杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

河村先生の遺産(その2)伊豆のみかんワイン

2016-12-28 20:55:21 | 地酒

 今年2016年も暮れようとしていますが、私にとっての2016年は、ライターの仕事を始めてちょうど30年という節目の年でもあります。静岡新聞社発行のタウン誌のスタッフライターとしてデビューし、フリーランスになって最初に定期的に請け負った取材業務のひとつに、静岡県下の農協の直販宅配ガイド『四季ORIORI』がありました。

 平成元年(1989)8月発行の『四季ORIORI第7号』では県下10農協の特産品を紹介しており、伊豆東農協のページでは特産のニューサマーオレンジ、夏みかんサワー、そしてこの年に新発売となった『伊豆みかんワイン・ゆめ紀行』を取り上げました。

 「伊豆のみかんがおしゃれにドレスアップ」というダサいキャッチコピー(苦笑)は、当時の農協スタッフさんからなぜか気に入られ、カメラマンがイメージに合わせた写真も撮ってくれましたっけ。ちなみに真ん中のイラストマップは私の手描きです。これも今見ると、子どもの絵日記レベル(苦笑)。

 

 平成元年8月発行ですから、取材はその3~4か月前。ちょうどこの頃から静岡の酒の取材も始めていました。もっとも酒の取材は好きで始めたアテのない仕事でしたが、河村傳兵衛先生や栗田覚一郎さん(当時の県酒造組合専務理事)という面白いオジサマたちに勝手にくっ付いて行って、クセのある酒蔵や酒販店のおやじさんたちにからかわれながらも、静岡吟醸のビックリするような味わいにドキドキしたものでした。

 河村先生に「伊豆でみかんワインというのを作ったそうで、農協の雑誌の取材で行ってきました」とお話したら、「あれは私が開発したんだ」と言われてビックリ。先生から、素人が読んでもちんぷんかんぷんの技術論文を見せていただき、「まあワインも日本酒も似たようなもんか…」とスルーし、論文のことは記憶からすっかり消えていました。

 

 先月から取り掛かっているJAの情報誌で伊豆みかんワインを取り上げることになり、懐かしいなあと思っていた矢先に先生の訃報。それに呼応するように先生のみかんワインの論文のことが思い出されました。今なら多少理解できるかもと思い、頭に叩き込む意味で一部ここに書き込んでみます(具体的な数字や酵母の名称は伏せますね)。

 

ミカンワイン

 昭和47~48年、温州ミカンの農作により暴落した。このため生食以外の利用にミカンワインの試験醸造を行った。

 ミカン果汁の中には微量の酵母と細菌が存在し、殺菌剤を用いると菌を完全に殺菌することはできないが、菌の増殖を抑制した。試供した酵母はブドウ酒酵母2株、清酒酵母3株を用いた。清酒酵母は湧付が遅れたがワイン酵母は早く、ミカンワイン製造にはワイン酵母が適していた。

 温州ミカンの糖分は7~10%であるので、ワインを醸造するためには補糖し、糖濃度を26%まで高める必要がある。果皮を手で剥皮し、搾汁したパルパー果汁を用いたが、製成酒の香りはクセが少なく、味も淡麗で良好な品質であった。工場生産されているパルパー果汁、インライン果汁、逆浸透圧法果汁、真空濃縮果汁も用いてワインを醸造した。それぞれきき酒した結果、パルパー果汁のワインが最もよく、淡麗であった。インライン果汁と逆浸透圧果汁は精油分が多いため苦味を感じた。真空濃縮果汁のワインは香りが悪く酒質が最も劣った。いずれの製成酒とも酸味が強く、除酸する必要があった。

 静岡県のみかん果汁の酸度は1.0~1.2であり、他県と比較して高いため、100%果汁として飲みにくい。ミカンワインの酸度も、ブドウを原料としたワインに比較して5~6割多く、酸味を強く感じた。ミカンワインの有機酸はクエン酸が90%で、残り10%はリンゴ酸である。酸味を減ずる方法は、一般的にはアルカリ性試薬によって中和する方法である。中和剤として炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ソーダ、アンモニアを用いてミカンワインの酸度を調製した。中でも炭酸カルシウムを添加して0.5%の酸濃度に調製したワインが最も良好であった。

 中和剤で酸味を減少させる方法では有機酸塩がワイン中に残存し、風味に悪影響を与える。ブドウ糖からのワインはマロラクチック発酵によってワイン中のリンゴ酸を乳酸やエタノールに変換し、味を丸くすることができる。ミカン果汁中のクエン酸を微生物によって分解し、減少させる方法を考え、クエン酸資化性の酵母をスクリーニングし、分離した菌株を定めた。

 ミカンワインのもろみ中にこの酵母とワイン酵母を添加してもほとんど酸度は減少しなかった。そこで先に果汁をこの酵母で発酵させ、クエン酸を消失させた後にもろみに添加し、発酵させると任意の酸度に調製することができた。製成したワインは無処理や中和法によるワインに比較して、丸みのある良質のワインとなった。

