時事解説「ディストピア」

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フランス・テロ事件の背景(マスコミが伝えないヨーロッパのムスリム差別について)

2015-01-10 00:13:46 | リビア・ウクライナ・南米・中東
読者諸氏は「イスラモフォビア」という言葉をご存じだろうか?

近年、在日コリアンに対する常軌を逸した差別行為が問題視されているが、
実を言うと、同様の問題はヨーロッパでもあり、特にフランスとドイツにおける
ムスリム(イスラム教徒)に対する社会的な差別は以前から問題にされていたのである。


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代償を払わされるフランス


日水曜、3人の武装した男がフランス・パリの新聞社
「シャルリエブド」の事務所に押し入り、銃を乱射した後、車で逃走しました。

このテロ攻撃で12名が死亡、10名が負傷しました。
フランス警察はこの事件から8時間後、この犯行に関わった3人を特定したと伝えました。

このうちの一人は警察に自首しました。
フランス警察はこの人物は18歳のハミド・ムラドだと発表しています。
ムラド容疑者は武装した男たちの運転手をしていた住所不定の人物で、
昨年フランス北部のランスの高校に在籍していました。



そのほかの2人の容疑者は、34歳のサイド・クアシ容疑者と
32歳のシェリフ・クアシ容疑者の兄弟で、彼らはパリ生まれのアルジェリア系フランス人です。



シェリフ・クアシ容疑者はテロと戦う機関では有名人であり、2008年テロ行為と
イラクへのテロリスト派遣にかかわったことで、3年の懲役刑を受けました。

この2人の兄弟は昨年夏、シリアからフランスに帰国していました。警察関係者によりますと、
この3名はイエメンのテロリストネットワークとつながりがあったということです。


このテロ事件は、フランスと西側諸国を震撼させました。

一方、明らかにこのような事件は原因なしに発生することはなく、
事件が発生した原因に目を向ける必要があります。




実際、フランスはシリアでテロ組織の重要な支援国として、
現在、イスラム排斥行為と、シリアでのテロ支援のつけを払わされています。


シャルリエブドは繰り返し、
預言者ムハンマドを扱った反イスラム的な風刺画を掲載しており

フランスや世界各国のイスラム教徒による大規模な抗議にも関わらず、

言論の自由を口実に、このような侮辱的な行為に及び、
また、フランスの政府関係者の支持も受けていました



実際、シャルリエブドの責任者は、
イスラムの神聖を無視し、イスラム教徒の感情を傷つけていることを省みずに、
反イスラム的な風刺画を掲載し続けていました。

彼らは宗教的な問題を無視し、それを重要ではないとして、
イスラム教に反対する極端なアプローチを取り続けていたのです。


このため、オランダなどの一部のヨーロッパ諸国では
イスラム教を侮辱する人物に対して暴力的な対応が取られ、
この新聞社が繰り返し脅迫を受けていた
ことを考慮すると、

シャルリエブドの極端なアプローチの継続が
暴力的な反応を引き起こすことは予測できた
ことでした。



一方、今回の事件は、シリアにおける西側の行動を反映したものだと見ることもできます。
いずれにせよ、テロ組織、とりわけタクフィール主義の
テロ組織のメンバーがシリアから帰国し、テロ行為に手を染めることは、
長年フランスやヨーロッパ諸国の一部の大きな懸念となっています。

現在、西側諸国がシリアでつけた火は、西側諸国にまで及んでいるのです。


複数の目撃証言によると、
数百人のヨーロッパ出身者が、
テロ組織のISISやヌスラ戦線に参加しており、
その多くはフランス人だということです。


これらの人々はシリアやイラクでイデオロギー教育や軍事教練を受け、
帰国した際、彼らは治安における大きな危機を生み出します。

この問題はヨーロッパ諸国の政府にとっての警鐘となり、
フランスもこの問題の対策として、反テロ法を採択しました。

しかし、この現象はフランス当局の想像の範囲をはるかに超えています。

パリのテロ事件は、こうした過激派が現在ヨーロッパの中心部に存在し、
実質的にテロ活動を始めていることを示しているのです。

http://japanese.irib.ir/news/commentaries/item/51144
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ここで臼杵陽氏のコメントを読んでみよう。



「しかし、ムスリムを十把一絡げにして敬虔なムスリムをも含めて
 まるごと挑発することが倫理的に許されていいのかという問題が
 依然として残っている。それは特定の政治目的を達するために
 悪意をもっていたとしか考えられないのである。

 また、ここにはそのような悪意をもった風刺画を
 言論・表現の自由などというもっともらしい理由をつけて
 自己正当化するような教鞭が許容されていいのか
という問題もある。


