先日、さかなクン氏、中坊教授らによって日本で絶滅したと思われていた淡水魚のクニマスが再発見されました。今回の発表は論文が受理(うちの雑誌に載せるだけの価値があるよ)されたので出したものでしょう。
クニマスはいままでの分類ではベニザケ(ヒメマス)の亜種と分類されていました。
今回は外部の形態と遺伝情報を調べてクニマスと断定したそうです。ではどのような部分を調べたのか?詳しくは論文待ちですが、梨の予想を書いてみます。
鰓耙(さいは)
魚の鰓(えら)には鰓耙という水をろ過して浮遊生物を消化管に送り込むための器官があります。これはプランクトン食の魚類でとくに発達しています。サケ科ではオショロコマとミヤベイワナを見分ける要素の一つが鰓耙の数です。ミヤベイワナはオショロコマの亜種ですが、鰓耙の数がオショロコマより平均5本ほど多いことが知られています。ちなみにヒメマスは鰓耙がサケ科で最も多い部類で、動物プランクトンやユスリカなどを捕食します。
幽門垂(ゆうもんすい)
サケ科などには幽門垂という消化器官があります。この数が種によって異なるので、種を判別する基準の一つになります。
有孔側線鱗数(ゆうこうそくせんりんすう)
魚は音をキャッチするために側線という器官があり、そこにある鱗には孔が空いています。この孔のあいた鱗の数も種によって異なります。
条数(じょうすう)
魚のひれを支える骨は、人間でいう指の間に膜が張ってひれとなっているという感じです。この指の骨の本数が魚の種によって違うので、見分けるポイントになります。専門的には条数といいます。
この他にも脊椎骨の数など数々の特徴を調べたと思われます。
このような外見から魚種を同定するのはよくよく魚を観察しないと出来るものではありません。はじめにクニマスではないか?と疑問に思ったさかなクン氏の実力が相当のものである証左でしょう。
遺伝子に関してですが、これは核DNAを調べたのか、ミトコンドリアのDNAを調べたのか僕にはわかりません。水産有用魚種として利用されるヒメマスのデータは既にありますので、それを利用したものと思われますが・・・。詳しくは論文待ちですね。
クニマスの生態については分かっていないことが多い魚です。近縁とされるヒメマスの自然分布は北海道に2か所ですが、クニマスだけ本州の湖に生息しています。分布が飛んでいて、なおかつ湖という閉鎖的な環境にいるのですね。サケ科魚類ではこのように淡水に閉じ込められて海に行くことが出来なくなった魚を陸封型と呼びます。完全な陸封型の事例はそれほど多くなく、ヤマメの陸封型であるスギノコという魚はイワナよりも上流域にいるという特異な生態を示すようです(通常、イワナより下流にヤマメは生息)。
また、「日本の淡水魚」(川那部ら編著1989)によれば、クニマスは1年中産卵していたと言われていたという情報があったようです。生殖腺の発達など解剖学的研究の進展が期待されますね。
さて、クニマスが再発見されたことは喜ばしいのですが、同時に保全生態学上の問題も浮上してきました。それは、この再発見をもって絶滅危惧の種をどこか別のところに移植してしまえばいいじゃないかということです。すでに岐阜大学の向井先生や三重大学の淀先生など魚類、外来生物の専門家がその懸念を表明しています。
僕の見解を述べると、今回のケースは非常にまれな偶然が重なって起こったもので一般化できる事例ではありません。まず、移植されたのが外来生物の問題が認知される前であったこと、運よくクニマスが定着したこと、ヒメマスとは交雑しなかった(と思われる)ことなどです。
少なくとも、外来生物の影響について負の影響の知見がつみあがっている現在で同様のことができると考えてはいけません。今回の件を持って安易に移植すればいいという考えは、移植先の生物相はどうなってもいいという生物多様性への無関心であり、生息域の保全や人工繁殖にかかる努力を軽視したものです。再導入や移植と言うのは保全(conservation)と保存(preservation)の2つの歯車がきちんと噛み合って初めて機能するものです。
まぁ、言いたいことをまとめると時代背景が違うから同じようにはいかないよってことです。
現在、地元では禁漁区や期間などを設けてクニマスを保全していこうという動きがあります。今まで、ヒメマスに混ざって混獲されていたので、天然記念物などへの指定は逆に調査や漁業などに支障をきたすでしょう。また、即座にこのような動きが報道されたというのは、前もって根回しをして関係者の同意と合意形成を取り付けていたからでしょう。今後も注意深く見守る必要があります。
クニマスはいままでの分類ではベニザケ(ヒメマス)の亜種と分類されていました。
今回は外部の形態と遺伝情報を調べてクニマスと断定したそうです。ではどのような部分を調べたのか?詳しくは論文待ちですが、梨の予想を書いてみます。
鰓耙(さいは)
魚の鰓(えら)には鰓耙という水をろ過して浮遊生物を消化管に送り込むための器官があります。これはプランクトン食の魚類でとくに発達しています。サケ科ではオショロコマとミヤベイワナを見分ける要素の一つが鰓耙の数です。ミヤベイワナはオショロコマの亜種ですが、鰓耙の数がオショロコマより平均5本ほど多いことが知られています。ちなみにヒメマスは鰓耙がサケ科で最も多い部類で、動物プランクトンやユスリカなどを捕食します。