 賀茂郡東伊豆町の伊豆東ワイン㈱で昭和63年11月から製造し、現在は果汁42キロリットルで原酒80キロリットルを生産している。原酒に糖分、クエン酸、香料を添加して、アルコール8%の甘味果実酒を製造している。 

バイオテクノロジー研究調査報告書/平成2年3月 静岡県工業技術センター発行より

 

 

 

 ミカン農家に損をさせないために、なんとか売れる加工品にしよう、しかも「淡麗で丸くて良好」と、まるで静岡吟醸に匹敵するような美味しいワインを作ろうと、トライ&エラーを繰り返した河村先生の生真面目な姿が甦って来るようです。昭和40年代から始めた研究であれば、本当に地道にコツコツ研鑽を積み重ねてこられたんですね。

 

 思えば、河村先生の研究は、酒蔵やみかん農家が苦しい時に必要とされてきたものでした。農作物が原料だからすぐには成果が出ないし、研究室で成功したものを現場に落とし込んで定着させるには、現場が意識を共有してくれないと難しいでしょう。

 公務員ですから、民間企業のように結果が出なくて業績評価に響く、なんてことはないだろうし、異動になれば後腐れなし・・・で済ませることも出来たはずですが、私が知っている河村先生は、私が知っている公務員というカテゴリーには当てはまらない、妥協を許さない勝負師でした。その、他人にも自分にも厳しい生真面目さが時には軋轢を生んだこともありましたが、しっかりレガシーを残している。「公僕」という肩書が、これほどふさわしい人が官庁の研究機関にいるでしょうか。

 

 現在、温州ミカンは当時の「豊作で価格暴落した余剰ミカンを加工に回す」という状況とは打って変わり、生産農家の高齢化や産地集約等により、生産量が減少しています。というか、作るからにはしっかり品質管理&ブランド化して、ちゃんと売れるミカンを作る、という体制になっているんですね。三ケ日ミカンが生鮮品として日本で初めて「機能性食品表示」を取得したことも話題になっています。

 

 平成元年の開業時以来、28年ぶりに訪ねた伊豆東ワイン㈱では、アルコール度5~6%の甘口ワイン、10~11%の辛口ワインの2タイプ製造していました。加工用に回せるミカンの入荷量が少ないため、仕込み日も限定的。ミカン以外にアロエやニューサマーオレンジのリキュールも作るようになったそうです。直売店や工場見学コースは昔のまま。考えてみると6次産業の先駆けだったんですね、ここ。

 

 ・・・にしても、河村先生が開発に関わった伊豆みかんワインを、先生が亡くなった直後に再び取材するなんて、先生に天上から「しっかり論文を読んで取材しろ」と叱咤されたようなもの。日本酒を飲みつけている身にしてみれば、みかんワインなんてミカンジュースに毛が生えたようなもん・・・なんて見下していた自分が恥ずかしくなってきます。

 見た目はいかにも観光土産って感じですが、河村傳兵衛研究員の若かりし時代のレガシーとして飲み支えしなければなりません。このワインも「静岡の地酒」に相違ないのですから。

 伊豆みかんワインはこちらのサイトから購入可能です。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

しずおか地酒研究会20周年記念酒完成!

2016-12-21 15:52:29 | しずおか地酒研究会

 しずおか地酒研究会の20周年記念酒が完成しました。藤枝の杉井酒造で造っていただいた杉錦生酛純米酒。当会の記念酒ラベルで杉井酒造の取引先に売っていただくことになりました。

 

 原料は静岡県産誉富士で酵母ももちろん静岡酵母HD-1。20周年記念事業の一環として10月2日に会員有志の皆さんと生酛の酛摺り体験をし、11月5日に仕込み、12月5日に上槽となりました。年内先行発売となった生原酒はアルコール度数18.3%、酸度1.9、日本酒度+8。今年は全般的に米が溶けにくいといわれ、もろみの前半は想像以上に発酵がスローペースだったようですが、誉富士&生酛の底力でしょうか後半はグーンと上がってきて結果的に日本酒度+8、アルコール度数が18度以上と堂々たる酒になりました。 

 今回の仕込は米の総量1000㎏で原酒が1800㍑ほどできたそうで、うち生酒で約600リットル詰めて年内に生原酒で発売。残りは加水・火入れし、一升瓶で780本ほど詰め、年明けに発売する予定です。

 

 蔵元杜氏杉井均乃介さん曰く「日本酒度は切れていますが、酸度も高めで生酛の純米らしいコクがあると思います。搾ったあと日数が若いうちは渋く感じますが、生酒はだんだん甘味が出てくるので、それからのほうが呑みやすいかもしれません。吟醸香は高くはありませんが、含香にHD-1らしい香りを感じます。甘すぎずしっかりした味わいの生酒です」とのこと。いち早く入荷し、試飲された酒屋さんからも「華やかな香りとほどよい旨味があってわかりやすい美味しさ。幅広くおススメできそう!」とお褒めのメールをいただきました。

 ラベルは、10月2日の酛摺り体験に参加してくれた会員さんが寄せ書きしてくれた手書きメッセージを、参加者の一人でグラフィックデザイナーの山中恵美子さんがデザインし、オフィストイボックスさんが加工処理してくれました。最近の若者や外国人を意識したスタイリッシュな日本酒ラベルとは、ある意味対極的かもしれませんが、造り手&売り手&飲み手の自然発酵な酒縁をモットーにしてきた地酒研らしいでしょう。杜氏の杉井さん直筆のサインもちゃんと入ってます!

