヨルダンはパニックに陥り、シュート数は38対0、スコアは13-0という一方的な結果となりました。
続くタイ戦では、相手が予想以上に粘ったこともありましたが、日本は前半戦が大ブレーキとなってしまいました。攻めまくりましたが、とにかくラストプレーが成功しません。ようやく前半終了間際に阪口が先制し、後半に荒川が登場して前線の突破口となると、段々と日本の本来のリズムとなってきます。結局後半には3点を追加することができ、4-0と勝利しました。

2試合とも順当に大差で勝ちましたが、アジアカップ同様、選手たちの動き自体はどこか切れ味に欠けるような感じではありました。しかし今回のこの現象は、日本があえて意図的にもたらしたものです。アジアカップでは初戦から全力の意気込みで入りました。それが結果として、肝心の準決勝以降において精神的に息切れをさせた要因とも捉えることができたのです。この教訓を活かし、日本はこの先の強豪国との対戦にメンタル面でのピークを持っていく調整を行っていたのです。
また日本は今大会、試合ごとに何かしらのテーマを掲げて、それを実践させながらポイントごとの強化を図りました。例えばヨルダン戦では「サイドアタック」、タイ戦では「復帰選手を含めた着実な連係」といった具合です。容易ではない日本の完成形へ漠然と進んでいくのではなく、要所で武器となる部分を明確化して認識させながら、向上心だけは絶やさぬようにしていくためです。
さらにこの個別のテーマに加えてもう一つ、全ての試合に共通してあるテーマを与えました。それは、「どんなに点を取っても取られても、90分間走りぬく」ということです。前述した通り、日本の目指すサッカーには止まることのない運動量が必須となるからです。また、これまで物足りなかった心理面に着眼して、油断を生じさせぬように、逆境における不屈の闘志を育むように、気を緩めることを防止させる目的でもあります。
こうした日本の綿密な計画は、着々と成果を挙げていったのです。

さあ、グループリーグ最後の相手はまたも中国です。アジアカップでは日本が完璧な内容でもって完勝しましたが、やはり中国は北朝鮮に続く優勝候補ということが事実なのです。そのアジアカップで通算8度目ともなる優勝という実績、アジア屈指の体格と決定力を誇る強靭さ。依然として日本はやや格下の立場であると見られています。
一瞬の隙も命取りになるこの中国戦。この試合のテーマは「積極性。守備ラインも高く保ち、相手の良さを消すこと」でした。これを選手たちは、ものの見事にやってのけたのです。
前半は中国のパワープレーに日本は圧倒され続けました。しかしここを耐え凌ぎ、宮間や安藤の右サイド攻撃を皮切りにして、日本は少しずつ盛り返していきます。そして前半27分の日本のセットプレーです。宮間のフリーキックが、起用に応えたDF岩清水にピタリと合わさりました。日本が先制したのです。
反撃へ前がかりとなる中国相手に、日本は全くひるみませんでした。守りに入るどころか追加点を狙いに行き、殴り合いの展開とさせます。そんな中でも連係的な守備は冷静にこなし続け、着実にボールもつないでいきます。さらに、なおも全体的に高く押し上げられている日本の守備体制。これらを前にして中国は単発攻撃しかできず、とうとう1-0と完封負けを喫したのです。自分たちの持ち味を攻守で発揮し、「積極的な守備」で狙い通りに相手を封殺できた、日本の快勝でした。
この中国に再び勝利できたというのは、この大会における日本の最大級の出来事の一つで、彼女たちは相当の自信と手ごたえをここでつかんだのです。
「優勝」という二文字が、グループ1位通過を決めたこの日、初めて現実味を帯びてきました。

とは言え、同じような状況下でその後に大失速してしまったアジアカップを忘れてはなりません。あの過ちを二度と繰り返したくない日本の準決勝の対戦国は、韓国となりました。
韓国はアジア4強の中では、最も実力が劣るとされてはいます。ただし、その猛進する勢いで強引に支配率を奪ってくる彼女たちは、決してくみし易い相手とは言い切れません。また、敵は自分たちの内にもあるのです。一発勝負というステージに移ったため、これまでの日本ならば、その重圧に負けて自滅してしまう可能性も考えうるのです。テーマはもちろん「気持ちで負けない」。どうか精神的な逞しさを見せ、日本のサッカーを普段通りに行い、無難に勝ってほしいところです。
ですが前半戦は、その嫌な方の予感が的中してしまいました。予想外にも引き気味の韓国に対して戸惑ったか、日本はなかなか攻め立てられません。戦術の相性がどうとかいう問題の前に、根本的に個々の選手たちの精彩が欠けていただけでした。
この嫌なムードを一変に振り払ったのが、またも先制点を挙げたDF岩清水でした。後半早々のコーナーキックから、最後に詰めて自身の2試合連続のゴールとしたのです。これで目が覚めたかのように、いつもの日本が戻ってきました。時間を追うごとに完全に日本のペースとなっていき、最後には引き下がる韓国の守備を崩壊させて駄目押しとなる3点目。前半こそは「またか」と思わされましたが、見事に立ち直り、この精神面での関門と言える準決勝を突破したのでした。

これで5大会連続でのメダルを確定させた女子日本代表。後はその色が金か銀かだけです。中国、韓国と破ってきた日本に立ちはだかる最後の壁はやはり、アジア最強の女王である北朝鮮でした。これをも破ってこそ、真のNo.1と言えるのです。念願のアジア初制覇のために、これまでの成長を確信させるために、選手たちは今大会の集大成ともいうべき団結力でもってこの決勝戦に挑んだのでした。
そしてその熾烈な争いの詳細は、「女子日本 × 女子北朝鮮 #1」より記載してきたとおりです。
大健闘の末の準優勝。日本は悔しくも立派な、堂々たる銀メダルを獲得してドーハを後にしたのです。

大会期間中に、プレーオフは3月にメキシコと対戦することが決定されました。全てはそのためだけに今年の後半を費やしたと言っても過言ではない「なでしこジャパン」は、充実した結果と成果を持ち帰って2006年度を締めくくったのでした。


「女子日本 × 女子北朝鮮 #5」に続きます。


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