ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

天ぷら食いに行こ!

2012年02月10日 | 家族とわたし
昨夜、寝ようと思て時計を見たら、丁度12時やった。
いかんいかん、今日の朝は早起きせなあかんのに、また遅なってしもたと焦った。
ふと、日本はもう10日になってるなと思い出した。

あ、父が亡くなった時間が近づいてる。

すでに、その時間にはもう、下顎呼吸に変わってた。
その呼吸の仕方は、もう二度と、父がこの世に戻ることはないことをはっきりと伝えてた。
旦那が、大津の小学校と中学校から息子らを早引きさせて、JRに乗って病院に向かってる。
なあ、あの子らが着くまでがんばってや。
心の中で願いながら、父の六番目の奥さんが父の枕元から離れるタイミングを狙ては、わたしや弟、それから父の姉や妹がそばに寄っていった。

呼吸の数がみるみる減っていき、とうとう最後の一息が終わった時、父の目は開いてた。
俺は生きたかってん、もっともっと生きたかってん。
そう言うてるみたいやった。

最後に綿に染ませた酒を飲んで、嬉しかったんか、口元はうっすらと微笑んでた。
それだけが救いやった。

最後の三日間、辛い思い出ばっかりが残ってしもて、わたしはそのことへの後悔から、だいぶ長い間抜け出せんかった。
毎年、命日が来るたんびに、思い出しては自分を責めて泣いてるわたしに、旦那は優しい言葉をかけてくれる。
父が、基本的に怠け者でお人好しの父が、いろんな人に騙されたか、あるいは自分の意思でやったか、それは本人にしかわからんのやけど、
保証人の判子をあちこちの書類に押しまくり、おかげで取り立てのヤクザに、毎晩、正月休みも無く、一時間近く脅迫される毎日になった。
「内臓売らんか、働き口はなんぼでもあるんやが」と、高校生の女の子にはかなりシュールな話ばかりで、
居留守を使うか、勝手に北海道やらにトンズラしてた父は、わたしがそんな連中の話し相手になっているとは知らずにいた。
借金癖がついた父は、わたしが田舎に嫁いでからも、金の無心の電話をかけてきた。
親戚には散々っぱら迷惑をかけていたから、もう誰にも頼めなくなっていた。
弟は、父のせいで、ブラックリストに入っていて、大人になる前から社会生活ができなくなっていた。

事故にでも遭うて死んでくれたらええのに。

そんなことを考えるようになってた時、父が車に撥ねられて重症を負った。
三ヵ月も入院する大怪我を負ったのに、わたしも弟も、ついに一度も見舞いに行かんかった。
親戚は皆、口を揃えて、わたし達を非難した。

けれども父は、憎めない、いい親父だった。
気が弱くてうそつきやったけど、大好きな親父やった。
最後の十年間、6番目の奥さんに気ぃばっかり遣てんと、もっとデートしたらよかった。
最後の十日間、稼ぎのことや、生徒のコンクールのことなんか大事にせんと、つきっきりで看病してあげたらよかった。

死ぬ間際まで、食べたい食べたい言うてた天ぷら、また作ったから。
食い道楽の父が、胃癌で死ななあかんかったのはほんまに皮肉。
そやし、わたしは、自分が死ぬまで、父の命日には天ぷらを作ってあげたいと思う。