 

 お値段は4合瓶で1,728円(税込)、一升瓶で3,240円(税込)で各サイズとも限定150本。販売先は以下のとおりです。

 

◆ 静岡県西部地区

旭屋酒店(浜松市中区)HPはこちら

原口酒店(牧之原市)HPはこちら 

酒のバオオ(浜松市北区三方原)HPはこちら

 
 
◆静岡県中部
 
とみた屋 (静岡市葵区駒形通り)HPはこちら
 
松永酒店 (静岡市葵区五番町)HPはこちら
 
篠田酒店 (静岡市清水区入江岡)HPはこちら
 
アヴォートルサンテ (静岡市葵区茶町)HPはこちら
 
野中酒店 (静岡市駿河区鎌田)HPはこちら
 
松永酒店 (焼津市中港1丁目)TEL 054-628-5116
 
萩原酒店 (焼津市小土)TEL 054-628-4017
 
万都酒店 (藤枝市岡出山)TEL 054-641-6513
 
ときわストア (藤枝市岡部)TEL 090-3953-4395
 
 
◆静岡県東部
 
丸茂芹澤酒店 (沼津市)HPはこちら
 
和楽 (三島市)HPはこちら
 
島崎酒店 (富士市本市場新田)TEL 0545-61-0244
 
 
 
◆静岡県外
地酒のにしじま酒店(大阪府茨木市)HPはこちら  
 
藤川酒店 (愛知県豊橋市)HPはこちら
 
SAKEBOXさかした (大阪市此花区高見1丁目)TEL 06- 6461-9297
 
中村酒店 (大阪)
 
酒倶楽部いちの (神戸市東灘区)HPはこちら
 
豊醸酒店(東京都板橋区赤塚)TEL 03-3930-0304
 
 
 
 しずおか地酒研究会の名前がデカデカ出ている限定酒にもかかわらず、当会とは今までご縁のなかった県内外の酒販店さんも、杉井酒造の事前案内で予約をしてくださったのです。もちろんそれだけ杉井さんとのパイプが強い酒販店さんだと思いますが、このお酒が新しいご縁をつないでくれるかと思うと感無量です。
 
 12月23日(金)にお披露目を兼ねた20周年感謝祭(こちらを参照)を開催しますので、お時間のある方はふるってお越しくださいませ。
 

 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

河村先生の遺産(その1)品質勝負から品質評価へ

2016-12-14 01:30:49 | しずおか地酒研究会

 前回紹介した河村傳兵衛先生の28年前の講話『品質勝負』について、「今読んでも色褪せない」と感想をいただきました。「あまりに偉大過ぎて近寄り難い存在だったが、一度お会いして直接お話を伺うべきだった」という若い酒販店さんも。お通夜の後、東京から駆けつけた松崎晴雄さんと静岡駅の居酒屋で先生への献杯を交わしたときは、この講話を私が(酔った勢いで)大声で朗読し、松崎さんは「当時から広島、石川、秋田を意識していたとは凄すぎる」と唸っていました。

 28年前の講話でもこれだけ力のあるメッセージになるならば、もっとちゃんと、先生の功績を伝えていかねば…と切に感じ、少しずつでも紹介していこうと思います。

 

 

 今回は、しずおか地酒研究会の20年間の活動資料の中から、28年前の講話『品質勝負』の鑑評会出品酒と市販酒の違いに対する河村先生のアンサー&アクションをベースにした内容として、平成13年(2001)9月に開催した『しずおか地酒塾~どうなる、どうするお酒の評価』をピックアップします。

 この年、全国新酒鑑評会の主催者である国税庁醸造試験所が民営化し、独立法人酒類総合研究所に組織変更したことを契機に、鑑評会も大きく変わりました。出品が有料制となり、経費を払えば出品自由となったのです。それ以前は、3月に開かれる県の鑑評会、4月の地方国税局の鑑評会に入賞しなければ5月の全国には出品できないという暗黙のルールがありました。

 全国新酒鑑評会の変化を機に、河村先生は静岡県清酒鑑評会の審査方法をガラッと変え、結果的に大きな論議を呼びました。品質コンテストの審査基準を変えるというのは、出品者たる造り手にとってはもちろん、受賞酒を販促に活用する売り手にとってもエポックメイキングな出来事。結果は以下のとおりでした。

 

◆平成13年静岡県清酒鑑評会 県内27社99出品(吟醸の部51、純米の部48)

〈吟醸の部〉①喜久醉 ②國香 ③千寿 ④富士正 ⑤若竹 ⑥菊源氏・出世城 ⑧英君 ⑨小夜衣 ⑩磯自慢(以上入賞10社)

〈純米の部〉①國香 ②出世城 ③高砂 ④喜久醉 ⑤菊源氏 ⑥千寿 ⑦磯自慢 ⑧若竹・英君 ⑩初亀 ⑪満寿一(以上入賞11社)


