杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

藤枝の酒プレスツアー

2009-03-06 14:51:05 | 地酒

 昨日(5日)は静岡県観光局の事業で、藤枝市の地酒プレスツアーの“添乗員”を務めました。今年1月岡部町と合併した藤枝市は、喜久醉、志太泉、杉錦、初亀という4醸を抱える県内屈指の“酒の町”になりました。藤枝といえば、最近ではケーキ屋さんの数の多さから“スイーツの街”、居酒屋グランプリの開催等で“居酒屋文化の街”として盛り上がっています。これに地酒を加えて、新生藤枝市を食をキーワードにシティセールスしていこうというわけです。

 

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 北村市長とは市長就任前から酒縁があり、北村さんが市長になったら地酒を地域資源として大事にしてもらいたいなぁと思っていたところ、思いがけず今回のお話。

 最初はお手伝いといっても情報提供ぐらいかと思ったら同行してくれと言われ、自分じゃ荷が重い…というか、自分が責任を持って計画をたてるならまだしも、そうじゃなければ、地元市民の力をなるべく生かすべきだと思い、旧藤枝市と旧岡部町の酒販店主を(彼らの利益にもつながると思って)紹介したのですが、なんやかんやで駆り出されることに。それでも結果的には、東京の新聞記者や雑誌記者のみなさんが藤枝の酒をどんなふうにとらえるのか、興味深い“観察”ができて、実りの多いツアーとなりました。

 

 

 まず、うれしかったのが、参加者9人のうち7人が女性で、今まで静岡の酒に特化した話題を取り上げたことがなさそうな全国紙や出版社の編集者・記者、フリーライターの方々だったこと。「たぶんうちでは日本酒自体、過去に取り上げたことがないと思う」という女性ファッション誌編集者もいて、この雑誌の読者が初めて誌面で目にする日本酒が静岡の酒になるかも…と思ったら無性にうれしくなりました。

 

Imgp0635  最初に訪問した志太泉では、まず蔵の前の瀬戸川の桜堤を歩いてもらって、「桜が満開のころ、ここで花見酒をやったことがあるんですよ~」と紹介。あとひと月後なら、ホントに絶景を味わっていただけたと思います…残念!。

 

 そのかわり、ちょうど上槽(搾り)中の純米吟醸の試飲ができ、また大吟醸から普通酒までさまざまな種類の酒粕を店頭売りしているところが見られ、お土産に大吟醸粕をしっかりお持ち帰りいただけました。

 

 

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 「いい酒粕で作った甘酒は、甘酒のイメージがひっくり返るぐらい美味しいし、冷やしたりシャーベットにしてもいけます」とお話し、初亀醸造の奥様から事前に教えていただいたレシピを紹介しました。

 

 鍋に大吟醸粕を入れて、上から熱湯を注ぐ。量はひたひたになるぐらい。

 そのままふたをして、30分ぐらい蒸らす。

 30分経ったら火にかけて、ゆっくり溶かす。

 火を止めてから砂糖を入れて好みの甘さにし、塩をひとつまみ入れて出来上がり。

 

 

Imgp0647  お昼は国道1号線の瀬戸川土手にある手打ち蕎麦の『ながいけ』。ここでは今回訪問できない喜久醉の紹介をするという大役をおおせつかり、特別本醸造生酒を試飲してもらいました。限られた時間で十分な話はできなかったのですが、「この蔵が素晴らしいのは、お客様の口に入るまでが“酒造工程”だという考えで、米から酒になって出荷するまで負のリスクを減らす努力を徹底している」という点を強調させてもらいました。

 

 今回のツアーでは、ツアコンに徹する意味で自分の映画の話は一切しませんでしたが、もしチャンスがあったら、喜久醉の現場を観られなかった今回の参加者に、ぜひ『吟醸王国しずおか』を観ていただきたいと思います…。

 

 

Imgp0657  午後は、初亀と杉錦を慌ただしく訪問しました。いずれも40分足らずの時間配分で、初亀さんなどは純吟以上の6種搾りたてを試飲用に用意してくださったのに、2~3分しかないというので、ついついツアコンの使命を忘れ、自分の試飲に集中してしまいました(苦笑)。

 

 

 杉錦では、杉井さんが蔵の中を案内する間、早く帰京する3名に先に事務所で試飲だけしてもらいました。生もと、山廃造り、速醸など専門用語が飛び交う杉井さんの話は、ちょっとわかりにくかったかもしれませんが、速醸の純米大吟醸と、生もとの純米大吟醸を呑み比べてもらったら「すごーく分かりやすい!」と喜んでもらいました。

 

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 ついつい調子に乗って、「ここはみりんもおいしくて、飲めちゃうんですよ」と事務員さんにこっそり頼んで純米みりん飛鳥山の市販酒(黄麹仕込み)と、実験用の白麹仕込みを出してもらって、3人の女性記者に味見してもらいました。白麹のみりんは、杉井さんが酒販店主から「甘すぎる」と言われて市販を諦めたそうですが、女性記者たちは「こんなにおいしいみりん、初めて」と大喜び。事務員さんも「私もね、白麹のほうを分けていただいて自分で梅酒にしてみたら、びっくりするぐらい美味しくて、近所の奥さんたちにも喜ばれたんですよ~」とこっそり打ち明けてくれました。男性(おじさん)酒販店主は、はっきり言って、今の消費者の味覚や感性を正確に伝えているとは思えないのでは??

 

 新しい切り口で醸造酒の幅の広さ、奥の深さを体現しようとする杉井さんのような酒造家には、新しい切り口で背中を押す売り手や飲み手や情報提供者の力が必要だ…と実感しました。

 

 

 

Imgp0668  ツアーの最後は、藤枝居酒屋グランプリ2008でグランプリを獲得したJR藤枝駅前の居酒屋『台所屋一軒目』。藤枝4銘柄に、初かつおの刺身と珍味(へそ・酒盗)、藤枝つくねでハットトリック(肉詰めしいたけの串揚げ=08グランプリ対象メニュー)、バチバチ豆腐(06準グランプリ)、大井川産アメーラトマトの食べ合わせを楽しんでいただきました。

 

 

 「酒蔵で麹とか酵母とかもろみとか、似たような響きの専門用語が出てくるとさっぱりわからなくて…」「もう少し歴史や民俗学的な切り口で、この地でなぜ酒造が盛んかを教えてほしかった」という意見もありました。どんなことでも背景をきちんと理解した上で記事を書きたいというのが取材者です。そんな立場がよくわかるだけに、もし自分が一からコーディネートしていたら、ああしたい、こうしたい、と思える部分も多々ありました。

 まぁ、でもそれは、私の地酒に対する思いが特別に深いからで、行政、しかも観光セクションの立場で考えれば、総花的・表層的にならざるを得ないんですよね・・・。

 

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 とにもかくにも、静岡の酒に初めてふれたメディアの方々が、何らかのかたちで媒体に取り上げてくれたらうれしいし、今回出会ったみなさんが個人的に静岡の酒のファンになってくれたら、もっとうれしい。私、静岡の酒の縁でいやな出会いをしたことが過去一度もないので、今回の酒縁もきっと実りあると信じています…!

 

 

 


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