今日のんは、見た目は悪いけど、味はええで。牛肉入りのきんぴらも混ぜ込んであるねん。



追記

ひでたんが残してくれたコメント読んで、今年が父の13回忌やったことに気がついた。
ひぇ~!!
まあ、今更慌てても仕方ない。
そもそも、これまでも、◯回忌やからと、特別になんかしたわけでもないねんけど。
けど、今年はちょっと特別なことがあった。
昨年の秋に帰省した時、最後の奥さんから弟のマンションに送りつけられた箱のまんま、玄関先に長いこと積まれてた父の仏壇を、
今回こそはなんとかしようと思い、弟とふたりで箱を開け、中の仏壇の扉を開いてみたら……、
父の骨壺が入ってたし……。
うっそぉ~!と、ふたりで仰天しながら、恐る恐る中身を調べた。
きれいなお骨がギュウギュウ詰めで入ってた。
久しぶり。
そんなこんなで、先祖代々の位牌と仏壇用具一式、そして骨壺をこちらまで持ち帰り、それを父の写真の前に置いた。
なので、今年は、骨壺をなでなでしながらお供えをした。
これでかんにんしといてな。
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17 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (まーこ)
2012-02-11 15:48:16
まうみたん今頃夢の中かな。
お父さんの命日なんやね。
波乱万丈の人生やったんやね。
うちの夫の胃癌闘病にすごい理解をしてくれるのもこういう経験があったからなんやね。
みんないろんな人生歩んでるんやけどその分優しい心持てるようになるしまうみたんも超熟中やわきっと。
私は難病の母の看病、家業の倒産、夫の闘病、そして家族が幸せやった時に一緒にいてくれた犬たちとの別れがすごい深い傷になってるよ。
夫の闘病は現在進行中やけど。
でもやまない雨はないねん。
明日は失敗のない新しい日やねん。
お互い頑張ろうな。

天ぷら美味しそう。
家は今晩カキフライやけど近いうちに天ぷらするわ。
牛肉入れた天ぷらってどう作るん?
またレシピ教えてね。
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あー、人生。 (美代子)
2012-02-11 16:17:41
まうみちゃんにはまた泣かされたなあ。何度聞いても、父上の話は泣けるね。そして、そんなまうみちゃんの人生に、しっかりと寄り添ってきたご主人も素敵過ぎるわ。学校に迎えに行ったご主人の話もいいよねえ。

女にとっては、やっぱり、いいご主人に恵まれるのが一番の幸せだよね。そして、子供に恵まれることもね。ということはまうみちゃんの人生、全てよしなのよ。

私も身内での苦労が絶えなかったから、涙なしでは読めないわゆ。まうみちゃんは、私と比べたら優しいなあと思う。私はまだどこか恨み
の念が残ってるものなああ。それにしても6番目の奥さんっていうのが凄いなあ。

ところで、夕張市立診療所の、森田洋之医師が日経に「地域とともに生きる医療へ」を三まで書いたので暇があったら読んでやってね。わたしゃ、朝から大泣きしたんだゆ。内緒だけど、不良少年だったのがあそこまで変わるんだよ。わたしは手を合わせたわ。なむ~。


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イカしたやつ。 (美代子)
2012-02-11 16:20:50
http://www.nikkei.com/life/health/article/g=96958A90889DE1E5E5E2E7E2E1E2E1E3E3E0E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2;p=9694E3E2E2E7E0E2E3E3E1EAE5E7
返信する
Unknown (かわちゃん)
2012-02-11 21:20:02
おじいちゃんは元気やったのに風呂場で誰も知らん間に逝ってもた。
母親は「一日でええから看病してやりたかった」て言うてるわ。

僕の父親は何回も入院したあげく、家で誰にも見取られずに逝った。
逝く前にせめて一言なんか話をしたかったと思う。
返信する
まーこちゃんへ (まうみ)
2012-02-12 01:18:35
ありがとうまーこちゃん。
まーこちゃんもわたしも、ボコボコ音立てながら熟成中やねんな♪

そっか、まーこちゃんとこも倒産経験者なんや。
まあ、うちの父みたいに、夜逃げを3回もしてへんやろけど……。

まーこちゃんも多分、人から言われたことあると思うねんけど、
そういう、普通あんまり経験できんような大変なことが次から次へとやってくる人は、
そういうことを受け止めて、乗り越えていける器があると神さんが認めてるからやって。

けどさ、まーこちゃんも多分わたしに賛成してくれると思うけど、
ちゃうやんな。逆やんな。
そういうのん、自分なりに、凹んだり、ヤケになったりしながら、
まあでも、死なんとこかって思て生き続けてたら、
新しい明日は次々にやってきて、気がついたら終わってたって感じ。