◆平成13年名古屋国税局酒類鑑評会 東海4県対象/順位は首位賞のみ発表

〈普通醸造の部 県内入賞〉開運*首位賞、君盃、静ごころ、英君、菊源氏、磯自慢、志太泉、葵天下、花の舞

〈純米醸造の部 同 〉菊源氏、初亀、葵天下


◆平成13年全国新酒鑑評会 全国1133出品 金賞308 入賞599 

〈県内金賞蔵〉忠正、静ごころ、英君、菊源氏、磯自慢、葵天下、出世城

〈県内入賞蔵〉萩錦、君盃、開運、花の舞

 

 この顔ぶれを見て、静岡酒に精通している人なら論議を呼んだ理由は想像できるでしょう。実際、河村先生が静岡県の審査をどう変えたかは以下の記録を読んでいただくとして、先生が品質勝負と謳った静岡吟醸を、今度はどう評価していくのか、さらに言えば地酒という地域特性をどのように発信すべきか、今読んでも実に多くの示唆に富んだ内容です。

 

しずおか地酒研究会 しずおか地酒塾2001

「どうなる、どうするお酒の評価」~造る人・利く人・飲む人それぞれの主張 

(2001年9月26日 あざれあ第二会議室にて開催)

 

●審査方法と審査基準(蔵元の意見)

 今年(2001年)の静岡県で実施された審査は、5人の審査員がまったく同時に、まったく同じ条件(審査室を一定の温度に保ち、各審査員ごとに専用のグラスで、出品酒の温度・量も均一にする)で行った。今までにそれが行われていなかったという意味において画期的であり、出品者側としては公平な方法だと受け止めた。また同時に改善点もいくつか出たように思う。たとえば5人という審査員の数は妥当か(それまでは8~10人)。審査員の適正をチェックする機能はあるのか等。いずれにせよ公平公正な方法で審査が行われることは、関わるすべての者にとって良いことは間違いない。改善を重ねながら良い審査方法を創り上げていくことが大切である。
 去年まで全国新酒鑑評会の予選としての位置づけが色濃かった地域国税局鑑評会も、純米部門の創設や秋開催への変更等新たな試みを始めている。静岡県独自の審査基準をもつということは、県の鑑評会の存在意義を問い直す意味深いものになるだろう。

 

●酒造組合の自主性を!(蔵元の意見)

 県、国税局、全国の各結果が全然違うということに疑問を感じない人はいない。よくお客さんからも聞かれた。県の鑑評会は県の組合が主催者である。組合が主導権を持ち、運営をきちんと推し進めるべき。外部の団体から組合に対して助言や提案をもらうのもよい。組織や人事が大きく変わろうとしている今の時代、タイミングを逃す手はない。規格、審査員、方法などはっきりとした目的をもって定めることも必須である。

 

●わかりやすい基準を(蔵元の意見)

 人間の判断には好き嫌いがあり、体調にも左右されるので、審査の公平さは考えれば考えるほど大変だ。しかしながら今までの歴史、杜氏のやりがい、消費者の期待を考えると、なにがしかの鑑評会は必要だと思う。出品酒は鑑評会用に特別仕様にするなど市販酒とのギャップがあり、多くの問題を抱えている。以前、千葉の酒販店が市販の大吟醸を集めて蔵元と消費者による品評会を開いたが、そんな会があってもよいと思う。ここ数年の県鑑評会でおかしいと思うのは、物事を判断する基準に「好き嫌い」や「損得」があるということ。他人の好き嫌いやお仕着せや別の判断基準が入ると透明性がなくなり、足元から権威が失われ、消費者からも横を向かれてしまいかねない。誰にもわかりやすい基準を作り、消費拡大に関与し、注目される会になってほしい。

 

●自醸蔵にとっての鑑評会(蔵元の意見)

 蔵元自身が自分の目の届く範囲の小仕込みを行っている蔵では、製造計画との調整や人手の問題など様々な理由から、県(3月)、名古屋局(4月)、全国(5月)と各鑑評会にコンスタントに出品することが難しくなっている。当社も今年は出品できなかった。現在の出品酒のほとんどは、杜氏の技術研鑽という本来目的から、原料米を35~40%まで磨く大吟醸酒で、どちらかといえば香りが重視される。多くの研鑽が得られる高い目標になるため、当社でも製造するが、量は少なく、看板商品というわけではない。当社では精米歩合50~60%の純米系で発酵から得られる旨味ある酒をつくるのが一番のテーマ。蔵元が目指すものと鑑評会の評価基準にはズレがあるように思う。杜氏にとっては最高級の大吟醸酒、しかも出品酒が最も腕の見せ所だろう。彼らが、だから低精白の造りに手を抜いているとは言わないが、蔵元はそういう酒も全力投球である。経営者と従業員の気持ちの差はおのずと出てくる。自醸蔵が増えつつある今、鑑評会の出品基準や評価基準がもう少し多様化してもよいのではないか。

 

●一石を投じる審査(酒販店の意見)