 言論・表現の自由の崇高な理念を振りかざすのであれば、
 なぜ預言者ムハンマドがその標的にならなければならないのか、
 あるいはなぜあえて預言者が選ばれたか
が、
 一般のムスリム大衆に対しても説得的に説明されなければならない」


「『言論・表現の自由』を守るなどという大上段に構えた高尚な議論の背後には
 一段劣った存在とみなしているムスリムへの侮蔑があり、
 19世紀的でキリスト教的な遺物である傲岸な『文明化の使命』観が見え隠れする」


実はこの文章、2006年に書かれたものである。
同様の事件は9年前にすでに起きていた。



ヨーロッパ全体において、ムスリムへ対する差別が存在するのである。
人はこれをイスラモフォビア(イスラム嫌悪症)と呼ぶ。



ヨーロッパのムスリムに対する根深い偏見は、在日コリアンのそれと全く同質のものであり、
彼らの5人のうち2人はヨーロッパ生まれであるにも関わらず、外国人として扱われる。


特にフランスとドイツはヨーロッパでも多くのムスリムが住んでいる地域であり、
前者は400万から500万、後者は330万のムスリムが生活を送っているのだが、
そこでは市民権法や雇用、政治的な差別が横行している。


たとえば、フランスのムスリムの失業率は、国の平均値の倍近く、
フランスの大卒ムスリムの失業率は、全国平均の5%であるのに対して27%だ。

また、フランスでは同国で生まれても18歳で文化的対応試験に合格しなければ
市民権が得られない。この試験はフランス語とフランス文化の知識を基本としたもので、
たとえば、定期的にアッラーに祈りを捧げると申告すると、ただちに、
「この人間はフランス的ではない」と判断され、不合格となる。

北アフリカ出身のムスリムやその子孫には、その宗教と民族のために
フランスで生まれてもフランス人として保護を受けることができない人間が多数いるのだ。


そして、フランスとドイツでは選挙人名簿に掲載されているムスリムの割合が
ヨーロッパでも最も少なく、選出されたムスリムの議員はもっと少ない。

市民権がなければ参政権もないからである。


ムスリムへの迫害は野党だけでなく与党も共有しており、
例えば、ドイツのメルケル首相は有名な反イスラム主義者だ

(彼女が単に原発に反対したぐらいで英雄視した日本の知識人って一体……)


このような政治家や知識人たちは、しばしばヨーロッパのムスリムは
外国から資金を得ていると非難する。しかし、実際にはヨーロッパの
ほとんどのモスク(イスラム教の寺院)は資金難であり、
また、地域住民からの反対を克服しなければならない。


ムスリムやイスラム教の尊厳を貶め、侮辱する風刺画を
「表現の自由」といって異様にかばいたてるフランスと、

他国の大統領が暗殺される差別観まるだしの映画を
「言論の自由」といって積極的に支持するアメリカ。


構図は一緒ではないか。




では、ここで我が国の首相のコメントを頂こう。


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安倍晋三首相は8日午前、
フランスの新聞社が襲撃され記者らが死亡した事件について、

「今回のテロは報道機関へのテロであり、
言論の自由、報道の自由に対するテロであり、断じて許すことはできない」と非難した。

首相官邸で記者団に答えた。

http://www.asahi.com/articles/ASH183CHFH18UTFK001.html

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ちなみに、安倍は以前、NHKの慰安婦を題材とした番組に介入し、
内容を改ざんさせたうえ、今春からの公民科の教科書から慰安婦の記述を
削除させたバリバリの言論テロリスト(※)だが、自覚はしていないらしい。


(※)テロリストという言葉は、もともと政府の恐怖政治を意味するものだった。
   いつしか政府を批判するための言葉が政府に反抗する者を
   批判するものの言葉へと変わっていったのである。



それにしても、この件でもっとも不可解なのは朝日や赤旗の報道姿勢だ。

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地元メディアによると、犯人グループは犯行時、
「神は偉大だ」「預言者の復讐だ」などと叫んでいたといいます。

シャルリー・エブド紙は最近、ツイッター上に
イスラム過激組織「イスラム国」の風刺画を掲載していたことから、
犯人は「イスラム国」を支持する過激派との見方が有力です。

また、同紙は毎週水曜日に編集会議を開いており、
犯行は同会議を狙ったものとみられます。


パリ中心部のレピュブリック広場では同日夜、
記者組合などが呼び掛けた事件への抗議集会が開かれ、約3万5000人が参加。
同広場を中心に、近隣の車道を埋め尽くしました。

参加者は、犠牲者を追悼するろうそくや抗議のプラカードを手に襲撃を非難。
「表現の自由(を守れ)」と唱和しました。


パリの大学でジャーナリズムを専攻するデルフィーヌ・ラオンデさん(23)は、
「報道の自由はフランスにとどまらず世界中で必要とされている。
この自由を守るため、メディアへの攻撃には決して屈してはいけない」と語りました。


