ヴェルソワ便り

スイスはジュネーヴのはずれヴェルソワ発、みんみん一家のつづる手紙。

15年ぶりの訪問 Domaine Mugneret-Gibourg

2008-05-10 11:18:58 | ワイン(M氏より)
1993年にここを訪問して以来、実に15年の歳月が過ぎた。

最初に訪れたときは、88年に亡くなられたジョルジュ・ムニュレ氏の未亡人ジャクリーヌさんが娘2人と一緒に我々を迎えてくれた。マダムの静かで上品な歓迎ぶりは我々の胸を打った。そして、そのワインが畑ごとの特徴をとてもよく捉えていたことが印象的だった。

当時は、アメリカ人のワイン評論家ロバート・パーカーがボルドーに飽き足らずにブルゴーニュワイン等を含む他の地方の本格的な評価をしだしたところで、多くの造り手が彼の評価と嗜好に翻弄され、新樽の使用比率を高めて強くて濃いワインを志向していた時代である。また、ブルゴーニュの有名な造り手は畑の特徴よりも造り手の特徴が強くでているところが多く、畑の名前を言い当てるよりも造り手の名前を言い当てることの方が容易な場合が多い中で、この造り手のスタイルは私の目(鼻と舌?)に新鮮に映った。

こうした当時の印象は、時間とともに色褪せることなく、ワインを取り巻く環境の変化とともに、より一層価値的なスタイルとして自分の中での位置づけが大きくなっていった。

機会があれば是非もう一度訪問したい!そう念願していた造り手をついに再訪する時がきた。今回は、パリ在住の友人S氏一家と我が家との”二家族合同ブルゴーニュ旅行”と相成り、S氏の運転する車でパリからブルゴーニュを目指す。(旅の詳しい模様はS氏のブログで。)


あいにくの曇天だが、高速沿いにも広がる菜の花畑が美しい。

今回は、ジャクリーヌさんの長女マリ・クリスティーヌさんが迎えてくれた。

ボーヌ・ロマネ地区の地図を見ながら説明するマリ・クリスティーヌさん


彼女に主にワインの醸造に関する説明をしてもらいながら、試飲させていただいたのは次のワイン。

○Vosne-Romanée village 2006
 この作り手の家のすぐ東に隣接する畑を含む3箇所の畑の葡萄を混ぜたもの。透明感のある色。心地よい酸。乳酸発酵の特徴。全体として華やかな印象。今飲んでも美味しい。2006年は偉大な年ではないが、ブルゴーニュらしいワインができた年なのだそうだ。

隣接するVosne-Romanée village の畑

○Nuits-Saint-Georges 1er cru Les Chaignots 2006
 色が濃いが透明感あり。スパイシーでタンニンが感じられる。しかしこのタンニンがやわらかい。

○Chambolle-Musigny 1er cru Les Feusselottes 2006 
 抜栓直後は香りが控えめ。しかし、時間とともにぐんぐん香りが開いてくる。口の中でとろけるようなタンニン。フィネスを感じるワイン。

○Echézeaux 2006
 果実味溢れる口当たり。エレガント。マリ・クリスティーヌさんからは5-10年後に飲むべきワインとのコメントあり。

○Ruchotte-Chambertin 2005 
 2005年は非常に良い年でその特徴を掴んでもらいたいといいながら開けてくれたのがこれ。濃くてとろけるようなタンニン。スパイシーだがエレガント。15年前もこのワインが最も美味しいと感じた記憶があるが、その期待どおりの素晴らしいワイン。葡萄の木がウィルスにやられて3分の1しか収穫できず、4-5樽分しかないとのこと。

 最後に、乳酸発酵が終わっていない2007年のNuits-Saint-Georges 1er cru Les Chaignotsを樽からテースティングさせてくれる。通常、乳酸発酵を終えた後でないとワインの味が安定しないため、試飲させることを躊躇するものだが、NSGはタンニンが強く特徴がでているし、いい経験だから、といって飲ませてくれた。




今回の訪問で15年前の感動を追体験させてもらうことができた。
彼女の醸造の話を聞いていて、ここのスタイルである畑ごとの特徴を活かすためのポイントは、(1)発酵の時の温度を人為的に操作しない、(2)他方で土着の酵母が死滅してしまう36度に温度が上昇しないように用心する、(3)ワインにフィルター等をかけない、(4)新樽の比率をワインの格ごとに若干低めに設定する、という点ではないかと感じた。

自分の敬愛するワインの造り手の蔵で、造り手の説明を聞きながら、その造り手の醸したワインを飲む―。
ワインを愛する者にとって、これほど幸せな瞬間はないと思う。(M)

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