 一般公開で県鑑評会上位酒を試飲して感じたのは、昨年までの入賞酒に比べ、大人しくまとまっている酒が多く、香りが一気に広がるような酒はなかった。正直な感想としては、一位になった酒はどちらも素晴らしかったが、入賞酒の中には従来の価値観からすると今一つ迫力のなさ、物足りなさを感じた。選考基準に、賞のための酒を除外し、なるべく市販酒と変わりのない酒を選ぶという一つの線があったようだ。鑑評会とはいったい誰のためにあるのか、原点を見つめ直す選考だろう。名古屋局については静岡県とは対極になる選考がなされたようだ。県では入賞すらしなかった開運が2年連続で首位賞に輝いた。全国の結果は顔ぶれから判断すると県と名古屋局の中庸に落ち着いた感がある。

 店頭では、金賞をとったからといってその蔵の酒をすぐに推奨できるほどお客様は甘くはない。あくまでも通常流通している市販酒が旨くなければ、こちらとしても仕入れは出来ない。以前は金賞受賞の事実だけで酒が売れた時代もあったが、今は、どの蔵のどのタンクが受賞したのか?米は?酵母は?という情報を含めての評価になっている。自戒を込めて言えば、そんな耳年増のような飲み方でよいのだろうか?とも思う。

 全国規模の鑑評会の存在意義とは全国的な基準があるということ。全国どこの蔵も同じような入賞酒づくりに励む今の状況は果たして健全だろうか?その全国の鑑評会が最上位で、次が国税局で、その下に県の鑑評会があるというヒエラルキーは打破すべきである。いっそのこと今のように広島に一堂に会する鑑評会はやめにして、地域ごとに分割した全国鑑評会を行えば、個性と地域性が出て面白い。どの地域に出品するかもフリーにしても良い。実現可能かは別にして、新潟の蔵が香り重視の地域鑑評会に出品して賞を取る…そんな図式があっても良い。したがって県が独自基準を決めるのは良いことだと思う。しかしその基準が一部の人たちの価値観だけで決められるのはいかがなものだろう。

 

●情報公開の大切さ(消費者の意見)

 今回の静岡県の審査は、市販酒レベルでという意見を聞いたが、どの蔵が市販酒で出品したのかわからないし、審査の基準もよく分からない。そもそも鑑評会は一般消費者を意識していない閉鎖的なものだと思うが、かといって、鑑評会が酒造りの技を磨き、その成果を発表する場であるという蔵元が現在どれだけいるだろうか。審査基準が変わっても金賞受賞酒や受賞蔵と銘打った酒を多くの蔵が出している。売るための手段になってはいないか。鑑評会を続けるなら審査基準や方法、その他の付属した検査などをもっとわかりやすく公開することができればよいと思う。嗜好品を審査するわけだから、より開かれた、閉鎖的でない鑑評会が望ましい。一般公開は売り手や飲み手に出品酒を通してその蔵の実力を知るよい機会だと思う。

 

●参考意見/当社が全国新酒鑑評会に出品しない理由(県外の某蔵元が取引先に向けた説明書より)

 今回より全国新酒鑑評会の主催者が国の機関である国税庁から、民間団体である独立行政法人に代わり、出品料を払えばどこでも出品することが可能になった。従来は地方国税局での審査が「予選」になっており、その予選を通過して初めて全国へ出品可能となったが、今年からどんな酒でも出品できるようになったということだ。実際、鑑評会の予審(一次審査)を通過できなかった酒の中には、およそ吟醸酒と呼べないレベルの酒もいくつかあった。出品点数が増えても出品酒全体のレベルが下がってしまうのでは意味がない。

 近年、鑑評会で優秀な成績を収めるため、カプロン酸エチルなど強い香りを作り出す酵母株を使用することが必須となり、そういう株が人為的な突然変異や株同士の交配などにより、全国で開発されている。香りが強い酒は、香りと味のバランスからすると、香りに対して負けない味の濃さが必要となる。その結果、華やかさを超えて鼻につくほどの香りと、甘みが強く、クドい味の酒が入賞酒の主流になってきた。香りの強すぎる酒は、最初にひと口ふた口は飲めてもだんだん飲みづらくなってくる。香りと味のバランスが取れ、後味のキレの良い酒は飲み飽きせず、次々と杯が進む。当社が目指す吟醸酒はもちろん後者である。

 そもそも鑑評会の目的は酒造技術者の技術練磨であったはず。誰が造っても香りが出る酵母を使い、およそ飲める酒とはかけ離れた味を酒を造ることにどんな意味があるのだろう。このような酒造りを続けて行けば、吟醸造りの技術自体が廃れていく。本来、吟醸造りは酵母の品種特性だけに頼るのではなく、麹造りなどの工夫で酵母の隠された能力を引き出し、香りと味のバランスを競うものだったはず。飲んでうまい酒、消費者に喜ばれる酒を造ることが蔵元の本分であり、様々な酒造りに対応できる技術の幅を身に着けるため、精進することこそが吟醸造りの本質ではなかったか。

 

