バージニア労働者

アメリカで働くってどんな感じ?アメリカの企業で働く統計アナリストの労働ブログ。アメリカ生活小話や猫も登場。

クスリをあげる <その1 レベッカのクスリ>

2008年05月06日 | アメリカ生活
2週間前、隣のキューブで仕事するレベッカの様子がかなりおかしかった。

彼女は、とても温厚で、よく笑い、彼女が愛用する香水のように『Happy』な女の子なのだが、
2週間前、彼女はすっかり別人だった。

私は仕事中、iPodを聴いているので、あまり周りの音が気にならない
ほうなのだが、彼女のデスクから聞こえてくる音には驚いた。

彼女はPC画面に向かって罵倒しながら、計算機、キーボードを
バシバシと叩きつけているのだ。

まあ、誰にでも機嫌が悪い日ってあるよねと、そっとしておいたが、
正直、ぞっとした。

そしていざとなったらすぐ逃げられるようにiPodの音量も
下げておいた。←だってふいに攻撃されるのも嫌だし。


先週になって、彼女がこう打ち明けた。

「ケイエス、あのね、私病院に行くことに決めたの。」

なんでも彼女は自分の情緒が著しく変化したことに恐怖し、
家に帰って泣き崩れる毎日だったという。

突然、何もかもが腹立たしく、その怒りをどこへもっていけば
いいのかわからなくて、何かを破壊したい気分になると話す彼女に、
「攻撃するときは、最低のマナーってことでさ、ちゃんと何らかの
合図だしてね。私がさっと逃げられるように。」と言ったら笑っていた。
(こっちは真剣に言ったつもりだ)


そして先週の中ごろに病院に行き、何かのクスリを処方してもらっていた。

「ハッピーピルよ。」と見せてくれたクスリは、こんなものが
彼女の脳の働きを操るのかと、不思議な気分になるぐらい小さかった。

なんでも、そのピル、脳の物質というか、神経がアンバランスに
交換されるのを、整える効果があるらしい。

彼女はそれを1日1錠飲むことになっていた。

そして今日、彼女が笑顔でやってきて、

「このクスリ、すごい効き目よ。とにかく私、気分がすっきりなの。
あれだけあった怒りがね、もうないの。全然腹が立たないの。」

と言う。「で、それだけの期間それ飲むつもりなん?」と聞いた。

「気分がいいからずっと服用するつもりだけど?」

そうなのだ。
アメリカでは、患者が望めばクスリは処方される。

実際に私の周りで毎日何らかのクスリを服用している人は
とても多い。

レベッカと今日、クスリを服用する人で、1日何錠服用するのか
冗談まじりで聞きまくったところ、多い人でなんと1日14錠がいて
びっくりした。


それからアメリカ人は、クスリを服用する人が多いからなのかは知らないが、
クスリの名前や、効用にとても詳しい。
まるで薬剤師と一日を共にすごしている気分になる。

私が最後にクスリらしきクスリを服用したのは、と考える。

あ、抜歯したときに処方してもらった麻薬系鎮痛剤と、
胃薬、それから抗生物質だ。





この麻薬系鎮痛剤、たしかオキシドコドンとかいって、
存在するどんな痛みも止めてしまうのではないかと思われるほど
よく効いた。でも副作用もすごくて、処方してもらった胃薬を
一緒に服用しなければ、痛み止めの効用が切れる頃に
吐き気を伴うのだ。

私はクスリが大嫌いで、できるだけ不必要な薬は飲むまいとし、
「吐き気がしてきたら胃薬を飲めばよいのだ」と勝手に解釈し、
服用をサボって、大変な目にあった。

とにかくあの吐き気、タダモノではなかった。

麻薬扱いの痛み止めと、その魔物のような効用と共にやってくる
吐き気が恐ろしくて、抜歯した所はまだズンズン痛んだが、
市販の痛み止めに変えた。

効き目は雲泥ほどの差があったが、何と説明したらいいのだろう、
とにかく「開放された」感じがして、気が楽だった。
副作用がなかったからなのだろうか。

ふとあの時の医者が言った言葉を思い出す。

「痛みが引かないようなら、また言ってね。
いくらでも好きなだけ処方してあげるから。」


そしてハニバニが言っていた言葉も思い出す。

「本当に痛くて痛くて大変なときだけ服用してね。
じゃないと、痛くもないのに常用してしまうようになるよ。」


とにかく、レベッカの情緒が安定していることと、
またハッピーな彼女が戻ってきたのはありがたいが、
医者はクスリを処方する前に、彼女の情緒を乱す本当の原因を
見つけるのが本業ではないだろうかと、
彼女の飲むそのハッピーピルをじっと見つめた。
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