まーこちゃんの負った傷が、深ければ深いほど、
それを癒そうとするまーこちゃん自身が、慈しみ深うならんとあかん。
そやからこそ、まーこちゃんは優しい。
まーこちゃんがなんも言わんかっても、その優しさはにじみ出てきてて、
それに救われてる人や動物はいっぱいいると思う。

ご主人は負けへんよ。
若いし、治療を適切なタイミングできちんと受けてはるんやから。
どっかの、食いしん坊の、破天荒なおっさんの分も長生きして欲しい。

かき揚げな、ごめん、牛蒡のささがき入れよ思てんけど、めんどくそなって、
残ってたきんぴらごぼうをそのまんま混ぜ込んだだけやねん。
たまたま、ちょっと美味しい方の薄切りの牛肉を細切りにして作ってあってん。
すんまそん。
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美代子さんへ (まうみ)
2012-02-12 01:28:50
毎年、おんなじこと書いてすんません!
けど、やっぱりこの日だけは、他のこと考えられんようになってしまうんです。
もう12年も経ったのに……。

森田さんの記事、ありがとうございます!
さっそくこれから、じっくり読ませてもらいます!
なんか、美代子さんちで話をいっぱい聞かせてもろてるので、
どうも他人のような気がしません!なんちて……。
ツィッターでいきなり、友達になってください!ってお願いした時、かなりビビってはりましたけど、
美代子さんのこと言うたら、懐かしいなあ~と笑いながら言うてはりました。

わたしは美代子さんの方が優しいと思います。
自分は長いこと、恨みはないと言い切ってたけど、
あの父の最後の三日間、わたしが無意識にした言動は、まさに恨みを晴らすようなものではなかったか?と、今も思い出すたび愕然とします。
旦那は、「そんなことも全部含めて、父はわたしを愛してくれている」と言ってくれるんですが……。

まあ、もう終わってしまったことです。
戻ってやり直すこともできません。
戻ったとしても、また同じことを繰り返してしまうかもしれません。
人間はかくも弱く、強い生きものですね。
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かわちゃんへ (まうみ)
2012-02-12 01:36:49
かわちゃん、わたし、毎年この日に、おんなじようなことブツブツ言うて、
かわちゃんにもいろんなこと思い出させてしもてんね。

ほんでいっつも、かわちゃんに、
みんな、おんなじようなこと抱えて生きてるねんでって教えてもろてる。

誰にも看取られずに逝く。
誰も看取れずに逝かれてしまう。

そういう時の人間の気持ちを、わたしはまだ経験したことが無い。
その、究極ともいえる寂しさと孤独感、それから後悔もまた、
かわちゃんみたいに、優しさに変わっていくのかなあ。
返信する
Unknown (かわちゃん)
2012-02-12 06:34:10
>親戚は皆、口を揃えて、わたし達を非難した。
老人介護の人の話で親を介護施設に入れる時「親をそんな所に入れて」って文句を言うんはいつも介護の責任のない人やって。
返信する
かわちゃんへ (まうみ)
2012-02-12 08:32:55
>老人介護の人の話で親を介護施設に入れる時「親をそんな所に入れて」って文句を言うんはいつも介護の責任のない人やって。

ははは、ほんまや、その通りや!

最近たまぁ~に思うねん。
放射能のことかてそうなんかなあって。
そう思てしもたらめちゃくちゃ虚しなってしまうから、すぐに却下するねんけど。
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遅ればせながら。 (9ちゃん)
2012-02-12 13:52:57
まうみさん、そんな人生を越えて来はったんですか。
僕には簡単には分からないですが、お父さんに対しての気持ち、分かるような気がします。
現在、病気の父を北陸の田舎に残して、長男の自分は転勤続として、全国飛び回っていて、そして、多分、もう故郷には帰らないと思います。
盆正月帰って思うのは、なんとも言えない、時間の経過した感覚です。
でも、まうみさんに比べると、なんとか元気な父を持っている自分は、はるかに感謝しないとあかんね。出来るときに孝行せな、と。
てんぷら、特別の味でしょう。心が潤いました。
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