 この日の参加者は、静岡県清酒鑑評会の審査員を務めた松崎晴雄さん、そして造り手8名・売り手6名・飲み手21名。こういうテーマを公開討論する場に、当事者である蔵元が8名も参加し、本音を語ってくれたというのは大変なこと。改めて読み直して冷や汗をかきました。河村先生は会の活動には直接かかわってはいませんが、間違いなく先生が火をつけた熱い熱いディスカッション。先生の大いなる遺産に相違ありません。

 先生が平成13年から導入した静岡県方式の審査は、先生が退官された後、従前の方式に戻りましたが、「静岡らしい香りと味のバランスのとれた酒」を評価する基準だけはしっかり残りました。その結果「県鑑評会には出品するが、名古屋局や全国には出品しない」蔵や、逆に「名古屋局や全国には出品するが県鑑評会には出品しない」という蔵も出てきました。ディスカッションで挙がった声が奇しくも反映されたといえます。

 

 静岡県の酒は、昭和61年の全国新酒鑑評会での大量入賞によって注目を集め、その後も良しにつけ悪きにつけ、鑑評会の成績が造り手や売り手のモチベーションに大きな影響を与え続けてきました。吟醸酒ブームが一段落し、品質評価を取り巻く環境が多様化した今の世代からすると、ずいぶん古めかしくカタっ苦しい議論をしているなあ~と思われるかもしれませんが、時代の変わり目に河村先生が投じた一石を、造り手と売り手と飲み手が受け止め、同じ席で真剣に考え、意見を交わしたこの時間は、決して無意味ではなかったと思いたい。こうと決めたら一心不乱に追究せねば気が済まない先生の職人魂のようなものが、我々にも乗り移ったかのように真摯に語り合い、吟醸王国の国民たる資格を得た・・・そんな気がしてなりません。

 先生の大いなる遺産、このささやかすぎるブログでしか発表の場がないというのは我ながら情けない話ですが、とりあえず今は、書くことが先生への供養になると信じることにします。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

河村先生への感謝

2016-12-09 23:24:21 | 地酒

 静岡県を吟醸王国に育てた最大の功労者・河村傳兵衛先生がお亡くなりになりました。

 先生の訃報に接し、直弟子のお一人青島傳三郎さんから「平常心で酒を造り続けることこそ先生への供養。私が酒を造り続ける限り、先生の魂は不滅です」と力強いメールをいただきました。青島さんが酒を造り続けるならば、私はライターとして書き続けるしかないだろうと、平成元年から始めた酒の取材資料を紐解き、古い手書きの原稿を見つけました。

 日付は平成元年(1989)2月12日。東京の酒仙の会が焼津の寺岡酒造場(現・磯自慢酒造)を見学し、たち吉で交流会を開催した際、講師に呼ばれた先生のお話を飛び入りで拝聴し、自分なりに書き留めておいたものです。この日が私にとっての酒蔵デビュー。磯自慢の蔵を観て河村先生の講演を聴くなんて、今思えばとんでもなく贅沢で恵まれたデビューでしたが、当時の私はその価値がよくわからず、講演中の先生のどことなく厳しい教育口調に恐れおののき、磯自慢の味はほとんど覚えていませんでした(苦笑)。

 資料ストックを調べ直すと、ほかにも先生の講演を自分で講演録としてまとめていたものがいくつか出てきました。当時使っていたワープロの感光紙に印字したもので、感光紙が経年劣化し、文字が消えかかった原稿もいくつかありましたが、後年、自分の言葉でつづった静岡の酒にかかわる記事は、先生の講演録を再三書き起こして頭に叩き込んでいたものがベースにあったんだ・・・と今更ながら気づき、胸が一杯になりました。

 

 この写真は、平成元年春ごろ、牧ケ谷の静岡県工業技術センターの研究室へ初めて取材にうかがったときに撮らせていただいたものです。先生は40代で現役バリバリの頃ですね。

 

 

以下に酒仙の会の講話を再録します。先生のドスの効いた?声で脳内再生してみてください。

 

 

品質勝負/河村傳兵衛氏講話より   

 

 「品質勝負」-。県内の酒造メーカーが生き残るにはこれしかない。それも個々のメーカーが良くても、静岡県全体のレベルが上がらなければ意味がない。銘醸酒の産地として、広島、熊本、秋田などと名を連ねるようにならなければ、ということである。

 そのためにはまず数をそろえる必要があり、数を作るには酵母のみならず、酒造り全体の総合力をつける必要がある。

 そもそも酵母は実験室の中で出来るからやり易い。その酵母をメーカーに振り分け、麹別に変える。しかしこれで必ずしもいい酒ができるわけではない。酒造りの最大のカギが麹にあるからだ。

 麹造りは、あるレベルへたどり着くまでが非常に難しい。さらに、他県の酒との差別化を図っていくには感性に頼るしかない。手で触り、眼で観て鼻で匂いを確かめて、五感のすべてを働かせる。それは官能の域である。具体的な数値などは後から付いてくるものだ。