南部マルセイユや北西部レンヌなど、仏全土の複数の都市でも
数千~1万人規模の抗議行動が行われました。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2015-01-09/2015010901_02_1.html
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「過激にして愛嬌(あいきょう)あり」を編集方針に、
「滑稽(こっけい)新聞」は明治の昔に大阪で創刊された。

「威(い)武(ぶ)に屈せず富貴に淫(いん)せず」ともうたい、
毒気の利いた風刺を武器に政府や財閥を笑いのめして大いに受けた


▼たとえば艶聞(えんぶん)の多かった伊藤博文の行状を報じて、
「風俗壊乱物語 伊藤侯の愛妾(あいしょう)美人怨(おん)」などと容赦ない。

紙面が破格なら、創刊した宮武外骨(がいこつ)も反骨の人で、
この新聞も含めて生涯に14回も発売禁止・発行停止の処分を受けた。
入獄は4回。罰金15回。
自由闊達(かったつ)な笑いに言論を託して、へこたれなかった人だ



▼外骨が存命なら、パリの方角に向けて怒りと連帯の声を、大きく送ったことだろう。
襲撃された週刊新聞「シャルリー・エブド」は、風刺画を売り物にしていた。
1面に載る作品を各号ごとに眺めると、「過激にして愛嬌あり」の外骨の方針がだぶる



▼挑発的だったとの声もあるが、上品、下品、穏健、過激、いずれも「言論」である。
民主主義の根幹へ向けた暴力は断じて許されるものではない


▼そのうえで、フランスの劇作家で俳優だったサシャ・ギトリという
人の言葉に気をとめてみたい。「無礼な言葉はかつて目的を達したことがなく、
憎しみは常に目標を乗り越えてしまう」(『エスプリとユーモア』岩波新書)


▼犠牲者を悼みつつ、世界にイスラム教徒全体への過激な表現がうねるのを懸念する。
自由が成熟した社会だからこそ節度を保ちたい。
憎悪をあおる過激さは、外骨の反骨精神とは似つかない代物である。

(2015年1月9日天声人語)
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朝日の天声人語などは
「世界にイスラム教徒全体への過激な表現がうねるのを懸念する」
と気取っておきながら、過激な表現をうねらせた張本人を擁護している。

何がしたいのかさっぱりわからない。やはり口だけの批判か?


赤旗に至っては、この事件の背景であるイスラモフォビアについては
まったく触れていない。恐らく調べ不足だと思えるが、ヨーロッパの
イスラム差別を無視した批判は、結果的には、ヨーロッパを美化し、
イスラムへの攻撃を正当化させるものとなっている。


NHKのニュース9でも「多様な文化を受け入れるヨーロッパ」
「世界の見本」とこれでもかとヨーロッパを美化しており、
現地のフランス人へのインタビューでも意図的に穏健な主張を選択・紹介し、
あたかもフランス人が正常で、ムスリムが異常であるかのような描き方をしている。



こういう現地の差別を隠すような報道は問題の背景をごまかすことでもあるし、
同地域での差別を蔭ながら応援するようなものでもある。


すでにフランスでは、今回の事件に触発されて死刑制度の復活を求める声が浮上している。

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仏政党「国民戦線」のマリー・ル・ペン党首は死刑制度の復活は必要との見方を示している。
インターファックス通信の報道によると、同党首は8日、
テレビ「フランス2」の番組でこうした発言を行った。


ル・ペン党首は「個人的には死刑制度は無くてはならないと思う。
私は、この件については仏国民には自分の意見を表現する可能性を与える
と常に語ってきた」と語った。ル・ペン党首はまた、
テロの犯人がもし二重国籍を有しているのならば、仏国籍を剥奪せよ
と政権に対し呼びかけている。


ル・ペンのこの声明は
7日にパリで起きた「シャルリー・エブド」襲撃テロ事件に対する反応。

事件ではジャーナリスト8人を含む12人が死亡、11人が負傷している。

マスコミ情報では事件容疑者は2人組でサイド(32)と
シェイフ(34)・クアシ兄弟だとされている。
続きを読む: http://japanese.ruvr.ru/news/2015_01_09/furansu-death-penalty/

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国民戦線は向こうの極右政党、維新の会のようなものであり、
こうしてみれば、無思慮なテロ批判がいかにイスラモフォビアと
親和性が高い、あるいは彼らと大差ない意見であるかがよくわかるだろう。



私はテロを批判するなと言っているのではない。
批判するならするで、しかるべき手順を踏むことを要求しているのである。

すなわち、現地の差別主義者に利用されないような言説を望んでいるのである。


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