幽門垂(ゆうもんすい)
サケ科などには幽門垂という消化器官があります。この数が種によって異なるので、種を判別する基準の一つになります。
有孔側線鱗数(ゆうこうそくせんりんすう)
魚は音をキャッチするために側線という器官があり、そこにある鱗には孔が空いています。この孔のあいた鱗の数も種によって異なります。
条数(じょうすう)
魚のひれを支える骨は、人間でいう指の間に膜が張ってひれとなっているという感じです。この指の骨の本数が魚の種によって違うので、見分けるポイントになります。専門的には条数といいます。
この他にも脊椎骨の数など数々の特徴を調べたと思われます。
このような外見から魚種を同定するのはよくよく魚を観察しないと出来るものではありません。はじめにクニマスではないか?と疑問に思ったさかなクン氏の実力が相当のものである証左でしょう。
遺伝子に関してですが、これは核DNAを調べたのか、ミトコンドリアのDNAを調べたのか僕にはわかりません。水産有用魚種として利用されるヒメマスのデータは既にありますので、それを利用したものと思われますが・・・。詳しくは論文待ちですね。
クニマスの生態については分かっていないことが多い魚です。近縁とされるヒメマスの自然分布は北海道に2か所ですが、クニマスだけ本州の湖に生息しています。分布が飛んでいて、なおかつ湖という閉鎖的な環境にいるのですね。サケ科魚類ではこのように淡水に閉じ込められて海に行くことが出来なくなった魚を陸封型と呼びます。完全な陸封型の事例はそれほど多くなく、ヤマメの陸封型であるスギノコという魚はイワナよりも上流域にいるという特異な生態を示すようです(通常、イワナより下流にヤマメは生息)。
また、「日本の淡水魚」(川那部ら編著1989)によれば、クニマスは1年中産卵していたと言われていたという情報があったようです。生殖腺の発達など解剖学的研究の進展が期待されますね。
さて、クニマスが再発見されたことは喜ばしいのですが、同時に保全生態学上の問題も浮上してきました。それは、この再発見をもって絶滅危惧の種をどこか別のところに移植してしまえばいいじゃないかということです。すでに岐阜大学の向井先生や三重大学の淀先生など魚類、外来生物の専門家がその懸念を表明しています。
僕の見解を述べると、今回のケースは非常にまれな偶然が重なって起こったもので一般化できる事例ではありません。まず、移植されたのが外来生物の問題が認知される前であったこと、運よくクニマスが定着したこと、ヒメマスとは交雑しなかった(と思われる)ことなどです。
少なくとも、外来生物の影響について負の影響の知見がつみあがっている現在で同様のことができると考えてはいけません。今回の件を持って安易に移植すればいいという考えは、移植先の生物相はどうなってもいいという生物多様性への無関心であり、生息域の保全や人工繁殖にかかる努力を軽視したものです。再導入や移植と言うのは保全(conservation)と保存(preservation)の2つの歯車がきちんと噛み合って初めて機能するものです。
まぁ、言いたいことをまとめると時代背景が違うから同じようにはいかないよってことです。
現在、地元では禁漁区や期間などを設けてクニマスを保全していこうという動きがあります。今まで、ヒメマスに混ざって混獲されていたので、天然記念物などへの指定は逆に調査や漁業などに支障をきたすでしょう。また、即座にこのような動きが報道されたというのは、前もって根回しをして関係者の同意と合意形成を取り付けていたからでしょう。今後も注意深く見守る必要があります。
シースピッツ問題は、実は国内でくすぶってたのかなぁと思った。
ものすごく複雑な気分だ。
別に今まで通りならしばらくは問題ないとおもいますが・・・。レッドリストにきちんとランク付けされるのも早くて数年後でしょうしね。
>シースピッツ問題は、実は国内でくすぶってたのかなぁと思った。
は?それはシーシェパードのことを言っているんですか?今回のこれとどうつながるのかよくわかりませんが。
言われるように時代が時代ですからしかたありませんが、なにか釈然としませんね。
クニマスは湖内産卵型なんでしょうか。この種を維持したいなら、生態の正確な解明が待たれますね。
昭和30年代、琵琶湖でも「テングマス」と呼ばれた大型のサケ科魚類があったと聞いたことがありますが、その特徴から放流されたヒメマスであったようです。湖北(マキノ町あたり?)でしばらくは遡上行動を観察できたらしいですが、やはり早期に途絶えてしまっているみたいです。
その結果として生物多様性が壊されているんですけどね・・・。
琵琶湖の方は興味深いので出典を教えていただけませんか?
何年も前にビワマスを橋の上から眺めていたらお年寄りに出会っていろいろ話しになったなかの一つです。
知内川のすぐ隣を流れる農業用水のような、しかし比較的流量のある川に上っていたとのこと。
お名前など聞いていませんのでこれ以上自分には辿りようもないのですが、当時を知る古老もまだまだおられるはずなので、よろしければ調査をなさってはいかがでしょうか。
西湖に限らず、もともと魚がいなかった十和田湖や中禅寺湖にヒメマスその他を放流したのは間違いであったのかどうか。