 麹いかんによって、酒は自由自在に造れると言ってよいだろう。良い麹は酵母を選ばなくなるからだ。ここで言う理想的な麹とは、しまりのある凹む麹である。

 吟醸酒の代表県広島では、オデキのようにぶつぶつ浮き上がる麹が良しとされているが、仕上がった酒は酸度が1.5平均の重い酒である。広島に比べて丸く香りが高いとされる石川の吟醸酒で酸度1.3前後。一方、静岡のそれは1.0~1.1と低い。この酸度の低さこそが吟醸酒の本流である。事実、広島でも石川でも酸度をそれぞれ0.2~0.3ほど下げる動きを見せている。

 わが静岡県型の酒とは、淡麗でフルーティー、そして丸い。その特性は水にある。酒造りの際、水は米の10倍から100倍もの量を使う。静岡の場合、鉄分や有機物がほとんど含まれていない優れた水が豊富にある。これは大きな強みである。きれいな水と凹み麹から生まれる丸い酒ーこれこそが「品質勝負」を掲げる静岡の酒の理想の姿である。

 さて、毎年鑑評会で幾つ入賞するかが話題になるが、消費者の立場で見れば鑑評会用に造られた酒と市販に出回る酒とでは、品質の上でかなりの差があると言わねばならない。したがって、小売店が金賞受賞酒といって売り込んでも消費者を失望させるおそれがある。

 メーカーにとっては、消費者が認める酒こそが理想の酒なのだ。極端な話、金賞をとった酒はことわりなさい、ということだ。その年その年、賞に漏れた酒に思わぬ逸品がある。酒は生き物なのだから、メーカーも小売店もそれ相応の気持ちで取り組むべきである。

1989年2月12日 酒仙の会(会場/焼津たち吉)にて

 

 

 

 酒蔵デビューから8年後の平成8年(1996)、しずおか地酒研究会を作りました。そのとき先生から色紙を何枚か頂いたのですが、その中の「酒質は杜氏の心の軌跡である」という言葉が心に刺さりました。ライターとして、また地酒研という交流の場を通じて、自分の役割は杜氏さんの酒造りの心を聴くことであると。昨年上梓した『杯が満ちるまで』の第3章ー蔵元紹介を、会社のプロフィールや銘柄紹介ではなく、杜氏の人となりを軸に書いたのは、そんな思いの延長でした・・・。

 

 

 先生の訃報は、前回記事で、20年前の地酒研発足時にお世話になったことに触れた直後でしたので、一両日喩えようのない寂寥感に襲われました。でもこうして先生の言葉を読み返し、静岡吟醸を飲み直せば、本当に感謝の思いしか湧いてきません。静岡の酒飲みは先生にどれだけ幸せにしてもらったか・・・言葉に出来ない感謝の気持ちを、きっと、みなさんも共有されているでしょう。

 23日の20周年歳末感謝祭では、先生への献杯コーナーを設けようと思いますので、お時間のある方はぜひお立ち寄りください。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

しずおか地酒研究会20周年歳末感謝祭のご案内

2016-12-06 14:48:25 | しずおか地酒研究会

 今年3月から、20周年の記念行事を続けてきたしずおか地酒研究会。あっという間の年末です。20年前の12月には「年忘れお酒菜Party」と銘打って、新酒や熟成酒を集め、山田錦の玄米ごはんや地元農家のお母さんたちの手作りお惣菜を味わう忘年会を開催したことを懐かしく思い出します。

 20年目の今年は、10月に杉井酒造で生酛造り体験をさせてもらいました。

 12月5日に上槽、中旬に瓶詰されるこの酒に20周年記念酒ラベルを貼らせてもらい、好きな時間に誰でも自由に来てもらって気軽に試飲を楽しめるオープンパーティーを企画しました。お時間の許せる方はぜひ遊びにいらしてくださいませ!

 

 

 

しずおか地酒研究会 20周年記念歳末感謝祭

SAKE AFTERNOON PARTY

 

しずおか地酒研究会20周年歳末感謝祭として、地酒アフタヌーンパーティーを企画しました。10月に生酛造り体験をさせてもらった杉錦で20周年記念ラベル酒が完成。そのお披露目と、年末に出そろう各蔵の新酒を存分にテイスティングしていただきます。お気に入りのお酒はその場でお買い求めもできます!

場所は藤枝駅から徒歩10分のお洒落カフェ。テイスティングのお時間はたっぷり6時間設けましたので、お好きな時間にお立ち寄りください。スペシャルゲストのトーク、生演奏会、映像鑑賞も予定しています。

 

■日時 2016年12月23日(金・祝) 13時~19時

 

■会場 喫茶ラペ(藤枝市前島2-29-10-2 TEL 054-637-3511) 

藤枝駅南口より徒歩10分、駐車場有。HPはこちらを。


■入場無料 どなたでもお気軽にお立ち寄りください!

 

○来場者全員にしずおか地酒研究会20周年記念酒 1杯サービス。

○県内蔵元の新酒&冬のおススメ酒の有料試飲できます。

○記念酒&お気に入りのお酒はその場でお買い求めできます。

○ラペ特製酒肴(有料)、こうのもの和ピクルス(有料)、巨大胚芽米カミアカリのおにぎり(有料)ご用意します。 

○お車のかたにはラペ自慢のコーヒー&ソフトドリンク(有料)をどうぞ。 

○静岡新聞社刊「杯が満ちるまで」(鈴木真弓著)、日本経済新聞社刊「ロジカルな田んぼ」(松下明弘著)サイン即売会します。

 

イベントプログラム タイムスケジュールは変更する場合があります

1315分~1345分  20周年記念酒&志太美酒20年を語る/杉井均乃介氏(「杉錦」蔵元杜氏)


1345分~1430分  コントラバス独奏会~酒造り唄を奏でる/土田 卓氏(コントラバス奏者)


1530分~16時  映画「カンパイ!~世界が恋する日本酒」配給秘話&ミニシアター経営の面白さ/川口澄生氏(静岡シネギャラリー副支配人)


16時~1630分  ドキュメンタリー「吟醸王国しずおか」パイロット版&フォト集「杯を満たすまで」鑑賞会


17時~1730分  松下米の20年&カミアカリおにぎり試食会/松下明弘氏(稲作農家)   

 

 

協力  喫茶ラペ、エマギャラリー、ときわストア 

■主催・問合 しずおか地酒研究会(鈴木真弓) mayusuzu1011@gmail.com

 

 

 20年前、まだ「地産地消」という言葉もなかったころ、地域の酒や食の価値を理解してもらうために、まずは口コミリーダー的な人たちに丁寧に紹介することから始まった活動。案内は郵送やFAXで送らなければならない時代で、氏名・住所・勤務先の情報が必要だったため、やむをえず会員制を取ったのですが、今やネットを通じて気軽に幅広く情報発信できるようになり、会員と非会員を区分する必要もなくなりました。会長や役員や会則があるわけでもなく、言い出しっぺの自分が思い付きで企画するものを、そのとき手伝ってくれそうな人に声をかけ、参加していただけた人とご縁をつなぐ・・・そんな緩~くニュートラルな体裁をとってきました。20周年の歳末感謝祭も、その日に時間が許せる方と、ゆるゆる楽しめたらなあと考えています。

 20周年記念酒が完成するタイミングを考えたら、この日しかないという12月23日。たぶん多くの皆さんがクリスマス行事や忘年会の予定がおありだと思います。会場をお願いした喫茶ラペさんも、本来ならば稼ぎ時で、オーナーさんからしたら内心はた迷惑な話だったと思いますが、私自身、以前からこのカフェのシンプルかつ清潔な雰囲気が好きで、駅から徒歩圏内ということもあり、ここで酒の会が開けたらなあと憧れ、無理なお願いを聞き入れていただきました。

 オーナーさんも、やるからには店として恥ずかしくないものをお出しし、お客様に喜んでいただきたいと、特別メニュー&スタッフを用意してくださることに。記念酒の試飲や販売、トークセッション、『吟醸王国しずおか』パイロット版上映など自分が勝手に思い付いたプログラムを、ラペさん&多くの会員&ゲストが利益度外視で協力してくださり、実現の運びとなりました。感謝の言葉もありません。本当にありがとうございます。

 

 思えば20年間の活動も、シンプルに、地元で顔が見える距離にいるんだから「造り手・売り手・飲み手の和」を広げていこうと、さまざまなきっかけづくりを愚直にカタチにしただけのこと。酒との出合いに資格や条件は必要なく、知識や情報も押し付けられるものではなく、呑み手には、ほんの少しの好奇心と、きっかけ&タイミングが合えばいいんだと信じ続けてきました。反面、造り手や売り手の業界事情がよく見えず、周囲の人を散々振り回し、ご迷惑をおかけしたことも多かったと思います。

 年齢を重ね「足るを知る」ことを学び、自分の身の丈に合ったもので持続可能な活動を・・・と願いつつ、「こういうことをやったらみんな喜んでくれるだろうなあ」と欲張って、ついつい無理をしてしまいます。

 20年前、身の丈以上・分不相応の背伸びをして会を作ったとき、支えてくださった栗田さんは亡くなり、河村先生は第一線を退かれ、造り手や売り手も世代交代が進み、発足当時を知る先達や仲間は少なくなってしまいました。そんな中、今年の20周年の活動は新旧の酒縁者が、目的はさまざまでも一致協力してくれました。あらためて、地酒には地域の人をつなげ、まとめ、動かす力があるんだなあとしみじみありがたく思います。

 

 この先、今までのように個人の思い付きで周囲を振り回す活動が続けられるとは思えず、20年で一区切りかな、とも思っていますが、ある読者から『杯が満ちるまで』の巻末に書いたこの一節にとても共感した、という感想をいただき、自分でこう書いた以上、何かしら続けていかねば、とも思っています。

 

 蔵元と杜氏が足並みをそろえ、静岡らしい酒質の向上に汗を流すー30余年前に吟醸王国建設に臨んだ先達の「いろは」を、彼らはしっかり受け継いでいる。時代を共有する我らも、次の世代の呑み手に静岡の酒の味をしっかり伝えていかねば、と思う。

 

 とりあえずは20周年アニバーサリーの総括となる12月23日。どうぞよろしくお願いします!

コメント
この記事をはてなブックマークに追加